ドワーフ商人の弟子2
ドワーフのロココさんに連れられてやって来たのは馬車ターミナル。
まるでバスターミナルの様に多くの馬車が駐車していた。
馬車と言っても客車ではなく、あくまで貨物用で幌付きの馬車の荷台は荷物満載で、乗客はその荷物の隙間に人間が乗る感じだ。
けっして快適とは言えない荷台。
そんな荷台に六人が乗り込んでいた。
たぶん全員が商人だ。
荷物が崩れると人が押し潰されるんじゃないかと心配になるが気にしてる人は誰もいなかった。
「悪いな。仕事で乗る馬車だから運賃の安い貨物車だ。快適な客車じゃなくてすまん」
馬車は五台連なり港町ポーティアへと出発。
ニコリと笑うドワーフ娘は荷物の隙間にかろうじて見える席に座ると「着くまで三時間だ。それまで寝とけ」と言うとすぐに寝てしまった。
商売のコツなんかを色々と聞きたかったが既にドワーフ娘はイビキをかいて寝ているので諦め、俺も寝る事にした。
どれ位寝てただろうか?
急に馬車が止まり、荷物のいくつかが頭の上に落ちてきて目が覚める。
何が起こったんだ?
脱輪か?
ロココさんが荷台から乗り出して御者に聞く。
『何があったんだ?』
『先頭車両が落とし穴にが落ちた様です。しかも野盗が現れました』
『野盗の罠に引っ掛かったって事か』
『そうなります』
『野盗か……この世界ってそんなに治安が悪いのかよ』
馬車の御者が荷台に乗った客に言う。
「野盗です。今、護衛の冒険者が野盗を追い返しますからしばらくお待ちください」
俺は御者の後ろから外を見る。
護衛は剣士3人。
装備が揃ってない所を見ると、たぶん冒険者ギルドから派遣された駆け出し冒険者だろう。
俺よりも明らかに若い剣士が混じってるな。大丈夫なのかよ?
「五台の馬車を三人で護衛なんですか?」
「商売に使う馬車だからな。そんなに護衛にお金が掛けられないんだ」
御者のおっちゃんが言うには野盗は常に出る訳じゃないから、出たら運が悪いで済ますしかないとの事。
あまりにも野盗の被害が続く場合は騎士団が派遣されるそうだが、野盗もその辺りのさじ加減が解っているので同じ場所での犯行は続かないのでなかなか退治される事は無いそうだ。
俺が出て行って倒してもいいんだが、護衛が居る以上少し様子を見る事にした。
護衛三人に対する野盗は一五人の集団だった。
明らかに戦力差が有り過ぎる。
どう見ても勝ち目はない。
俺と同じ判断をしたのか護衛は戦わずに武器を捨てて降参、一目散に逃げて行った。
「あちゃー、役に立たない護衛だな」
後ろから声が掛かったので振り返ってみるとロココさんが居た。
「とりあえず金や貴重品を持っているなら私のアイテムボックスの中に保管しておいてやるから急いで出しな」
「あ、大丈夫です。俺、文無しなので持ってるものはギルド証ぐらいなんで」
「そうか、それならいい」
すぐに野盗がやって来て馬車の中を漁り始める。
髭ボウボウのおっさん3人組だ。
装備のボロボロ具合から見て、どう見ても剣士や冒険者崩れじゃない。
農民出身の野盗っぽい。
会話から見るに、どうやらこの野盗団の親分らしき奴が一人混じっていた。
錆びた銅の剣を乗客に突き付ける。
「ほら! 命が惜しくないなら金を出しやがれ! 金なら盗られてもまた稼げば済むが、命は盗られたらおしまいだぞ。がはははは!」
下卑た笑いをする野盗。
一人ずつ、金を取りたてる。
「一人5万ゴルダにまけといてやる。さっさと出せ! 払わん奴は耳を切り落としてやるからな!」
その言葉に怯える商人達。
さすがに全財産の巻き上げは無いようだな。
商人の金は命と等しいので全額を盗られるとなると酷い抵抗にあうのでその辺りは熟知しているようだ。
