冷蔵庫作り8 *
朝、ロココさんの家に戻ると、エリザベスは既に食堂に仕事をしに出掛け、ロココさんとセーレは馬車組合まで馬車を引こうとしていた。
本当は馬だけ借りて連れてくれば済む話だ。
だが、馬が馬車の重さに耐えきれず道中で挫折する事の無いよう、念の為に馬車の大きさを確認してもらうために馬車組合まで見せに行くことにしたそうだ。
結局、俺が馬車を引いて馬車組合に向かう事になった。
馬車組合で馬を借りる時に馬車のサイズを見て貰うと、クーラーボックス馬車に興味を持った御者が集まって来て人だかりが出来る。
「こんな物が有ったら、色々な所の海の幸がこの王都でも食べられるようになるな」
「海の幸だけじゃないぞ。いままで運搬中に腐ってしまった果物なんかの山の幸も食べられるようになる」
「逆に王都で作った料理やお菓子を辺境で売る事も出来る様になるな」
「この馬車は凄い物だ」
組合長まで出て来る騒ぎになってしまった。
組合長はロココさんと商談をし、貸し馬車を三台納入する話まで進んだ。
クーラーボックス馬車の試運転はロココさんとセーレに任せる事にした。
ロココさんが一人でもいいと言ったけど馬車にトラブルが有った時の対応と盗賊が出た時の事を考えると一人で行かす訳にもいかず、セーレを護衛兼手伝いとして同伴させる。
二人は俺達に見送られてポーティアの街へと旅立った。
そして俺達魔王組はというと食堂の手伝いだ。
さすがにエリザベス一人で働かせる訳にはいかない。
あいつ一人で置いといたら、何を起こすか解らないもんな。
エリザベスを止められる者と言う事で俺も店の手伝い。
俺についてるミドリアも自動的に店の手伝いになった。
俺とミドリアが馬車組合での用事を済ませた後食堂に向かうと、既にエリザベスが額に汗を浮かべて忙しそうにモップで床の掃除をしていた。
真面目に掃除をしていたようだ。
魔王が食堂の下働きとか、冷静に考えるととんでもなくシュールな光景だ。
俺達が着いたのに気がついたエリザベスが得意げな顔をして声を掛けて来た、
「どうしたタカヤマ、随分と遅かったな。あんまり遅かったから先に来て一働きしてたぞ。まさかその女とイチャイチャでもしてたんじゃないだろうな」
脇腹に手を当てて踏ん反り返り気味に笑うエリザベス。
するとミドリアが満面の笑みで返す。
「エリザベスさんのおかげでついに我が君と初夜を済ませる事が出来ました。尻尾の事をそれとなく我が君に言ってくれたエリザベスさんのおかげですわ」
それを聞いたエリザベスの顔が愕然とする。
そしてミドリアに詰め寄った。
「そ、その初夜って、ど、どういう事だ?」
「それはそれは熱い夜で、我が君と肌を合わせあいましたわ」
頬を桜の様にほんのり赤らめ腰をくねらせるミドリア。
更に愕然とするエリザベス。
顔から血の気が引いて真っ青だ。
「おい、ミドリア。わ、わらわは昨日タカヤマに何と言ったのだ?」
「わたくしの尻尾が消えた事を我が君にそれとなく教えてくれたのです。それに二人だけでキャンプの家に泊まりなさいと言ってくれたおかげで、わたくしは我が君と素晴らしい一夜を過ごせました」
「わ、わらわは何という事を言ってしまったんだ! 酔っていたとはいえ、なんていう事を! タカヤマと寝るのはお前より絶対に先にしたかったのに!」
昨日エリザベスがやたらミドリアに優しかったのは酔ってたせいなんだな。
納得。
あれだけいがみ合っていたエリザベスとミドリアが、急に仲良くなるわけないもんな。
でも酔っていた時に言ったあの言葉がエリザベスの本心なのかもしれない。
なんだかんだ言って、こいつら二人は仲良くなってきてるもんな。
そう思いつつも本気で悔しそうにしているエリザベス。
少し優しい言葉でも掛けておくか。
「エリザベスも尻尾が無くなったら必ず抱いてやるからそんなに気を落とすなよ」
でも悲しそうな顔をするエリザベス。
俺、なんか変な事でも言ってしまったか?
