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神の継承者  作者: 夢世操
Student
30/45

This side

 今日の天気は曇りである。実に心地の良い天気である。ルドは駐車場で体を伸ばし、座りっぱなしでこわばった筋肉を解しながら、ルドは学校の入り口へと歩いていく。もちろん隣にはいつもの彼女が一緒である。

「相変わらずこの時間帯は全然人、いないですね」

 ルドの伸びが終わるころに話しかけてきたのは、同僚であり毎日一緒に学校に通勤している、【アリサ・ソヨヤユ】である。

「面倒ごとが少なくていいことです。まあでも、いい加減、火種も小さくなってくると思うんですけどねぇ」

 彼としては何も(やま)しい事が無いというのに、こんな風にお忍びみたいな事をしているのが少し面倒であった。だから、そろそろ普通の時間でもいいのでは?とも。しかしよくよく考えてみると、もう身についた生活習慣を無理やり今から変えることの方が面倒であることに気づいた。結局このままで通すしかないわけだ。今思えば、この行為はなおさら怪しさを増す行為であったことは疑いようもない。

「ははは、でも確かに今は別段面倒ごともありませんよね」

 彼女はいつものように柔らかく笑って、校舎へと入っていく。彼女はそのおとなしそうな見た目とは裏腹に好奇心に満ちた性格である。それは、一年近く近くで見てきたルドにはよく分かることであった。

 ルドも続いて校舎に入ると、彼女は学校に入って()ぐの場所にある掲示板を見ていた。

「どうしました?」

 ルドが近づいてみると、そこには学校の武道大会のポスターが張られていた。

「あ————、もうそんな時期ですか」

 ルドは勿論この行事についてよく知っている。長い事この学校にいるのだ知らないなどという事は決してない。

【武道大会】一部の生徒の間では喧嘩祭りと呼ばれているこの催しは、年に一度、学校に慣れ始めてきた二の月(日本でいう五月)中旬に開かれることになっている。内容はいたって簡単、腕自慢がこの大会に応募して、トーナメント形式で戦わせ、最後まで勝ち残ったものが優勝となる。一応、生徒たちの祭典の為、万一にも怪我が無いように防具は万全に装備させ、採点基準のある”採点方式の試合”が行われる祭りである。

 因みに何故こんな祭りが開かれるのか、であるがそれはこの国が戦力を持てないことに起因している。万一の時に武器を持てないのは実に厄介な状況である。そこでこの国では自分の子供に武術を習わせる傾向が強い。実際に学校の授業で武道の授業があるほどである。そしてこれは、教師にも関係する競技でもあるのだ。

 教師は教師で希望者はこの大会に参加はできる。勿論生徒とは分けられるが、教師同士の対戦の場は用意されているのである。これにも一応名目があり、生徒にもしもがあったときに頼ることができる教師の判断材料になったり、それで世間に対するアピールになったりする。つまり、教師も戦えなくてはいけない時代(国)なのだ。

 当然ながら、ルドはこれに参加したことはない。ガリグは部活の顧問な手前、毎年出場してはかなりいい成績を残している。それも、負けるときは大抵相手が武器を持っている場合で、素手勝負ならおそらく教師中最強だろう。さすがに武器持ちに素手で挑むのは無謀である。それでも勝率が半分を切っているという事はないだろうから、かなりのものだ。

「今年は先生、出場するんですか?」

「いえいえ、(いろいろと)面倒ですし遠慮しますよ」

 アリサは興味深そうに、ある意味で期待に満ちた目でこちらを見てくれたが、ルドは今のところ出場する気はない。

「うーん、興味あるんですけどね」

「残念でしたね。まあ、そうせざるを得なければ出場はしますが」

 このルドの言葉の後に続くのは「まあ、ないでしょうが」である。

「確かに少し残念ですね……」

 アリサは本当に残念そうである。それに苦笑しながら、ルドたちはポスターから離れ、歩き始める。

 この時は二人とも、自分がこれに関わることになるとは思いもしなかったのである。


 ————


 放課後、ルドはいつものようにアリサとともに彼女の車に乗っている。いつもと違うのはその中に普段はいなかった少女が乗っているという事である。少女はどこか嬉しそうな、また同時に不機嫌そうな顔をしている。肩の辺りでまとめられたおさげはサラサラで、少し彼女が動くだけで連動して揺れた。そして彼女はなぜか今も、飴玉を口の中で遊ばせている。

