ドワーフ商人の弟子3
馬車の荷台から降りると、馬車の周りは物で散乱していた。
ジャガイモに木の棒の山。
そして野盗の亡骸。
俺はジャガイモと木の棒をアイテムボックスへとしまう。
すると、呆然とした顔をしたロココさんが立ち尽くしていたのに気がついた。
「今、とんでもない物を見た気がするんだが、お前がやったのか?」
「ええ、まあ」
あちゃー!
調子にノッてやっちゃったよ!
ゴブリンの大群を呼び出したのを見られてしまった。
野盗の間抜けっぷりが面白すぎて調子に乗り過ぎてゴブリンの大群を出すとか、ヤバい事やってしまったわ。
どうすりゃいいんだよ、俺。
1.開き直って真の勇者だと認める
2.目撃者を闇に葬る
どっちにすればいい?
『【3.魔法の言葉】でいいんじゃないでしょうか?』
『魔法の言葉か。うん、そうだな! それで誤魔化しきれなかったら別の選択肢を考える事としよう』
「わたしの見間違えで無ければ、今ゴブリンの大群が馬車から湧き出てきた様な気がしたんだが、タカヤマがやったんだよな?」
「はい。俺がやりました」
「あれはいったい何だったんだ?」
「俺がアイテムボックスの中から出しました」
「ゴブリンを出したんだよな?」
「はい」
「ゴブリンをアイテムボックスから出したと。いや、ちょとまてよ! あの大群をアイテムボックスの中から出したのか? アイテムボックスがそんなに大きい訳ないだろ? 私のアイテムボックスは他の人と比べてかなり大きいと言われるけど、それでもバケツ20個分だぞ? それなのにお前のアイテムボックスはゴブリンの大群が出て来た上に、木の棒の山とじゃがいもの山も出したんだろ? おまえのアイテムボックスは一体どうなってるんだよ?」
「ああ、『俺、勇者ですので』」
「勇者だとアイテムボックスがあそこまで大きくなるのか?」
「はい。『俺、勇者ですので』」
俺は魔法の言葉『俺、勇者ですので』で通す事にした。
俺の能力は全て勇者だからという事にしてしまう。
少し投げやりだけど、まあいいだろ。
「そ、そうなのか。勇者だとそこまで容量のでかいアイテムボックスを持てるのか」
「はい」
ロココさんは唖然とした表情のまま俺のチート級のアイテムボックスの大きさを納得してくれたようだ。
『なんかうまい事納得してくれたみたいですね』
『ああ、助かったな』
「ところで、このジャガイモはお前のだよな?」
「はい。この前、出先で採った物をアイテムボックスにしまっておきました」
「これ物凄くいい質のジャガイモみたいなんだが、何個か貰ってもいいか?」
「どぞどぞ」
「ありがとう」
俺とロココさんがそんな話をしていると御者のおっちゃんが僧侶を連れて来て耳を切り落とされた乗客を治療を始める。
耳がくっつき、すぐには傷跡が目立たないレベルまで回復した。
御者のおっちゃんが俺に頭を下げる。
「兄ちゃんのおかげで助かったよ」
「いえいえ」
「あの野盗をやっつけたゴブリンの大群は兄ちゃんが出したんだよな? あんなの初めて見たよ。もしかして兄ちゃんは勇者様とかかい?」
「ええ、まあ」
「やっぱ勇者様だったのですか! ありがてー! おかげで一人の死人も出なかったよ。ありがていこった」
突然土下座並みに腰を曲げてペコペコしだす御者のおっちゃん。
俺はおっちゃんの肩をもって引き起こす。
「『俺、勇者ですので』人助けは当たり前です」
「おお! さすが勇者様。よろしければお名前の方をお聞かせいただきたいのですが?」
「名前は……勇者田中だ」
「勇者タナカ様ですか。素晴らしいお名前です。この事は一生忘れません!」
「うむ!」
周りに人垣が出来て、代わる代わる俺への礼を言い始める御者と商人。
いつまで経っても話が終わらなさそうなので、俺は話の途中で馬車の荷台に戻った。
馬車の中ではロココさんが相変わらず怪訝そうな目をして俺を見つめる。
「お前の名前ってタカヤマだよな?」
「はい」
「いい事をしたのに、なんでタカヤマと名乗らずにタナカなんて偽名を名乗ったんだ?」
「前にも話したんですけど、俺、勇者としてはかなりヘッポコで廃業しようと思ってるんですよ」