俯きながらエリザベスがポツリと言い始める。
「それが、尻尾が全然短くなっていないんだ。あれだけ人間と接していたのに、わらわの尻尾は2センタメトルしか短くなっていないんだ。このままじゃ、この尻尾が無くなるまで二年か三年は掛かりそうだ。どうすればいい? タカヤマ! わらわはそんなに待てないぞ!」
ボロボロと涙を目からこぼすエリザベス。見かねたミドリアが声を掛けた。
「エリザベスさん、仕事中に人化を掛け直してましたか?」
「こんなに忙しいのに、そんな暇ないだろ」
「それが原因ですよ。わたくしは仕事中にMPが残っていたら常に人化を掛け直していました。だからエリザベスさんより早く尻尾が短くなったのです」
「なんだと! 人化は人間と接していれば上達するんじゃなかったのか?」
「それは人化の精度で、人間らしい仕草しか関わり有りませんね。外見だけならひたすら人化を繰り返すだけで上達します」
「そんな事知らなかったぞ! セーレめ! わらわを騙したな!」
「そんな事、知ってて当たり前の常識ですし、セーレも言っていました」
「ぐるるる!」
「今回は昨日のお礼に教えてあげたんですから、これで貸し借りは無しですよ」
「ふん! わらわとお前は永遠のライバルだからそれでいい」
するとシェリーさんが手の止まってる二人を見て注意をする。
「開店前の忙しい時期なんだから、長話なんてしてないで働く働く!」
「はい!」
「すいません!」
仕事の事になると、二人が魔王さんと知っていても普通に注意できるシェリーさん凄いです。
*
その日も店は大好評だった。
ただ、少し騒動が有った。
試食で二百食限定でカニ団子フライを出したところ、食べられなかった客がシェリーさんに詰め寄り文句を言い始めたのだ。
「ごるぁ! 聞いてんのかよ! ねーちゃん!」
「ひぇええ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「なんで俺らにはその美味そうなのが付いてこないんだよ!」
「俺達もその丸いのを食わせろよ!」
「くいてー! くいてー! くわせろー!」
それはもう駄々っ子の様に暴れまくり。
収拾がつかないと思ったエリザベスが腹の底から響く大声で暴れる客を怒鳴つけた。
「明日出すから、今度はもっと早く店に来い! これ以上騒ぐ奴は出入り禁止だ! 食った奴はとっとと帰れ!」
あまりの剣幕に暴漢たちは一瞬ですくんでしまい騒ぎは収まった。
*
店が終わり賄い時。いつもの様に賄いを食べていた。
「ふー! 今日も大盛況だったな!」
「このまま売れ続けたら自分の店を持てそうです」
「おう、それは良かった」
「もしお店出せたら、お客さんとして皆さんを呼びますから!」
「美味しい物を食べさせてくれよ」
「はい。フルコースを用意しておきますよ!」
「いいね」
そんな感じで和やかな雰囲気で賄いを取っていると……。
──たすけて!
何かの叫び声が俺の耳に聞こえた。
「今何か聞こえたか? 助けてって」
「何にも聞こえてないぞ」
「わたくしも聞こえておりません」
──たすけて! 高山!
再び聞こえた。
「まただ」
「空耳ですか?」
「いや、確かに聞こえた」
「なんなんですかね?」
するとシステムちゃんから叫び声が!
『石川さんが助けを求めています!』
『なんだと!』
『そして香川ちゃんが……死にました』
『は!? いまなんて言った?』
『香川ちゃんが死にました。そしてリリィさんが重傷です!』
システムちゃんはとんでもない事を言い出した!
『今、石川はどこにいる?』
『南の砂漠のダンジョンです。この前ゴブリンでカニを狩った洞窟のすぐ近くです。今すぐ行けば助かるかもしれません!』
今すぐ助けに行かねば!
俺はみんなに助けを求めた!
「すまない! みんな手を貸してくれ! 石川が死にそうなんだ! 大至急助けに行かないと! みんなの力を貸してくれ!」
みんなはなにも言わずに頷いてくれた。
「行くぞ! わらわの翼に乗れ!」
そう言うとエリザベスは店を出てすぐに巨大なドラゴンへと変身!
俺達は怒涛の速度で大空を駆け抜け、砂漠のダンジョンへと向かった!