「テルフィ、親父さんは直接来ると言っていたんだよな?」

 ルドが話しかけると、彼女は嬉しそうに受けごたえをする。

「はい、でもお父さんは今、ルドさんたちに頼まれた仕事(・・・・・・)で忙しいらしいのでもしかしたらいけなくなるかもしれないと、言っていました」

「マフニさんも結構なことするよな……」

 ルドは誰ともなく呟いた。

 彼女の父はある会社の社長である。基本的に工業品を生産する工場の管理を行っている、らしい。しかし、ある事件に巻き込まれたことによって、現在はルドたちの組織にその会社ごと組み込まれ、結果現在はその仕事を中心に行っているようだ。因みにその娘であるテルフィはその事件に関する概要は詳しくは認識していない。

「しかし、初めてですよ、先生に加えて他の人を自分の車に乗せたのは」

 アリサはどこか感慨深そうに、そしてどこか恥ずかしそうに笑った。

「……先生、友達いなさそうですね」

 そんなテルフィはどこかつっけんどんとした口調でアリサに言う。どうにもこのテルフィという少女はアリサに複雑な感情を抱いているようで、アリサとは正直相性がいいとは思えない、というのがルドの感想だった。

 自分がその原因であるとは夢にも思わないルドであった。

「そ、そんなこと……あるか」

 しかし、アリサは年の割には随分と大人な性格である。ちょっとやそっとの事で()きになるような心の狭い人間ではなかった。むしろ、テルフィの嫌味も簡単に受け入れてしまったようだ。

 別にショックを受けているようにも見えないので、ルドは別にフォローもせず、

 窓から外の景色を眺める。下に見える街並みはやはり、ここが海底であることを忘れさせるような、そんな景色であった。


 目的地はルドの家。正確にはその地下室である。車をアリサの家に停め、そこから歩いてルドらは家まで歩いていく。近所なだけあって別段苦労はないのだが、若い男一人がこれまた若い二人の女性(特に片方は制服を着た学生)を連れて歩くというのはいささか目立ったかもしれない。堂々としていれば普通は何ともないのだが、まあ、もしかしたら面倒な奴はいるかもしれない。例えばこんな風に。

「あら、ルドさんじゃないの~、どうしたのぉ?かわいい子二人も連れてぇ」

 勿論ルドには声の主が誰なのか良く分かり、おそらくアリサも誰だか分るだろう。家の玄関に座って黒い大きな鳥に何かをあげていた赤髪の少女は、いかにも揶揄(からか)ってやると言わんばかりのニマニマ顔をしている。

「メメヤ、一応近所の人の目もあるんだ、外出は控えろとあれほど……」

 彼女……メメヤは、黒鳥のクロウに餌をあげるのをやめ、立ち上がった。クロウは物足りないのか彼女の肩に止まったままベシべシと片足でメメヤの肩を連続で小突いていた。

「ちょっとくらいいいでしょ、それに暇だし」

 全く動じないメメヤは、ルドと話しながらもクロウに餌の残りをあげ、そのまま家の中に入っていく。家に入る直前にクロウは彼女の肩から飛び立ってどこかに行ってしまった。チラと見るとその脚には白い紙が巻き付けられていた。

