新たな訓練5 *
石川さんグループの話です。
廃教会の続きで、高山グループの話から少しだけ時間が戻ります。
教会の地下室に設置された魔晶石。
魔晶石はドス黒い瘴気の様なものを吐き続ける。
それも凄まじい勢いで突風の様に!
その魔晶石から光り輝く真っ赤ないくつかのラインが遠方に向けて伸びていた。
あまりに禍々しい様子に足がすくむ石川。
「こ、これが魔法陣なの?」
「これ一つじゃなく、いくつもの魔晶石で大規模な魔法陣を描いているみたいなんだ」
「これがいくつも有るの? こんなのが他にも有るんだ!」
「今回見つかったのはここを入れて5カ所。今まで何もなかったとこに突然モンスターが沸き始めた『モンスターの巣』が国中に同時にいくつも現れたんだ。あまりにも数が多くて騎士団では対応しきれなくて、僕のギルドにも討伐依頼が発行されてね。冒険者を派遣してモンスターを倒してもすぐに敵が復活してお手上げ状態だったんだ。それで詳しく調べてみたら、この魔晶石が設置されてたって訳さ」
「敵が沸くのはこれのせいなの?」
「多分ね。この禍々しい瘴気に寄せられて魔物が集まっているんだと思う」
「じゃあ、壊しちゃいましょ」
「触っちゃだめだよ。これは魔法陣を起動させる燃料みたいなものだからね。下手に手を出して壊したら大爆発するかもしれない」
「ひっ!」と声を上げ急にひきつった顔になって魔晶石から後ずさりする石川。
「そんなに怯えなくて大丈夫だって。この水晶を割るようなことをしなければ爆発しないから。イシカワさんはほんとうに怖がりだな。あははは!」
リリィは札を取り出すと、魔晶石に貼り付ける。
すると瘴気は徐々に勢いを無くし吹き出すのを止めた。
「よし、ここはこれでいいかな? 魔法陣は同心円状に設置されるから、ここと同じく大体の位置は解ってるんだ。直径一二〇キロルの大規模魔法陣さ」
一二〇キロルとは一二〇キロメートルとほぼ同じ距離であるが、この世界の土地勘のない石川にとっては見当のつかない大きさだった。
「それは大きいの?」
「ああ、この国を丸ごと飲み込める程のサイズさ」
「そんな大きい魔法陣で何をするんだろう?」
「よく解らない。最初は魔王が王国を潰す為に魔法陣でも仕掛けてると思ったんだけどね。その魔王のエリザベスさんは、タカヤマの事しか考えて無さそうで王国を潰すなんて事は全く考えてもなさそうだし。いったい誰が何の目的でやってるのか全く解らないのさ」
「わたしもエリザベスさんがこの魔法陣を設置したとは思えないわ」
「この魔法陣を作るにはそれなりの力のある高名な魔導士レベルでもないと無理だと思う。そして王国に対してこの魔法陣を発動させようとしている者が居るのは確か。このサイズの強大な魔法陣が発動すれば間違いなくタダで済まないのは解る。敵軍勢の召喚魔法陣になるのか、王国を一瞬で吹き飛ばす程の大火力の魔法を放つ魔法陣になるのかは解らないけど、これだけは言える。間違いなく王国はこの魔法陣で破滅する!」
リリィの目は真剣であった。
*
リリィと三人娘は冒険者ギルドに戻って報告。
三人娘は廃教会での活躍によりCランクとなった。
石川は大喜びだ。
「うそ!? Dランクを飛び越えていきなりCランクよ!」
「Cランクになれて嬉しいですぅ!」
「やりましたね。Cランク!」
「君たち頑張ったからね。Bランク冒険者の『月の癒し』でさえ倒せないボスを倒したんだもん。本当はCランクには少し足りなかったんだけど、僕がギルド副長の権限でCランクになれるように特別報酬を上乗せしておいたよ」
「リリィさん、ありがとう! これで美味しい依頼をして美味しいもの食べまくりよ!」
「Cランクになったことだし、これからは本格的に戦闘訓練もしないとな」
「リリィさんがそういう事を言い出すとぉ、すごく嫌な予感しかしないですぅ」
「そっかー。じゃあ期待に応えて予定してた訓練より厳しい訓練をしようかな?」
「ちょっと! リリィさんやめて! この前の溶岩の池みたいなことをされたら今度は本当にわたし達死んじゃうから!」
「あんな訓練はもう嫌ですぅ! 生きてるのが不思議なぐらいだったですぅ!」
「もうあんな訓練は当分やらないから安心していいよ。今度始める戦闘訓練は体捌きを中心とした基礎的なものだから安心していいと思う。今日はCランクになったお祝いに僕の奢りでギルドの酒場で好きなだけ食べていいから。注文してきなよ!」
