僧侶とパーティ3 *
「じゃあ、昨日話した作戦どおりいくよ!」
「隠匿使って姿を消して、神速使って猛スピードでトンネルの天井を走ってぇゴブリンの群れを避けてぇ一気にボスのとこに行って仕留めるんだよねぇ?」
「そう、天井から落ちたら死ぬから注意してよ!」
「死んじゃうのぉ?」
それを聞いてブルブルと震え出す香川ちゃん。
「そりゃ下はゴブリンの川だよ。そんなとこに落ちたら助からないから!」
「そうだよね。助かる訳ないよね」
「怖いなら止めとく?」
「やるよぉ」
「長野さんもいいよね?」
「はい!」
「じゃあ、一気に行くよ!」
「おー!」
「はい!」
三人娘はトンネルの中へと消えていった。
*
トンネルの入り口は酷い事になっていた。
ライオネルさんの叫び声を聞いたゴブリン達が反応し津波の様に一斉に襲い掛かって来てたからだ。
「ど、どうしましょう! 姉御達がもう居ないんだけど、ライオネルさんどうします?」
「そうだな。どうする? フェムト!」
「わ、わたしにか! わたしに振るのか? なんで判断を私に振る!?」
「すまん、相談できるのがフェムトしか居なかったので。とりあえず逃げるしかないよな?」
「そうだな、キャンプの小屋まで逃げよう! あそこなら結界が張って有るからしばらくは持ちそうだ」
「よし! 逃げるぞ!」
「みんな逃げろー!」
一目散に逃げる紅鮭騎士団のメンバーとフェムトさん。
幸いな事にゴブリンの足はあまり早く無かったので、全員無事に小屋にまで逃げる事が出来た。
「ここで耐えるしか無いな」
「耐えていても結界が破壊されたら命は無いんでは?」
「じゃあ、ここを放棄して逃げるか?」
「いや、この辺りはゴーレムの生息地だろ? 馬車も無しにゴーレムと出くわしたら逃げ切れる訳も無い! 命は無いぞ! それにイシカワさん達を置いて行くわけにもいかない!」
「馬車が来るのは今日の昼過ぎだし! そこまで耐えないと命は無いって事だな!」
そんなことを話しているとゴブリンの群れがやって来た。
その数三百匹!
まるで水が流れてくるように、路地に沿って塊となってやって来る。
最初にやって来たのは足が比較的早い小型ゴブリンだ。
こいつらはすばしっこいが体が小さいので重い武器は持てず攻撃力は低い。
数で押し切るタイプの雑魚だ。
「あれは倒せるよな?」
「もちろんだ! アレなら雑魚だからいける!」
「よし! 前衛は全員突撃だ! 昨日教えてもらったみたいにとにかく避けまくって攻撃だ! 前衛がゴブリンの注意を引き付けたら魔法使いはキャンプに近い敵から一斉に魔法で焼き尽くせ!」
「おー!」
「万一怪我したらすぐに戻って来るんだぞ!」
「はい!」
次々にゴブリンの群れに飛び込む剣士!
ゴブリンの攻撃を見て避ける!
突如軍勢の中に飛び込んで来た剣士にゴブリン達は困惑!
行軍の足が止まった!
そして次々に着弾する火球がゴブリンを焼き尽くす!
魔法使いの攻撃だ!
次々に数を減らすゴブリン!
「フェムト! 私達、もしかして物凄く強くないか? あの大軍を圧倒しているぞ!」
「そうかもしれないが、今は気を抜くなよ。お前は指示に集中しろ!」
「そうだな。すまん!」
一つ目の波は楽に倒した。
問題は次だ。
剣や弓を持ったゴブリン。
それが来るのは間違いなかった。
足が多少遅い代わりに攻撃力がかなり高くなった敵だ。
「どうする、フェムト! 敵が来る前にキャンプに籠るか?」
「キャンプに籠っても時間稼ぎにしかならないだろう。何方向からもやって来るゴブリンの大軍に取り囲まれて結界が破られればお終いだ! なんとかキャンプに敵が張り付く前に数を減らさないと!」
「何かいい手立ては無いかな? 少しでも足止め出来ればその間に各個撃破出来るんだけどな」
「なら、通りの家でも燃やしてみるか!」
「家を燃やすのか?」
「ゴブリンだって生き物だ。火の粉が舞い煙が充満した通りを突き抜けて来る事もないだろう! そうすれば進軍ルートは地下道寄りからのルートだけになる」
「そうだな! 考えてる時間もないし、それでやるか! よし! 急いで着火だ! このキャンプに続く敵の進軍ルートになりそうな通路沿いの家々に魔法使いの火球で火を放て! 前衛は魔法使いを護衛だ! 敵の姿が見えたらすぐに戻って来いよ!」
「わかりました!」
キャンプから二百メトル程離れた家々に火を放つ。
二ブロック先からゴブリンの群れが現れた!