「ほら、早くしなよ、時間はあんまりないんだから」

 一瞬振り返ったメメヤは、まだ機嫌があんまり良くないように見える。

「まだレチユさんが来てないんだが」

「彼なら少し前に来たよ」

「あ、そう、じゃ行くか。二人とも入ってくれ」

 こうしてルドは自分の家に二人を招き入れた。


「こんにちはレチユさん、あの時以来ですね」

 中に入るとリビングルームで一人、中年の男が待っていた。彼は【レチユ・ルミエ】テルフィの父親であり社長のルドが待ち合わせていたその人である。

「ああ、久しぶりだな、あの時は助かった」

 ルドとレチユは互いに握手をして、手鹿な場所に座る。それに続いて、その場にいる全員が何らかの形でそこに座った。

「今回、皆さんに集まって貰ったのは他でもありません、あなたの————あーー……」

 前置きを置くのも面倒になった為、さっそく本題に入る。

「————面倒なんで、最後確認をしますね。こちら側に来るという事は今までの日常を失うという事です。それでもかまいませんか?」

 本当に適当な質問である。ただ、それ故にちゃんと理解していればこの質問を聞き返すことはない。この質問は本当にまんまの意味を持っていた。

「ええ、いいですよ。元からそのつもりです」

 真っ先に応えたのはテルフィだった。親の心子知らずというかレチユは嬉しそうにはには見えない。ただ、反対することはなく、その代わりレチユも日常を失うことを承認した。

「問題ない、他に道がないようなものだしな」

 残るはアリサだが彼女も迷ってる様子はなかった。

「私も、問題ありません」

 皆、即答だった。

「よろしい、ここで迷われるよりは何倍もいい」

 ルドとしても別にここで断られるとも思っていなかった為、詰まることもなく話を順当に進める。

「さあ、ようこそこちら側・・・・に、ここは君たちの知る世界とはかけ離れた場所だ。まずは自己紹介からしよう。私の名前は【ルド・リューラ】ま、もう君たちは知っているだろう。この場では私は君たちの教育係としてふるまわせてもらう。そして君たちの二人目の教育係となるのが彼女だ」

「【メメヤ・コルヤノ】。そいつが言ったようにあなたたちの教育係にさせられた・・・・・わ。やる以上は徹底的にやるつもりだから……覚悟しておいてね~」

「さてまあ、お堅い挨拶は置いておいて、さっそく移動しようか」

 ルドとメメヤは自己紹介を終えたところで早速立ち上がり、移動を開始する。なにぶん放課後だと時間が少ない。

 地下室の扉を開け、灯りを付ける。階段があり、その奥の部屋は一般人の住む民家とは思えないような、つるつると光る大理石のような素材でできた床が広がっている。ルドはもう見慣れたものではある。

 後ろからついてくる三人は先に歩くルドとメメヤに従っておっかなびっくり歩いている。


 そこは、以前ルドが来た時よりも広くなっていた。いや、正確には広くなっているように感じた。

「いやぁ、なんだこりゃ」

「何?なんか文句でも?」

 メメヤが不機嫌そうにつぶやいた。そりゃあ広く感じるのだ、何せ、いつもは彼女の広げていた機材などがすべて片付けられていたからだ。

「やる気満々じゃないか」

 ここぞとばかりに、ルドはテルフィを揶揄い始める。

「壊されると困るから片付けただけ」

「む、そりゃそうだ」

 結局ルドもいつも通りだったわけだが、メメヤもルドと同じようにその手には乗らないと、そういう事だったのだ。

「さて、君たちにはまず、初歩的な能力の使い方を覚えてもらう」

 部屋に全員が揃ったところで、ルドは彼らに向き直ってメメヤがどこからか持ってきたアタッシュケースの中身から手のひらにすっぽりと収まる程度の大きさの機械を三つ取り出した。そしてそれをそれぞれに手渡す。

「これは、能力の初歩”能力の解放”を補助する機械だ。まあ、能力解放の面で言えばテルフィは必要なさそうだけど一応渡しておくよ」

「これは、どうやって使うんですか?」

 アリサが機械を手の平の上で転がして、首をかしげて訊ねてきた。

「それはメメヤに聞いてくれ、という訳で説明」

 メメヤは笑顔と共に話始める。

「これはさっきこいつが言ってた通り、能力の解放を補助する装置だよ。でもねぇ。実際はそんなに便利な代物でも無くてね~、解放はしてくれるんだけど、コントロールは出来ないわけ。そういう風に作り直すことは不可能でもないけれどさ、少なくともあと五年は欲しいよね」