一人づつ金を払って馬車の外に投げ捨てるように荷台から降ろす野盗。
俺の前の中年の男の商人の番になった。
その男は俺から見ても解るほど震えていた。
金を渡す男。
それを受け取った野盗は顔を真っ赤にして激怒した。
「おい! 全然金が足りてないぞ! 五万ゴルダ払えと言ってるのに二万ゴルダとは舐めてるのか!」
「すいませんすいません! 船の借金の支払いに王都に行っただけで今は持ち合せが全然ないんですよ」
「なら、体で払ってもらうしか無いな」
野盗は躊躇なく男の片耳を切り落とし、男を馬車の外に放り投げる。
馬車の外からは男の断末魔にも似た悲鳴が続いた。
あーあ、ひでーな。
おい。
「さて、次だ。こんなとこでドワーフの娘とは珍しいな」
「ふん! 好きでドワーフやってる訳じゃないんでな」
「まあいい。さあ、金を払え」
「後ろに並んでる男の分も合わせて10万ゴルダだ」
ロココさんが金を渡すと、野盗は満足気な表情をして受け取った。
「ふん。受け取った。さあ降りろ」
ロココさんに続いて俺も降りようとすると野盗が俺の首根っこを掴む。
「おい待て! お前の分はまだ貰ってないぞ」
「いや、俺の分はさっき前のドワーフが払っただろ?」
「俺は、お前から金を受け取ってない。さあ、金を払うのか体で払うのかハッキリしろ!」
汚ねーな。
おい。
まあ、ロココさんの見てる前で暴れるのも得策じゃないんで素直に指示に従おう。
俺は怯えてる素振りをして下手に話す。
「すいません。今日から商人になったばかりで全くお金を持ってないんですよ」
「本当か?」
怪訝な顔をしてみる野盗親分。野盗の親分は子分に指示を出す。
「おい! オメーラ、こいつの体を調べてみろ。金目の物が出てきたら殺していいぞ」
「へい!」
殺すのかよ……。
まあ、金目の物なんて持ってないからいいか。
万一、襲われるような事が有ってもやられるような敵じゃないしな。
ここは素直に指示に従ってファンタジーな野盗襲撃イベントを楽しもう。
泥だらけの汚ねー野盗子分が、汚ねー手で俺の体をまさぐる。
汚ねーんだからベタベタ触んなよ。
子分が俺の体を調べると早速報告を始める。
「親分! 金目の物は一切持ってませんでした」
ほらな。言った通りだろ?
「本当か?」
「持っているのはギルド証だけで、商人LV1でした」
「どれどれ、見せてみろ」
ギルド証を見た野盗親分の目がつり上がる。
「おめーの目は節穴か? よく見てみろ! こいつはアイテムボックススキルを持ってるじゃないか! こいつはこの中に金目の物を隠し持ってるんだよ」
「マジですか!」
「お前、今晩の夕食抜きな!」
「そんなー。ひでーっす」
泣きそうな顔で落胆する野盗子分。
野盗の親分はと言うと、俺に刃物の切っ先を突き付ける。
「さあ、アイテムボックスの中の物を出すんだよ」
「金目の物なんて持ってないんですが」
「いいから全部出せ」
俺は大箱に入ったジャガイモを箱から出して取り出す。
ごと!
ごとごとごとごと!
ごとごとごとごとごとごとごとごと!
ずざーーーーー!
目の前に突然現れたジャガイモの大山が崩れ雪崩を起こし野盗達を馬車の外に押し出す。
「どしぇー!」「どわー!」「ぎえー!」
ジャガイモに押し流され、馬車の荷台から放り出され地面にしこたま体を打ち付けた野盗親分は体中に血を滲ませて馬車の荷台に登って来た。
「突然何しやがる!」
「出せと言われたから従ったまでですが?」
「まあいい。質が良くて高そうなジャガイモじゃねーか。ほかに金目の物を持ってないのか?」
「金目の物はそれだけで、あとはゴミみたいなものしかないですよ」
「いいから出しやがれ!」
ごと!