「何でも食べていいの?」
「いいのですかぁ?」
「ああ、お腹が破裂するまで食べていいよ」
「ありがとう!」
「ありがとうですぅ!」
石川と香川は大喜びで酒場の注文カウンターに、長野もリリィに頭を下げると酒場へ消えていった。
彼女達と入れ替わりにやって来たのは騎士だった。
筋骨隆々の大男。
セレスティア王国騎士団第一師団団長ロック・フラッドだ。
騎士の鎧を着ていなければ武闘家としか思えない程のガタイの持ち主だ。
その騎士がリリィに話し掛けた。
「リリィ、教会の調査結果はどうだったか?」
「ロックさん来てたんだね」
「一刻も早く結果を知りたくてな。会議に報告書が提出されるのが待てずにやって来てしまった」
「やはり、あの教会にも魔晶石が有ったよ」
「そうか……悪い方の予想が的中したな」
「間違いなくこの王国を中心に五芒星の魔法陣を描く配置だね」
「一刻も早く魔晶石の排除をせねば! すぐに教会へ向けて騎士を出す!」
「うん、頼むよ。僕の方も調査で腕利きの冒険者を派遣して残りの予想ポイントへの調査を行う様に手配するから、騎士団から依頼票を切っておいてもらえるかな?」
「事務手続きを経てる時間が無駄だろうから、いつもの通り冒険者ギルドの方で依頼票を勝手に発行しておいてくれ。請求はいつも通りのルートでな」
「ロックさんとだと、仕事がやり易くて助かるよ」
「残る予想ポイントは三カ所だな。至急結果が欲しい砂漠の調査はリリィに直に頼んでいいか? 少し敵が強い場所なので、戦力が必要なら騎士団からも派遣するがどうする?」
「偵察だけなら戦力は要らないよ。それに僕には神速と隠匿も使える頼もしい生徒がいるからね」
そう言って食事を貪る三人娘に視線を配るリリィ。
「神速か! すごい生徒を持ったもんだな」
「今度はかなり慎重に育ててるからね。自慢の生徒達だよ。昔みたいなことは二度とごめんだからね」
「ふむ。じゃあ、なるべく急ぎで教会の調査結果の報告書の提出頼むな」
「あ、報告書ならミントさんのとこに有るから持って行ってくれると助かる」
「ふむ、解った。リリィはいつも通り仕事が早いな。では調査が終わったらまたな」
「うん、またね」
遠征の準備の終わる二時間後まで、三人娘達は自由時間となった。
三人は久しぶりにお風呂に入る事にした。
浴場に行き身体から垢と汚れを洗い流した後、風呂に浸かって汗を流すと異常に汗臭かった身体から悪臭が消える。
「久しぶりのお風呂は気持ちいいわね」
「日本にいた時は毎日お風呂入ってたのに、こっち来てからは3日に一度入れればいいほうですね」
「わたし臭過ぎて頭おかしくなりそうよ」
「ですですぅ」
「こんなちゃんとしたお風呂に入るのは何日ぶりかしらね」
「こっちに来てから初めてかも」
「お風呂気持ちいいですぅ」
お風呂を終えて再びギルドに戻ると遠征の準備が終わって馬車が待っていた。
その馬車は普通の幌馬車ではない。
馬車と言えば一頭か二頭の馬で引くのが普通であったが、その馬車は四頭引きとなっていた。
しかも幌馬車の代わりに大きなプレハブの様な小屋が付いている。
まるで日本で言う少し小さめのトレーラーみたいな感じだった。
その馬車に荷物を積んでいたリリィが戻って来た石川達に気が付き笑顔を向ける。
「準備は出来たかな? 準備が良ければ出発するよ」
「準備いいわよ。必要な物はリリィさんが用意してくれるから、わたし達は持って行くものなんて何もなくて着のみ着のままだしね」
「あはは、そっか」
「今度は何処に行くんですぅ?」
「今回の旅はちょっと長旅になると思うよ。砂漠に行くんだ」
「砂漠?」
「砂漠なんて初めていくなー」
「わたしも初めてです」
「オアシスでヤシの実飲みたいですぅ」
「日焼け止めとか要るかな?」
「麦わら帽子も要りそうですねぇ」
「だいじょぶだいじょぶ。オアシスなんて寄らないで砂漠に着いたらすぐにダンジョンの中だから日焼けなんてしてる暇無いと思うよ」
「遊びじゃなく仕事で行くのを忘れてた!」
「あははは。仕事だけじゃないぞ。訓練もちゃんとするから。この馬車を見てみてよ」
「でっかーい!」
「なんかトレーラーみたいな馬車だね」
「移動中の時間を無駄にしない様に、中で体捌きの訓練が出来る様な大きな馬車を借りたんだ。じゃ、いくよ!」
三人娘は馬車の中で模擬武器を使った体捌きの訓練を受けながら砂漠へと向かった。




