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クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱の商人に偽装中です。  作者: かわち乃梵天丸
第一部 クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱ランクの商人に偽装しました。
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新たな訓練1 *

 石川が朝目覚めると横で寝てたはずの高山と魔王娘達が消えていた。


「高山どこに行っちゃったの?」


「さー、私が起きた時は既に出掛けてたみたいで居なかったです」


 石川は長野さんに聞いてみるがどうやら知らない模様。


 部屋のドアを物凄い勢いで開けてリリィさんが入って来た。


「いつまで寝てるんだよ! 冒険者ギルドでみんな待ってるよ!」


「高山たちが待ってるの?」と、石川は顔をだらしなく綻ばせて喜ぶがリリィさんから返って来た返事は思い望んだ物とは違った。


「待っているのは冒険者でタカヤマじゃないんだけどね。僕が思ってたよりも君たちの成長が早くて優秀だから、そろそろ戦闘訓練を始める事にしたんだ」


「ついに戦闘訓練するんですぅ?」


「私たち優秀なんですって!?」


「どんな事するんだろう?」


 高山とは一緒に訓練は出来ないが、戦闘訓練が始まると聞いた事で三人娘の表情がパッと明るくなった。


「戦闘訓練をするんだけど、いきなり君たちだけでモンスターを倒すような戦闘訓練をするのはキツイだろ? せっかく王都に来た事だし、冒険者ギルドの冒険者と混合で依頼をこなす事にしたんだ。本格的な狩りだぞ! さ、朝ご飯もまだなんだろ? 早く冒険者ギルドに行かないと朝ごはん抜きになるよ!」


 リリィさんに連れられて冒険者ギルドへ。


 冒険者ギルドでは朝一の依頼票を取り合う冒険者で(あふ)れかえっていた。


 同行する女性の冒険者が既に石川達を待っていた。


 三人娘は軽く会釈を済ますとシチューとパンを慌てて喉に流し込む。


 食べているとリリィさんが席にやって来て同行する事になる冒険者を紹介した。


 冒険者のリーダーらしき女の人が三人娘に挨拶をする。


 盾を持ち白い皮鎧の軽装を纏った髪の長い綺麗な女の人だった。


 多分歳は五つぐらい上で職は剣士か盗賊といった感じ。


 冒険者としての経験をかなり積んだ様に見えた。


「わたしがBランクチーム『月の癒し』のリーダーのフェムトです。今日からしばらくの間、あなた達と一緒に討伐依頼をする事になったんだけど、よろしくね」


 フェムトと呼ばれる女の人は笑顔で握手をしてくる。


「僧侶の石川です。よろしくお願いします」


「あら、その格好で僧侶なのね。ふふふ、楽しみだわ」


「ご、ごめんなさい。装備はこれしか無くて回復もあんまり得意じゃないけど頑張りますのでよろしくお願いします」


「冒険者始めたばっかりならみんなそんなものよ。気にしないで。後ろにいる子もお仲間?」


「はい。同じく僧侶の長野です。よろしくお願いします」


「あら、あなたも僧侶さんなのね」


「は、はい。僧侶ばっかりですみません」


「もう一人の可愛い子は?」


「えーっと、わたしも僧侶の香川ですぅ。よろしくお願いします」


「ふふふ。また僧侶さんね。これは楽しみだわー。リリィさんがなんで私達をあなた達の訓練に指名して来たのか解ったわ。これは面白い事になりそうだわね。よろしくね」


「私達全員、回復の方はあんまり得意じゃないので……ご迷惑になったら、ごめんなさい」


「そんな事、気にしなくていいわ。回復なら私達のチームに回復役が居るから安心していいわよ」


 自己紹介が終わった所でリリィさんが皆を急かす。


「よし! 自己紹介も済んだようだから、みんなで廃教会へ討伐に行くよ!」

 

 *

 

