新たな訓練8 *
気が付くとリリィさんに揺り起こされていた。
リリィさんは床にうつ伏せになったまま私を揺り起こす。
「イシカワ! 早く起きて! イシカワ!」
朦朧とする頭を振り、痛む全身を引き起こす。
辺りはかなり薄暗い洞窟の部屋だ。
部屋はとても広い。
今までの人工的なダンジョンとは明らかに違う。
天井に鍾乳石がいくつもぶら下がる洞窟そのままと言った感じの広間だった。
おまけに照明の類は一切なく薄暗い。
ランタンも落下の時に割れてしまったようだ。
かろうじて壁に埋まった発光性の石のおかげで何とか視界が保たれている感じだ。
ここは何処だろう?
たしか、魔晶石部屋の床が抜けたまでは覚えてるんだけど。
でもその先の記憶が無かった。
たぶん、かなり高いところから落ちたので全身を打って気絶したんだと思う。
そのせいで体中が痛かった。
「痛たた!」
私が痛みで声を上げるとリリィさんが心配そうに声を掛けて来る。
「大丈夫か? 無事か?」
「体中痛むけど、どうにか大丈夫。リリィさんは?」
「僕はもうダメだ。足を折った。君だけでも逃げろ!」
「足折ったぐらいで何弱気になってるの。今肩を貸すわよ」
リリィさんを引き起こそうとするとリリィさんが怒鳴った!
「イシカワ! 早く逃げるんだ! 早く!」
「あそこの壁に割れ目が有るだろ? あそこに逃げるんだ。あそこなら安全なはずだ」
振り返ると言われた通りに壁に割れ目が有り、通路の様になってた。
足元に気絶した香川ちゃんが居たので引き起こす。
すると何かがゴロっと転がった。
丸い石の様なものだった。
それを見ると思わず息が止まる!
うそ!?
香川ちゃんの頭だった!
首だけになっていた香川ちゃんが地面の上に転がっていた。
何かに怯えた恐怖の表情で固まった香川ちゃんの顔。
それが地面に転がっていたのだ。
そして今抱えてる身体は……。
首が無かった!
「ひゃっ!」
思わず変な声が出る。
なんで香川ちゃんの首が無くなってるの!?
なんで死んでるの?
どうなってるの!
もしかしてわたし、頭の打ちどころが悪くて頭おかしくなってる?
訳わかんないよ!
「リリィさん、香川ちゃんが!」
リリィさんの方を向くとリリィさんの頭上に薄暗い闇の中に光るものが浮かんでいた。
光では無い!
目だよ!
僅かな光を反射して真っ赤に光る二つの大きな目。
その目がこちらを向いて浮かんでいた。
「な、なんなのこれ?」
リリィさんは声を振り絞って叫ぶ!
「いいから逃げろ! 今すぐ逃げろ!」
そう叫んだリリィさんの背を巨大な鎌が地面ごと串刺しにした!
「うぎゃーーー!!!」
悲鳴を上げるリリィさん!
その鎌の主は巨大なカマキリの様な虫だった!
その体高3メートルの巨大なカマキリ。
その大カマキリがリリィさんの上に圧し掛かっていた。
「なんなのこれ?」
「に、にげろ」
それがリリィさんの最後の言葉だった。
その後は悲鳴しか発せられなかった。
リリィさんは大カマキリのもう片方の鎌で足をむしり取られると生きたまま喰らわれる。
「うぎゃーーー!!!」
リリィさんの悲鳴が洞窟に鳴り響く。
目の前で仲間が喰われているのに恐怖で何も出来なかった。
わたしは今ここで何が起こっているかを悟った。
魔晶石部屋から落ちた先は巨大なカマキリの巣。
その巨大なカマキリに餌として食べられようとしている。
どう見ても勝ち目のない敵だ!
わたしは四つん這いになりながら必死で壁の割れ目を目指す。
壁は幅2メートル、奥行き2メートルほどの行き止まりの通路になっていた。
その奥には長野さんが居てうずくまりブルブルと肩を震わせながら泣いていた。
「うっく、うっく。わたし達、みんな死んじゃう!」
私は泣き続ける長野さんをそっと抱く。
「大丈夫だから! 私が何とかするから!」
わたしは長野さんを抱きしめ続けた。
幸いと言うかなんというか。
リリィさんと香川ちゃんが食べられている間は大カマキリは襲ってこなかった。
わたしは徐々に心から恐怖が抜け冷静さを取り戻す。
何としても生き延びないと!
頼りになるリリィさんはもう居ない。
元気な香川ちゃんももう居ない。
わたしが何とかしないと!
こんな時に高山が居てくれたらどんなに頼もしかっただろう?
高山なら何とかしてくれたはず!
高山が居てくれたならわたしを助けてくれたはず!
高山ならきっと私を守ってくれたはず!
「たすけて!」
いつもみたいに笑顔で助けてよ!
「たすけて! 高山!」
でもここには高山は居ない。
叫んでも来るわけがない!
こんなダンジョンの奥底の更に先の洞窟、高山が助けに来てくれる訳がない!
わたしが何とかしないと!
自分の力だけでどうにかしないと!
わたしだけじゃなく、長野さんまで死んじゃう!
何としてでも高山ともう一度会う!
わたしは一人でもやり遂げる事を心に誓った。