 ルドには、この装置の開発を1年も掛けずに終えたメメヤが改良程度で五年も時間を掛けるとは思えなかった。それ故に考えられるのは、元々やる気が無い。これに尽きる。

「ま、それは置いておいて、使い方は至って簡単、スイッチのオンオフ、ボタンの一つを押すだけ、やったー便利〜ぃ」

 確かに便利ではある。裏を返せば、本当に能力の"解放"以外の機能がないということでもあるのだが。

 正直これだけの説明なら、わざわざメメヤにやらせる意味もなかったとルドは少しだけ、思った。

「とまあ、そういう事だ。能力のコントロールに関しては我々が"教える"事になっている。安心してくれ、暴走して戻ってこれ(・・・・・)なくなる(・・・・)なんて事はまず起こらないはずだ」

「今さらっと、とんでもない事言ってますよね?」

「まあ、そこら辺も含めて最後確認だったんだろ」

 ルドの曖昧な言葉を聞いて、アリサとレチユと言った常識ある大人達は、諦念にも近い雰囲気を醸し出して話していた。

 それに引き換え、テルフィはと言うと見事なもので、本心ではともかくもその事に対しては全く言及しなかった。

「私はもう、ある程度コントロールできるのですけど、その場合はどうするのですか」

 最もテルフィに関して言えば、彼女が既に能力をコントロール出来ているからこそだろう。彼女の質問は少なからず親であるレチユや、教師であるアリサよりも経験面で上回っているということを示していた。

「その装置にはデータ収集の機能もあるから、取り敢えずは装着してもらうことになる。後はそうだな、少しこちらの指示に従ってもらうことになるかな。問題があればそれを直してもらうことになる」

「分かりました」

「他に質問は〜?無いね〜?それじゃ早速、始めようか〜」

 メメヤはそう言って、ルドを連れ立って彼女達から離れた。

「いい?合図と共にスイッチを押すんだよ〜?ちょっとでも"マズイ"と自分で感じたらスイッチを切るんだよ?」

 それが出来るのが実際は一番いいのだが、現実はそう甘くないだろう。最悪力尽くで止めることになる。その為にメメヤが持っているのは遠隔停止スイッチな訳だが、能力によってはその機能が働かなくなる事も考えられる。その時は本当に力を尽くす他ないだろう。

「はいは〜い、両手拡げてぶつからない様に展開してね〜」

 何やら体育の授業じみたことをし始めたメメヤを尻目に、ルドはこの最初の試みがどうなるのかを注意深く見る。

「拡がった〜?はい、それじゃ装置を耳にかけてね〜?……それじゃいくよ〜、せーの!」

 メメヤの適当な掛け声と共に三人が装置のスイッチをほぼ同時に押した。同時に、三人の周囲に大量の黒い霞が漂い始め、そこに何らかの改変(・・)が起こっている事を知らせた。

「解放自体は成功と見ていいな」

「そりゃぁ、そうでしょ、私が造ったんだから。でも、問題はここから」

 メメヤの言う通り、問題はここからだろう。何が起こっても不思議じゃない。ただ、ルドの見立てだと、三人の能力が直接の殺傷性をもたらす事は無いと思っている。懸念があるとすれば、異能力による身体への負担だが……。

「……っ、あぁ!」

 突然、悲鳴を上げてアリサがその場に跪く。目元を手で覆っていて、頭を抱えるようにしている。

「……メメヤ、止めてやれるか?」

「出来るよ問題無し、他の二人は?」

「テルフィは自分でスイッチを切ってるな、レチユさんは……あぁ、今スイッチを切った。フラフラしてるが大丈夫だろう」

「じゃあ、問題はアリサちゃん(・・・)だけね」

 ルドとメメヤは確認を終え、アリサの状態を見る為に動き出した。

「……アリサ先生、大丈夫ですか?」

 ルドは肩に手を添えて声を掛けた。

「…………はい」

 か細いながらも返事は返ってきて、取り敢えずは溜まっていた息を吐く。

「何か体調が悪くなるようなことが?」

 彼女はフラフラしながらも立ち上がり、眉を顰めた。

「……はい、何か、急に目の前が……何て言えばいいのか……」

 言葉に表すのが難しいらしく、アリサはそこで言葉に詰まった。頭痛でもあるのか今は右手で頭を押さえている。

「なれない能力の行使で身体に影響が出ているのでしょうね、おそらく一時的なものだとは思いますが」

 他の二人に彼女のような症状は見られないため、装置によるものではないと思われるが、レチユにテルフィが血の繋がりのある親子なこともあって正確なことは分からない。もしかしたら血筋が影響している可能性だってあるのだ。例えば異能力に耐性がある遺伝子があったり、逆にめちゃくちゃ弱い遺伝子があるかもしれない。何にせよそれを調べるにはあまりにもサンプル(・・・・)が少なすぎる。異能力の馴れない解放による副作用というのが間違っているとも言えないのも難しいところである。

