閑話 side『K』『F』 おやっさんと私と
夢を見る。
幼いときの夢だ。
産まれたときから片目が無く、周囲の人々や親からさえも『忌み子』『呪われた子供』とさげずまれてきた。周りから必要とされず、何か悪いことがあると私のせいにされ、仕事が出来れば疎まれ失敗すれば殴られる。
――そんな日々。
「おら!さっさと起きろ!」
「んー・・・」
昨日は夜遅くまで起きていたせいでとても眠い。私はどこか遠くで聞こえるような声を無視して少しほこり臭い布団をかぶり直す。するとおでこに物凄い衝撃が走った。
「いったぁ!なに!?なにごと!?」
「なにごと、じゃねえよバカが!いつまで寝ていやがる!」
「あ、おやっさんおはよーってぇ!」
おやっさんに朝の挨拶をしたら頭をど突かれた、というかさっきの衝撃もおやっさんの仕業だよね、酷い。
「おやっさん酷いよ!女の子の頭をど突くなんて!」
「ハッ」
「ひっどーい!鼻で笑った!」
「おめえの周りを見てからもう一回言ってみやがれ」
「えーっと・・・」
私が辺りを見渡せばそこには所々が黒く染まっている服やいまだ乾ききっていない血の付いた鎧や小手、愛用している短剣や弓、手入れのための道具などが散乱しておりその中でも特に目を引くのが普通は半透明で透けているはずのスライムが赤黒く濁っており鎮座していることだろう。とても女の子の、いや山賊の部屋と言われても無理がある有り様だ。
おやっさんの方に視線を戻すと目があった。
「テヘッ」
「歯ぁ食いしばれ」
――――――――――
寝起きで命懸けの鬼ごっこをさせられた後鬼・・・おやっさんと一緒に宿の食堂で朝食をとる。
「おやっさん本気で怒ることないじゃん・・・」
「うるせえ。俺が本気でキレたらてめえなんざ今頃泣いて喚いているだろうが」
「泣きませんー!・・・たぶん」
試しに私がおやっさんに本気で怒られているところを想像してみたら体が震えだした。あれ、おかしいな。怖くはないぞー怖くは。
そんな様子の私を見ておやっさんは鼻を鳴らすとさっさとご飯を平らげ席を立ってしまった。
「飯食ったらとっとと出るぞ」
「あっ待ってよ、おやっさん!」
「おら、スライムもこい」
「あー!スラリンまでー!」
おやっさんに呼ばれ私の相棒であるはずのスラリンまでポヨポヨと私をおいていってしまった。仕方が無いので私は目の前に置かれている朝食を食べることに集中する。
黙々と食べていると宿屋のおじさんが話しかけてきた。
「嬢ちゃんも大変だねぇ。その年で冒険者やるのも」
「んー?はいひぇんひゃひゃひひょ、ほひゃっひゃんひゃひゃひいほう」
「あー食ってるときに悪かった、また後でな」
「んーん」
口の中いっぱいに詰め込んでいたからしゃべりづらい。でも私はこう言いたい、今の生活は大変だけどとっても幸せだと、おやっさんにはとても感謝している・・・と。
私が朝食を食べ終えた頃おやっさんと青色の半透明で小さくなったスラリンが戻ってきた。
「おやっさんおかえりー」
「おう、やっと食い終わりやがったか。戻ってきたときにまだ食ってたら置いていくつもりだったんだが」
「ひどい!おやっさんそれはないよー!」
「いいからさっさと準備してこい」
「はーい!おいでスラリン!」
ポヨっとおやっさんの隣にいたスラリンが跳ね私の頭の上に乗る。スラリンを頭の上に乗せた私は部屋に戻ると服は散らかったままだったが防具についていた血はきれいに拭われ武器もキチンと手入れされた状態で壁に立てかけられていた。
「おー!さすがおやっさん!やっさしい!」
私は今着ているダボダボの服を脱ぐと全裸になり、床に投げ捨てられている下着を手に取ったところで気がついた。
「あー・・・昨日は全身が血塗れになったんだった・・・仕方ない。スラリンあれお願いー」
スラリンにそう声をかけるとスラリンはグワっと広がり私ごと服を取り込んだ。
(私はやらなくて良かったんだけどな・・・。まぁいいか気持ちいいし)
私はスラリンに一緒に取り込まれた服を寄せ集めそのまま服を着始める。すると全身が舐め回される感覚がしその感覚がくすぐったくて少し口から空気が漏れてしまった。
(おぉっと危ない危ない、危うく溺れるところだった)
下着をはき、丈夫で少し厚手の服を着たところで足からスラリンが引いていき最後にポヨンと頭の上で元の大きさに戻り一度跳ねた。
「ありがとー、きれいになったよー」
どんなもんだい、と頭の上でポヨポヨしているスラリンが床に降りると私は防具を着け、弓を背負い短剣腰に下げポーチが付いたベルトを着けた。
「よーし今日も頑張るぞー!ってかなり血が付いていたんだね・・・」
床に降りたスラリンを見ると朝飯前ほどではないが赤黒くなったスラリンがおり、そんなスラリンを連れて下におりるとおやっさんは既に組合の方に行ったと宿屋のおじさんに言われたので外に出た。
外にでて組合に向かう途中に小川が流れていたのでスラリンをポンッと投げ入れバシャバシャとかき混ぜると、赤黒く濁っていたスラリンは元の青く澄み渡った色に戻った。
「よし!早くいこう!」
スラリンを川から出し頭に乗せると組合に向けて走った。
「今日からしばらくお休みなんだって!お休みのときどうしようかな!」
空には雲一つ無く澄み渡り、どこまでも遠く遠く続いている。今日はきっといい日だ!
私はおやっさんに追いつくために走った。
閑話ですよー。
今回のこの子はもうちょっとあとに出てきます。
次あたりから本命の話の前段階の手前に入ります。
ゆったりと楽しんでいってください。
・・・ところでグロいのってどのあたりまでいいんでしょうか・・・?