 王都郊外の馬車乗り場から5時間ほどを2台の馬車に揺られ、目的地の廃教会へ。


 馬車はメンバーを降ろすとすぐに戻っていく。


 リリィさんは廃教会の鉄の門扉を開けてすぐの所をキャンプとした。


 荷物を置きキャンプの設営をするメンバー。


 手慣れた感じでテントや薪のコンロが設営される。


 『月の癒し』のメンバーの装備は皆白い色で統一されていた。


 その統一感がプロの冒険者を意識させる。


 石川がざっと見た感じ壁役の剣士二人、両手棍持ちの攻撃役が二人、スティック持ちの回復役の僧侶が一人だった。


 魔法攻撃職が居ないみたいだけど、チームのバランスはそれ程悪く無さそうだ。


 そんな事を考えているとリリィさんがとんでもない事を言った。


「それじゃ、狩りを始めるからイシカワさん、ナガノさん、カガワちゃんはここまで敵を連れて来て」


「敵を連れてくるって?」


「釣りだよ、釣り。弓矢は持ってないだろうから殴ってもいいし拾った石をぶつけてでもいいから、敵の注意を引き付けてここに連れてくるの」


「えっ? 私達、僧侶なんだけど……」


「何を今更言ってるんだよ。僕は君達に僧侶の訓練なんて今まで一度もした事ないよ」


「それはそうだけど」


「前にイシカワさんがゴブリンに追いかけられてたことあったじゃない?」


「ゴブリン?」


「お尻に弓矢を刺された時の事、覚えてない?」


「うぐぐぐ」


 記憶の底に埋めたいトラウマを呼び起こされる石川であった。


「あんな感じで敵を連れてくればいいから。でも、ここの敵は強いから、追い付かれたらお腹を切り裂かれて中身が飛び出したり、首がピョーンと飛ぶかもよ。気を付けてね」


「いやいやいや。私達僧侶だからそう言うのはもっと向いてそうな人がいるからその人に任せた方がいいと思います」


 盾持ちの剣士に視線を投げかける石川。その剣士もとんでもない事を言った。


「わたしたち、全員僧侶だわ!」


「えっ!?」


「月の癒しのメンバーは全員僧侶なんだ」


「ええー!?」


「うそぉ!」


「どう見ても剣士や武闘家にしか見えないです」


 よく見るとフェムトの武器は剣ではなく、僧侶が盾持ちの時に好んで使われる片手棍だった。


 武闘家だと思ってた人も僧侶が戦闘スタイルの時よく使われる両手棍。


 それを聞いて大喜びで説明するリリィさん。


「そうだろ、そうだろ! それが月の癒しの売りなんだ。僕が月の癒しに君達の訓練を任せた理由もそこにある。殴る蹴るそして回復も出来る僧侶の枠を超えたチーム、それが月の癒しなんだ!」


「見た目は僧侶っぽくないけど回復なら全員それなりに出来るから! 死ななければ私達がすぐに回復してあげるから。安心して!」


「う、うん」


「それにさ、イシカワさんは【隠匿】も【神速】持ってるから敵を連れてくるのは簡単なはずだよ」


 それを聞いてビックリする月の癒しのメンバー。


「えっ? この子【神速】持ってるの!?」


「持ってるのはイシカワさんだけじゃないんだよ。三人とも持ってるんだ。どうだい、凄いだろ?」


「凄いってもんじゃないよ! ビックリだよ。Aランクでも持っている人がほとんど居ない【神速】持ちが3人も集まるなんて奇跡だね」


「ふふふ。僕の愛弟子だからね。優秀なんだよ」


「石川さん、最初は細かい事は言わないから好きに敵を連れて来て。危なくなったら【神速】使って逃げればいいから」


「うん。やってみる」


 こうして三人娘の実戦訓練が始まった。

 

 *

 

 まずは廃教会の周りをうろついている敵を連れて来ることにした。


 最初に見つけたのは見た事のない二足歩行をする狼だった。


 一言でいえば狼男のイメージに非常に近い。


 でも狼男と違いあくまでも獣で知性は欠片もないようだ。


「あれでいいかな?」


「あれがいいと思います」


「じゃ、やってみる!」


 大きめの石を拾うと、石川は狼に向けて全力で投げつけた。


「てりゃー!」


 びゅーん!


「うごっ!」


 幸か不幸か、狼男の頭面に物凄い勢いで当たる石。


 頭から血を流して地面でのた打ち回る。


「当たったねっ!」


「うんうん」


「もっと石当てれば倒せるんじゃない?」


「そうだね。もっと石投げてみようか?」


 石川が石を拾って再び投げようとすると、狼男が殺意満々の物凄い目で睨み付けた。


「ぐるるる!」


 狼男は立ち上がると、鋭い爪を振りかぶりながら凄まじい速度で石川を襲う。


 一瞬で距離を詰める狼男!


 空気が一文字に避けた。石川は……その攻撃を余裕で避ける。


 神速スキルを持っていれば、素早い筈の狼男の攻撃は芋虫が地面を這うほどの遅さにしか感じられない。


「余裕ね」


「ですねぇ」


「みんなの所に戻ろう」


「はい!」


 石川達はその場から走り去る。


 月の癒しのメンバーの待っている入口へと。


 狼男は口からヨダレをまき散らしながら全速力で石川を追った。


「連れて来たわよ!」


「おつかれー!」


 石川がキャンプで待つフェムトの横を通り過ぎると、フェムトが狼男の進行を阻むように立ちはだかる。


 盾で激しく狼男の頭を叩き付ける。


 凄まじい衝撃を受けた狼男は再びフラフラに。


 そこを月の癒しのメンバー全員でタコ殴りを始める。


 頭の上に掲げられ体重を掛けて振り下ろされる棍棒。


 渾身の力で突き出される両手棍。


 狼男は何も反撃が出来ずに一瞬で息絶えた。


 ただ気になったことが一つ。


 回復役のはずのスティックを持った子までが戦闘に参加してた。


 回復役なのに攻撃を受けて怪我したらどうするんだろうと心配になる。


「回復役の僧侶さんも叩くの?」


「それがうちのチームのスタンスだからね」


「よっぽど強い敵でもない限り、全員が攻撃に参加するよ!」


「全員僧侶で回復出来るしね」


「むしろ攻撃に参加しないと、火力が心もとない」


「あははは!」


 皆の、笑い声が廃教会に響いた。


「よし! じゃんじゃん連れて来てね!」


「うん!」


 三人で石を投げ敵を連れて来る作業が黙々と続く。


「あっ! 投擲スキルが上がった!」


「わたしもぉ上がりましたぁ。石投げてたせいかなぁ」


「わたしもさっき上がりました」


 今回の訓練で回復魔法スキルが上がると期待してたのに、予想外のスキルが上がって喜ぶ三人娘。


 順調に狩りは進み廃城の外の敵を全て掃除した。


 やがて日が暮れ始め夕食を取る。


 キャンプのたき火の煙が目に染みる。


 夕食はオーク肉のステーキのサンドイッチとミルクティーだ。


 体を動かした後なのですごくおいしい。


 テントを設営したって事は今日は帰らないでここで泊まりなのかな?


 こんな敵だらけのとこで寝てて大丈夫なんだろうか?


 石川は心配になった。


「今日は帰らないんです?」


「今日はここで徹夜で狩りさ。むしろ今までのはウォーミングアップ。これからがお楽しみの本番さ!」


 リリィさんは悪戯っぽく笑う。


 背筋に寒い物が走る三人娘。


 リリィさんがこの表情をした時はろくでもない事が起こるのを石川達は知っていた。

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