「とりあえず一休みと行きましょう、少し休めば考えがまとまるかもしれませんし。そうだな……メメヤ、この部屋に何かいい感じのものないのか」

「…………コールドスリープ装置なら、ほらそこの隅にあるよ」

「なんだ、その聞くからにやばそうな機械」

「後は人数分の椅子くらいだよ?」

「……それでいいんだよ」

「あ、そうなの?ほ~い」

 彼女は適当な掛け声とともに、指を鳴らす。するとどこからともなく四つ脚の椅子が三つ現れ、地面に落ちて乾いた音を立てた。さりげなく行われたが、これが彼女の異能力である。

「造るのな」

「手っ取り早いしね~」

「そうかい。さ、どうぞ座ってください」

 ルドはアリサに向き直り椅子を勧める、テルフィとレチユにも椅子を渡し(そんなに重くないので)好きな位置に座らせた。

 メメヤとルドを除く全員がいい感じに座ったところで、ルドは一人一人の顔を見ながら全員に問いかけた。

「初めて装置を使った感想はいかがです?」

「すごい倦怠感ですね……何て言うか、初めての時と同じくらい」

 テルフィは自分で異能力をある程度コントロールするだけあって、その感想も前回の時を踏まえたものであった。

 さすがに能力を無理やり使えるようにする装置なだけはある。経験者であるテルフィでもこれなのだ。他の二人はもっと酷いことになっているだろう。

「この感覚……あの時と同じだ」

 レチユはレチユで何か感ずるものがあったのか、目を白黒させている。

「あの時とは?」

 ルドは先日の一件の時の事かと思ったがどうも違うらしい、少し言い辛そうに娘のことを横目で見ている。

「あんたらに制圧された時だよ」

 どうやら、ルドが異能力を使って彼とその部下たちを制圧した、トリの事務所襲撃の時の事らしい。確かにそれは娘の前では話しにくいだろう。というより知られてしまうのは都合が悪すぎる。

「あの時の事ですか、言われてみれば確かに」

 ルドは彼が娘にそのことを知られるのは都合がよくないと考えているが、それはあくまで計画の妨げになる可能性を考慮してのことだ。実際に話すかどうかは、レチユが決めることであると考えていた。ルドのように最早個人の心境を考えることをほとんど止めてしまったルドにはそういった場面での判断に弱かった。したがって、彼がいつ自分の娘に自分たちのしていたことを暴露しようとルドは構わないと思っている。

「アリサ先生も酷く具合が悪そうだし、やっぱりこの装置は運用には無理があるという事か」

「そんなの分かり切ってたじゃん、というか、そういう風に造ったんだよ」

 メメヤは装置を一度回収し、データ回収を行っている。何のデータを取っているのかは正直ルドには分からない。

「分かってはいても、さ」

 ルド的にはもう少し具体的な変化が現れることを期待していたのだ。今まで様々な能力者とあってきたが、彼らは全員、自分たち自身で能力に気が付き、使いこなすようなテルフィのような存在だった。今の、常人に異能力を使えるようにしようという試みはルドにとって、初めての経験であり、その想像を超える難儀さに頭を抱えている。

 同時に本人も気が付いていないが、ルドはやりがいも感じていた。しかし、久しく感じていなかった感情であり、まるで初恋に落ちた少年のように、わずかにあるこの充足感の正体を今のルドには、認識することすらできない。