その数二百匹!
「思ったよりも多いな」
「ああ、これもきつい戦いになりそうだ!」
先頭のゴブリンの進軍には火の勢いが大きくなるのが間に合わなかったが、途中から火の勢いが強くなり炎の壁により軍団の分断が出来た。
最初に抜けたゴブリンの群れは百匹!
通り抜けられなかったゴブリンも百匹!
通り抜けたゴブリンは決して少ない数では無かった!
このゴブリン達はさっきのゴブリンと違い多少の知性があるようだ。
前衛が突撃しても注意を引き付けられる者は少なく皆キャンプに向かって突進してくる。
どうやら雄たけびで指示を出しているゴブリンが炎の壁の向こうにいるようだ。
「どうするフェムト!」
「だから、私に聞くなと言ってるだろう!」
「でも、こんな本格的な戦闘をするのは初めてで、よく解らないんだ!」
「私だってこんな本格的な戦闘は初めてだ! このキャンプの結界はどれぐらい持つか?」
「そうだな、百匹同時に来られたら五分が限度かな?」
「魔法使いが結界を張り直しながらだったらどれぐらい持つ?」
「そうだな、十五分ぐらいだ」
「よし! 魔法使いは結界を張りつづける。いいな?」
「わかった!」
「剣士は結界を壊そうと張り付いてる敵を一匹づつ倒すんだ! 結界の破壊に注意が向いているのを逆に利用するんだ! それで指示を頼む!」
「わかった! 魔法使いは結界の維持! 剣士は敵を一匹づつ集中攻撃をして排除! 騎士は結界の中にいる者の護衛だ! けが人はすぐに戻ってこい!」
「わかりました!」
この作戦には致命的な欠陥が有った。
炎で分断されてキャンプ側へやってこれない敵が炎の勢いが弱まりキャンプ側になだれ込んで来た時点で終わりだ。
キャンプの結界を破壊されて安全地帯を失った僧侶と魔法使いが死亡!
後は敵に蹂躙される。
何としても炎の勢いが落ち着いて新たなゴブリンがなだれ込む前に、こちら側のゴブリンを退治しなければならない。
フェムトは決断をした。
「悪いな、キャンプの中はライオネルに任せる!」
「フェムトはどうするんだ?」
「私か? 私はこうするのさ!」
スティックを投げ捨て愛用の棍と盾を手にする!
「私も加勢だ! 現場で回復した方が剣士がここに戻る手間が無いしな! それに私の火力もバカにしたもんじゃないんだぞ! 行ってくる!」
攻撃力の強いゴブリンにてこずる剣士達。
昨日の様にゴブリン一対剣士多数の攻撃ならば避ける事は余裕だが、多数のゴブリンの居る中では全ての攻撃を見切り完全に避けるのは厳しい!
当然、怪我人も出る。
切り裂かれて血の流れる腕を押さえる剣士!
「糞! やられた!」
「お前は下がって回復して来い!」
「でも、俺が戻ったらここは三人だけになるだろ! 三人ではゴブリンを倒せないだろ!」
「そんな怪我人が居ても役に立たねーよ! すぐに回復して急いで戻ってこい!」
「すまねぇ。俺が戻るまでお前ら死ぬなよ!」
「あたりめーだ!」
その時、怪我をした男の腕が光り見る見るうちに回復していく!
「これは!」
フェムトだった!
フェムトが回復をしていた。
「どう? 治った? もう動けるよね?」
「ああ、助かった! ありがとう!」
フェムトがゴブリンの攻撃を盾で受ける。
ゴブリンの動きが盾に阻まれ一瞬止まる!
勢いよく剣を振り下ろしたゴブリンの頭は傾いでいた。
その頭に渾身の棍攻撃!
ゴブリンの首が綺麗に吹っ飛んだ!