ガラガラガラガラ!
ガラガラガラガラガラガラガラガラ!
ずざーーーーー!
今度は木の棒だ。
突然現れた木の棒の大山が崩れ雪崩を起こし野盗達を馬車の外に押し出す。
「どしぇー!」「どわー!」「ぎえー!」
木の棒の下敷きになり息も絶え絶えな野盗親分は体中を痣だらけにして馬車の荷台に登って来た。
たのしー!
なんか俺、凄く楽しくなってきた。
「突然何しやがる!」
「出せと言われたから従ったまでですが?」
「まあいい。こんな物じゃねーよ! もっと金目の物を出せと言ってるんだよ!」
「木の棒はお店に売れば1ゴルダ位で引き取って貰えません? 金目の物はそれだけで、あとはゴミみたいなものしかないですよ」
「いいから出しやがれ!」
ざざー!
ざー!
ざっばーん!
今度は大量の水だ。
突然現れた洪水が野盗達を馬車の外に押し出す。
「どしぇー!」「どわー!」「ぎえー!」
突然の洪水に溺れ、しこたま水を飲んだ野盗親分はゲホゲホと口から水を噴き出しながら馬車の荷台に登って来た。
なんか俺、笑いを堪えるのが大変で苦しい。
ぎへへへ。
こいつら学習能力なさすぎだぜ。
奥歯を噛みしめて必死に笑いを堪える。
「おめーのアイテムボックスは一体どうなってるんだよ! なんでそんなに訳わからんものがそんなに沢山入ってるんだ?」
「あ、あと一つ入ってるのを忘れてました」
「今度は何なんだ? あ、ちょっと待て。馬車の外に降りるから、降りてから出せ!」
さすがに知能指数の低い野盗でも学習能力は有るようだな。
だが今度のは面白いぞ。
俺はシステムちゃんを呼び出す。
『わるい。【モンスタートレーナー】スキルをセットしてくれ』
『あれをやるんですね』
『おう』
『セット出来ました。面白い事になりそうですね』
『おう、見ててくれ』
「いけ! ゴブリン! 野盗達を根絶やしにしろ!」
それっぽいセリフを呟くとシステムちゃんに指示。
『ゴブリン一〇〇〇匹出してくれ』
『はい!』
俺の目の前に湧き出るゴブリン!
『指令だ! ゴブリン達よ! 野盗達を全員ぶっ殺せ! 金目の物を剥ぎ取れ!』
『御意!』
ゴブリンは津波の様に野盗を襲い掛かる。
いつものゴブリン達と違いやたら足が速い。
俺の指示下にあるゴブリンは俺のパラメーターの影響を受けやたら足が速くてしかも強い!
モンスタートレーナーとはモンスターを魅了し指示下に置くスキル。
あまり高等なモンスターには使えないが、概ね人語を話せない様なレベルのモンスターなら大抵は操れるスキルだ。
「ぎえー!」「なんだこりゃ!」「どしぇー!」「ぐおお!!!」
叫びながら逃げ惑う野盗だが、レアモンスター級の強さのゴブリンが一〇〇〇匹も溢れかえってると逃げられるわけもなく、一分ほどで一五人全ての野盗が倒された。
『指令だ! 戻れゴブリン!』
ゴブリンは俺の前に集まって来た。俺は手を掲げてアイテムボックスの中にしまうイメージを頭の中に描くと一瞬でゴブリン達がアイテムボックスの中に戻る。
ゴブリンの被害は二匹。
野盗から奪ったゴルダは九〇万ゴルダ。
なかなか美味しい討伐だった。