「あの……」

 アリサが遠慮がちに声をあげ、全員が彼女に視線を向ける。

「なになに、まとまった~?」

 メメヤが端末の画面を睨みながら先を促す。

「はい、大したことではないんですが」

「どんなことでもいいですよ。今は何が失敗の原因か探る必要がありますからね」

「頭痛が酷いです。耳鳴りもあります。しかも装置を使ったときに急に現れました。一瞬、視界がいろいろなものに覆いつくされたまでは覚えているんですが」

 アリサはそこまで言って口を閉ざした。彼女は優秀なだけあって状況をうまく説明している。

「なるほど、能力行使による副作用の線が濃厚になった訳だ」

「脳処理が追い付かなくなったのかな~っと」

 メメヤは端末を操作しながら、いかにも適当な感じで呟いた。

「異能力なのに体に直接影響が出るんですか?」

 テルフィは訝し気にルドに訊ねてきた。

「そうだなあ、事前に説明した通り、この力はそこまで便利な代物じゃあないんだよ。細かい話は省くけど、所詮、生物が使う能力である内はその能力の範囲以内でしか異能力は使うことはできない。ただそれだけなのさ」

 ルドの説明ははっきり言って分かりやすいものではない。だが、分かりやすくしようとすると能力の原理すべてを説明することになりかねない為、これ以上深くまで説明することは絶対にしない。

「よし、再開するか、と言いたいところだけど、この状態じゃ訓練なんてやってる余裕ないよな」

「ほんとの意味で一休みくらいの時間しか休んでないけどね~。まあ、同感ではあるけど?」

 メメヤの言う通り、彼らがほとんど休んでいないのはルドにも流石に分かっていた。ただ、今からどれだけ休んだところで大して回復しないだろうことをルドは知っていたので、今日は別の方向にもっていくことに決めたのだ。

「今回はもう能力の解放は無理だろうから、少し異能力というものを見てもらおうと思います。テルフィも他の能力者なんて殆ど見たことないだろうし、見ておいて損はないと思うしね」

「ルド先生が見せてくださるんですか?」

 テルフィが食い気味に尋ねてくる。不自然なほどルドに愛着があるらしい彼女には悪いが、今回はそうはならない。

「いや、俺の力は”見せる”のには全く適してない。むしろ最悪なレベルだ。だから今回はメメヤにやってもらう。と言っても、さっき椅子出したりしてたがね」

 ルドの異能力は目に見えない。それ故にこういう場面では役立たずである。いや、実際使える能力かと聞かれたとしても”否”と答える他ないのだが。それほど、ルドの能力は特殊であった。

「そうですか……」

 目に見えてテンションが下がる……という訳でもなかったが、少しはがっかりしているようである。だが、今回に関しては確実にメメヤの方が適任なのだ。こればかりは揺らぎようもない。

「という訳だメメヤ、頼んだ」

「事後承諾なのね~、まあいいけどさぁ。あんまり減るものでもないしねぇ~」

 少しの小言はあるようだが、それでも引き受けてくれる当たり、メメヤも悪い気はしていないのかも知れない。

(そりゃ、何年も地下にいれば退屈にもなるか)

「はーい、せっかくだから注目してね~」

 テルフィは皆が座る場所から少し離れた場所に立ち、言葉だけなら気だるげな声をあげた。アリサも頭痛は良くなってきたようで、ちゃんとメメヤの方を向いている。もちろんソミエ親子も同様だ。


 メメヤは、その場で軽く目を閉じた。その瞬間様々な情報が頭の中に流れてくるのを感じ取る。

 メメヤの能力は”創造”である。イメージしたもの、あるいはそれに類するものを、あたりの物質をかき集めて”作り変える”力だ。メメヤとしては”創造”では無いと思っているのだが、この力はかき集める物によっては突然そこに物質が現れるように見えることから、メメヤの力は”創造”なんて呼ばれたのだ。本人にしか異能力の詳細は分からないのだから、仕方ないのかもしれないが。

 見えない糸を手繰り寄せるように、周りの物を絡めるように自分の体からあふれる力を操る。集めたいものを手繰り寄せ、その在り方を作り変える・・・・・。集中すると自分の中ではかなりの時間がたっているように感じるが、実際の時間は一瞬だったに違いない。


 重い音を立てて地面に落ちたのは、メメヤの身長ほどもある一振りの巨大な槌であった。

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