「フェムトさんスゲー!」
「並の剣士より強いんじゃね?」
褒められると悪い気がしないフェムト。
戦いながら得意気に話す。
「これでもBランクですから! 昨日はCランクの石川さん達にいい所を全て持ってかれちゃったけど、これでも並みのCランク剣士よりは強いのよ!」
「フェムトさんが来たから勝てるぞ!」
「おう! これで勝てる!」
「みんな行けーい!」
「おう!」
「やってやるぜ!」
フェムトが加勢した事により士気が上がり、次々に排除されるゴブリン達!
炎が消える前に何とか張り付いてるゴブリンを倒した!
「ふー、やったな!」
「フェムトさんスゲーっす! 姉貴と呼ばせてください!」
「ふふふ! 姉貴って呼ばれるのは悪い気がしないわね」
「さあ、休憩しましょうぜ、姉貴!」
「まだよ! せっかくのチャンスじゃない!」
フェムトはキャンプに籠っていたメンバー全員を引き連れて炎の壁の前に!
「いい? 魔法使いは炎越しにゴブリンを火球で焼き尽くすの! 剣士や騎士は魔法使いの護衛よ!」
「了解!」
炎の壁越しに次々放たれる火球!
残り百体のゴブリンは次々に数を減らし、炎が収まった時に残っているのはボス格のゴブリン一匹だけだった。
「よくもやってくれたな!」
そのゴブリンは言葉を話した。
決して大きくない体格だが、筋肉で引き締まった体に知性を覗かせる表情。
そして頑丈そうな防具を着込んだゴブリンだった。
「なっ! まさか言葉を話せるゴブリンがいるとは!」
「わしがこの街のゴブリンの王デラメスだ!」
「お前を倒せば勝てるって事ね」
「それはどうかな? 女王が残っている限りわしは何度でも復活できる」
「それはどうですかね? 既に女王は別動隊によって女王は片付けられているかもしれませんよ」
「なんだと! そんな訳は無かろう! 小癪な事を言う人間だ! まあ良い! わしがお前を叩きのめして新たな女王を産む苗床にしてやるさ!」
「それはどうですかね? これだけの人数差に何が出来るのかしら?」
ゴブリン王の周りを見ると紅鮭騎士団のメンバー達が取り囲んでいた。
だが様子がおかしい。
皆、白目をむいて口から泡を吹いている!
「これは一体!」
「どうやら痺れ薬が効いてきた様だな! わしがなんの意味もなく無駄話をしてたと思うのか?」
「くっ! 図られたか!」
「盾を持っているお前が僧侶で、麻痺耐性が有った事が唯一の誤算だがな。まあいい、お前を倒して苗床にすればいいだけの話だ。さあ、掛かってこい! すぐに倒してやる!」
フェムトは攻撃を仕掛ける!
先手必勝だ!
棍の八連撃、オクタルストライクだ!
全てゴブリンの盾にガードされていたがそれでも構わず攻撃を放つ!
「どわ! どごっ! どひゃ! これはきつい! 盾で攻撃を受けてるのに僅かな攻撃が貫通してくるとは! もしや攻撃貫通スキル持ちか?」
「違うわね! スキルは持ってないわ! この棍が攻撃貫通属性持ちなのよ!」
「そんな高価なものを良く手に入れたな。お前を倒したら大切に使ってやるぞ」
「ふふふ、それはどうかしらね? わたしの攻撃に耐えられるかしら?」
オクタルストライクを出し続けるフェムト。
僅かずつだが体力を減らすゴブリン王。
あまりの攻撃間隔の短さに防御以外何も出来なかった。
「この武器には攻撃間隔減少の効果も付いているのか?」
「よく解ったわね?」
「こんな高性能な武器が手に入るとは、わしも幸運じゃな!」
「なに私を倒す気でいるのよ! わたしの攻撃はまだまだ続くわ!」
「それはどうかな? 既にオクタルストライクを十六発ほど撃っている。そろそろMPが尽きてるんじゃないのか?」
「ぐぬぬ!」
「撃ててあと一回が限度と見た」
「ぐぬぬぬ!」
「その後はどんな攻撃で来るのかが楽しみだ」
「ふっ、私にはまだ奥の手が有るわよ」
「無いな! 断言してやる! 無い!」
「何で解るのよ!」
「オクタルストライクはスキルスロットを3つ占有する特殊スキルだ。その足さばきなら迅速スキルを持っている事は間違いないし、麻痺耐性スキルも持っている。という事は人間の持つスキルスロット5はすべて埋まっているという事だ。つまり他のスキルは何も持てないという事だ!」
「なによ? そのスキルスロットって!」
「人間はスキルスロットの概念は理解出来ぬか。人間はスキルスロットの存在を知らないから、概念が理解できないんだったな」
「なに言ってるかさっぱりわからないんですけど! とにかくこれを食らって死んで!」
フェムトの最後のオクタルストライクが放たれた!