「あんなに強いのにか?」
「強い様に見えますが、俺なんか他の勇者と比べるとかなり弱い方なんです。言うなら下っ端勇者かな? だから俺、ロココさんに就いて商人として経験を積んでいこうと決めたんですよ。勇者としての名声なんて商人としては邪魔になるだけですし、貰っても仕方ないから勇者のリーダーの名前を出したんです」
「なるほどな」
ロココさんは俺の作り話で納得したのかひとりうなずくとそれ以上聞いてくることは無かった。
*
しばらく馬車に揺られていると港町ポーティアに着いた。
港町だけあって空気に僅かな潮の香りが混じっている。
馬車を降りるとロココさんは船着き場に行き、魚の買い付けを始めた。
ロココさんは顔見知りの漁師に話しかける。
「大将! 元気か!」
「おう! ロココ久しぶり! 最近顔見せなかったけど、どうしたんだ?」
「ちょっと東国まで買い出しに行ってたんだ」
「なんか面白い物見つけたか?」
「色々とな」
「そうか、それはよかった」
ニコリと笑う漁師のおっちゃん。俺と目が合った。
「ところでおめーの後ろに居る見かけない顔は誰だ?」
「弟子のタカヤマだ。これから私の代わりに買い出しに来ることが有るかもしれないのでその時はよろしく頼む」
「おう、弟子か! ついにロココも弟子を持つようになったか。随分と成長したもんだな! おい、若いの! 俺は漁師のアングラーだ! よろしく頼むな!」
「弟子のタカヤマです。よろしくお願いします!」
「いつまでも無駄話してると魚が腐るな。今日の要件は何だ?」
「いつものやつ、バケツ10杯くれ!」
「小魚か?」
「うん!」
「悪い。また漁場にサメが出たんだ。今日は3杯しかないわ」
「せっかく馬車に揺られて買い出しに来たのにサメかー。じゃあ3杯頼む」
「あいよ! 小魚3杯お買い上げと!」
「他になんか面白い物有るか?」
「今日はあそこに転がってるサメぐらいしかないな。なんか最近海に魔物が現れたみたいでサメが漁場に逃げて来て荒らすから、まともに漁が出来ないんだよな。サメなら持っていくならタダでやるよ」
「臭くて食べれないサメを買えとか冗談は辞めてくれよ。あははは!」
「がははは!」
漁師のおっちゃんの指さした先にはサメに交じって変なものが転がっているのが目についた。
あれマグロだよな?
『はい。黒マグロです』
『なんか、マグロが外道扱いでサメと一緒に積まれているんだが……』
『マグロは肉食で小魚を食べるのでサメと同じく外道扱いされてるみたいですね』
『これ売ったら売れるんじゃないか?』
『どうでしょう? こちらの世界は生魚を食べる習慣が無いみたいです』
『勇者相手なら売れるんじゃね?』
『あ、そうですね。売れると思います』
『そんじゃ、買ってみるか』
『はい!』
俺は転がっている黒マグロを確認する。
見た感じ目の色が綺麗なままなのでそんなに鮮度は悪そうな感じじゃない。
ついさっき獲ったばかりな感じだ。
俺はマグロを指さして漁師のおっさんに聞く。
「この大きい魚はどうするんですか?」
「これか? これは黒鮫だな。こいつはな、白サメと一緒にブツ切りにして畑の肥料にするんだ」
「肥料に? 食べないの?」
「これを食えってか? 冗談はやめてくれよ。血生臭いし、大き過ぎてアイテムバッグに入らないから運搬出来ないわ、デカ過ぎて焼き魚に出来ないないわ、おまけに腐るのが早いわで食用には向いてないのさ」
「もったいない……これは今朝獲ったものだよな?」
「ついさっき獲ったばかりだぞ。兄ちゃん買うか? ハハハ! さすがに要らんよな?」
「買う!」
「マジかよ! こんな物買うのかよ!」
「いくら?」
「持って行ってくれるなら、タダでいいよ」
「よし!」
「一匹当たり1万ゴルダ払う! だから、今後獲れたこの魚は全部俺に売ってくれ」
「まじか!」
「おい、タカヤマ! 何考えてるんだよ? こんな物持って帰れないだろ?」
「それならだいじょぶさ。ほらな!」
俺はアイテムボックスにマグロをしまう。
「あ、お前のアイテムボックスは、規格外のサイズなんだな」
「そういう事」
俺は王都で黒マグロを売る事を心に決めた。




