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勝てば官軍

侯爵家の遣いと伯爵家の影が伝令でやってくる。報告を聞いて呆れた。


「ねえ、馬鹿なの?」

「頭痛がするよ。」

「あなたの身辺がばれるのは時間の問題だし、辺境伯が国家転覆罪にかけられる可能性も考えなかったとは言わないけど。」

「次は俺の家か。」

「地方の要の辺境伯と武の要の侯爵家を敵に回すなんて何を考えているわけ?」


何も考えていないんだろうな。3人の考えが一致する。


「馬鹿なんだろう。」

「陛下はなぜ止めないのか。」

「それは、やはり昔戦争でご家族を失っているからだろう…国家間の騒動では冷静じゃなくなる。」

「辺境伯が機能できなくなれば、容易に攻め込まれるわね。」

「兵を出さなくても反逆者、兵を出して身を守ったところで今度は命令違反を食らうってか。」

「辺境伯の独立権限…あったわよね? 有事の際は、国に許可を取らなくても兵を出せるってやつ。」

「あるにはあるが…この情勢でそれを行使できるとは思えない。」

「どうあがいても国家転覆罪だ。」


レオはソファにだらんと体を倒す。リードは報告書の端から端まで眺めているが、顔は険しい。


「レオの領地もそうだけどうちの領地が止められるのはまずいな。うちだけでこの国のどれだけの兵力を誇ると思っているんだ。」

「上手くやったわね。敵ながらあっぱれだわ。」


地図上のMのカップを指ではじく。カップはころころと転がって床に落ちた。ソファに寄りかかり、持っていた書類に視線を落とす。誰も何も言わない。かなり行き詰っていた。


捕えられている2人の領主の心配をしないわけでもないが、領主の罪はかなり長い時間をかけて調査される。侯爵と辺境伯なら猶更だ。秘密裡ならともかく、各領主が集まっている今の王宮で消されることはまずないと言っても支障はない。逆にそれがまかり通ってしまったならば王家が断罪されるだろう。


この先のシナリオ、セオリーで行くならば。まずこの2人の捕縛だろう。そしてその2領と親しくしている我が領地にも手が伸びてくる。


「おそらく…次はシアの家だろう?」

「この3家を離反させたらそれこそ内乱じゃないか?」

「内乱を起こさせて、隣国が攻め込んでくると?」

「その前に俺らの領地を取り込もうとしてくるんじゃないか?」

「なるほど。仲間になるか、自国と戦争になるか選べって?」

「うーん。というより、裏切られていることを情報として与えて救いの手を伸ばしてくるんだ。手を取れば丸ごと手に入るし、もし手を取らなくても自国と戦争になって疲弊したところを乗っ取るんじゃないか?」

「どちらにせよいい所取りってわけね。」


Wのカップを上にしてすべてのカップを重ねる。


「マリアは内乱の火種ね。婚約破棄が至る所で起きれば貴族の権力分布は乱れるどころじゃない。」

「それも、どちらが悪いのかはっきりした婚約破棄ならな。」

「娘を傷物にされた父親の怒りは大きい。」

「あれが成功していたとしたら今頃、内乱が起こっていたかもしれないわけね。」

「王家がすぐさま対処したのは、それを懸念したから。」

「各領主が表面上は事を荒立てなかったのはその懸念をしっかり理解できていたからだろう。」

「何らかの補填はあっただろうけど。」


そこらへんは推し量るしかないのだ。


「それに、俺とシアの婚約が流れれば、長年の計画がとん挫しかねない。」

「シアと俺の父親が本来はどういう意図で破棄後婚約を結ぼうとしたのかはわからないけれど。」

「最悪、王家と縁を切るつもりだったのかもしれないわね。最初はともかくお父様が、我が領主が王家の思惑に気づいてないとは思えないもの。」

「辺境伯が味方に付けば余計な手出しはできなくなる。辺境伯にとっても食糧供給の面でメリットがある。」


今の問題はそこではない。


「でも、今の状況ってある意味好都合かもしれない。」

「領主が人質に取られているこの状況が?」

「この事態をきちんと収める舞台がすでに用意されているってことよ。」


力強く言い切る彼女に一瞬止まった。


「君の、その前向きさは本当に感動する。」

「ほめてないわよね?」

「ほめてる。ほめてる。」

「ああ、最大限の誉め言葉さ。」


「まあいいわ。勝てば官軍っていうでしょう?」


私のにんまり顔を見て彼らも笑った。誰もかれも悪い顔をしていた。

やっぱり、それくらいじゃないとね!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。 [一言] タイトルから想像すると、恋愛に重きをおいた話だと思ったのですが、まさか、国の命運をかけた話にいくとは思いませんでした。 影の人キャラが立ってる。モブがいいキャラで…
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