だが、全ての攻撃を防御される。
ゴブリン王を貫通攻撃で削り殺すことは出来なかったようだ。
「最後のオクタルストライクが放たれたな。さあどう出る? 観念してわしに種付けされるか? 素直に受け入れるなら女王を産んだ後も、性奴隷ぐらいにはして生かしてやらん事もないぞ」
「くっ!」
俯いて唇を噛むフェムト。
ゴブリン王はフェムトのあごを持ち上げ視線を無理やり合わせるとゲスな笑いを浮かべる。
「なかなか綺麗な顔だな。苗床にするには惜しいぐらいだ。どうだ? わしの嫁になる気はないか?」
「そうね……答えはこうよ!」
フェムトの棍棒が光り輝いた!
「なっ!」
ゴブリン王は盾を構えて防御する!
フェムトの輝いた棍棒がゴブリン王の盾を砕く!
棍棒は勢いを失わずゴブリン王の頭に当たる!
棍棒はコメカミを捉え頭を吹き飛ばした!
ホーリースマッシュ!
その技は莫大なMPを消費する代わりに凄まじい破壊力を生み出す回避不能防御不能の攻撃だ!
「MPが尽き果ててるはずの私がなんでこんなMPを使う技を使えたのか不思議に思ってるでしょ? その答えはこれよ!」
聖銀に月の癒しのトレードマークが彫られた指輪だ。
「回復に役立つMPの自動回復スキルなんかが色々付いている逸品なんですからっ! これが無くちゃ前衛の立ち回りをしながら回復なんて出来ませんから! そんな事にも気が付かないってゴブリンさんは相当のお間抜けさんですね! ねえ? 聞いてるの? って、もう死んじゃってるわね」
フェムトは麻痺で意識のとんだ紅鮭騎士団のメンバーを次々に回復。
三分ほどで朦朧として座り込んでいるものの殆どのメンバーが復帰を果たした。
「フェムトがあいつを倒したの?」
「ええ、なかなかの強敵だったわ。生理的に」
「なによそれ! あははは」
「嫁になれとか性奴隷になれとかエロい事ばっかり言って、ほんと酷かったんだから!」
「最低ね。喋れるゴブリンを初めて見たんだけど、みんなあんな感じなのかな?」
「どうだろうね? あははは」
大笑いする二人。
辺りを調べてみてもゴブリンは雑魚が二匹ほどしか見つからなかったので殲滅したようだ。
石川達の様子を見にトンネルに向かうととんでもない物がトンネルから現れた。
そのゴブリンは背丈が五メトル程あるかなりデップリとしたゴブリンで、人の背丈ほどある棍棒を持っていた。
あんなこん棒で殴られたら一撃で即死だ!
どう見てもゴブリンじゃない!
巨人にしか見えないゴブリン!
それがトンネルから飛び出て、ツバをまき散らしながら襲ってきた!
「どうする!」
「ど、どうするって逃げるしかないんじゃないの? あんなの倒せないよ!」
「じゃあ、逃げよう! って、滅茶苦茶足が早いよ!」
「うわー! 追い付かれる!」
必死で逃げるが物凄い巨体なので足が凄まじく速い!
すぐにフェムトの近くまでやって来て、襲ってきた!
「やられるっ!」
「うぎゃー!」
と思ったら、跨いでフェムト達の先へと全力で走り去っていった!
「あれ?」
「どうなってるの?」
「さあ?」
でも、すぐに原因が分かった。
「こらー! ちょこまか逃げんなー!」
石川達だった。
洞窟から出て来た石川達が巨大ゴブリンを追い回していた。
ゴブリンはフェムト達を襲ってきたのではなく、石川達から逃げ回っていたのだ。
「石川さん、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫! 洞窟の中のゴブリンを全部倒して、あれが最後の一匹! 倒してくるね!」
「う、うん。がんばって!」
呆気に取られながら石川達が巨大ゴブリンを追い回す様子を眺めていたフェムト達であった。




