2.言いづらいこと
「スーさん、圭吾、あずさちゃん。来たぞ~」
「おはよう!」
佐藤君だ。
背中には数日分の服が入りそうな大きなリュックサックを背負っている。
「一人?」
「あ~、まぁうん。そんな感じ」
何やら歯切れの悪い返事だ。視線も真っすぐではなく、右へ左へと所在なさげに漂っている。
「どうかした?」
「それでさ、その。なんというかチャットだとちょっと聞きづらいことがあったんだけど……」
「? どうした?」
柏木君が首をかしげると、佐藤君は何かを悩むように口を開いては閉じてを繰り返す。
けれど三人揃ってじいっと見つめ続ければ、悲しげに目元を下げながらポツリと言葉をこぼした。
「神田ん家のばあちゃん、足が悪くてさ、杖ついて歩くのもやっとで普段は車椅子に乗ってるんだ。それで昨日は避難所の近くの小学校に避難してたんだけど、夜の一件で色々あってさ、追い出されちゃって……。神田は家で守るっていうんだけど、あいつんちまだ弟小さいし、弟だけでもうちで面倒見ようかって提案してみたんだけど、こんな時にさ、家族が離れたら不安じゃん? だから……その……」
『夜の一件』というとやはり、モンスターが変化したことだろうか。
僕達は上手く切り抜けることが出来たけれど、それはやはり柏木君とあずさちゃんの力が大きい。
それにただでさえこの非現実的な状況で、昼間の短時間だけでもモンスターが入ってこない場所に居続ければ、ここは安全地帯になったのだと、自分は安全なのだと安心しきっていた人も多いだろう。
危険と対峙して、不安になれば自ずと防衛本能が高くなる。
誰よりもまず自分を守ろうという意識が他人の排除へと繋がったのだろう。
神田君のおばあさんがいた場所でどのくらいの人が追い出されてしまったかは分からない。佐藤君の話からすると大方、戦闘に不向きな人が追い出されてしまったのだろう。
身を守ろうとする気持ち、不安な気持ちが分からない訳ではない。
けれどあくまで『避難場所』はみんなのものだ。自身の感情で他者を排斥していいはずがない。
「なら、ここに連れてくればいいんじゃないか?」
「え?」
「いいよな、スーさん」
「もちろん!」
僕はすぐさま頷いた。
だってここも『避難場所』なのだから。
困っている人がいたら受け入れる。
その準備は万端とまでは言えない。まだまだ足りないところだってあるだろうし、工夫しなければいけないところだって今後出てくるはずだ。それでも手を広げて受け入れることくらいは出来るのだ。
柏木君は「なんだ、そんなことで迷ってたのか!」と身体を大きく伸ばしてみせた。そして次に屈伸をして足の筋肉を伸ばした後で、よし! と気合いを入れる。
「じゃあ今から神田ん家行くか! 場所分かんないから佐藤、案内してくれよ?」
「え、あ、ああ!」
佐藤君は柏木君の切り替えの早さに驚いたように目を瞬かせる。けれどその瞳はどこか嬉しそうだ。すぐに大きな荷物を保健室の長椅子に置くと、自分の武器であるタオルを手にする。
「あずさはスーさんとお留守番な。出来るか?」
「大丈夫!」
「そんじゃあ行ってくる!」
「行ってらっしゃ~い」
軽い足取りで出て行く2人を、僕達は校門まで見送った。




