表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/29

最終話 これからの日々

 ある日の夕方。学園から帰宅する最中、フレデリカのふとライクと出会った時のことを振り返っていた。

 もちろん前向きな思いだ。今のフレデリカは、全ての迷いが吹っ切れている。


(最初は最強の剣士の魂を呼び出して、私に乗り移ってもらおうとしたな……。今思えば、どうしてあんなことを思いついたんだろう)


 あの時の自分は考えに考えすぎて、良く分からない方向に物事を考えてしまった。

 だってそうだろう。何をどう思えば、魂を呼び出して乗っ取ってもらおうと思うのか。自分で研鑽してこそだ。

 今にして思えば、ライクでなかったら、とんでもないことになっていたかもしれない。


(かんっぜんにおかしくなっていたよな、私)


 だが、その過ちこそが、今のフレデリカを形成しているのだから不思議なものである。

 ルミネと切磋琢磨し、ロクリスやマリアンとも出会えた。マリアンとは少し悲しい時間があったが、今となっては良い思い出となっている。

 良い思い出は良い思い出だが、代償は大きかった。


(あの時、私にもう少し魔術の力があったなら。そうすれば、もしかしたらライクを失わずに済んだのかもしれない)


 精神魔術によって正気を失い、ライクと分断されたのが全ての始まりだ。結果的にライクが全てを引き受け、そして消えてしまった。


「相棒、か」


 あの時、フレデリカとライクは真の意味で心が通じ合った。

 ――相棒。

 その二文字はフレデリカの心の中に永遠に存在するだろう。


「……」


 とはいっても、だ。

 最近、フレデリカは『ある事』をぼんやりと浮かべていた。


「やっぱり……やってみようかな」


 ライクと再会する手段が一つだけ、ある。

 フレデリカとライクとの出会いの魔術。


 そう、戦魂召喚(せんこんしょうかん)の魔術だ。


 あの時、ライクは消え、元の場所に帰ってしまったと仮定する。

 もしその仮定が正しかったとするなら、やることはシンプルなのだ。


(正直怖い。これでライクを呼び出せなかったら、私はきっとまた落ち込んでしまうだろう)


 奇跡。ライクとの出会いは奇跡なのだ。戦魂の数がどれだけいるか分からないが、またライクと出会える可能性は限りなく低いだろう。


 だが。


「やる前から諦めていたら、ライクに怒られるよね」


 こんな状態の自分を、ライクが見たらなんと言うだろうか。そう思ったら、もはや迷いはなかった。



 ◆ ◆ ◆



 決行日はあの時と同じ、星が綺麗な夜だった。

 フレデリカは自室の床に魔法陣を描いていく。あの時とは違い、魔術というものをある程度理解できたからか、数倍も早く描き終えることが出来た。


「……さてと」


 フレデリカは黒いローブを纏った。少しでもライクとの繋がりを強めるためだ。もちろん、おまじない程度だ。この行為にどこまでの効果があるかは、分からない。

 ただ、もしも来てくれるのなら。

 自分が少しはマシになった姿を見て欲しい。そう願い、フレデリカは黒衣を身に纏うのだ。


「ここまで来れば、もう私には出来ることはない。あとは、なるようになるだけだ」


 フレデリカは呪文を読み上げる。出来るだけはっきりと、出来るだけ力強く。

 ライクに届くように!

 フレデリカの呪文に迷いはない。完全に頭の中にある。あとは、これに言葉の力を乗せるのみ。

 やがて、最後の呪文へとたどり着く。



「『来たれ(いくさ)に彷徨った戦士よ。次なる戦いの荒野はここに在り。その身、塵となるまで運命の風はお前の頬を撫でる』」



 詠唱が――終わった。

 直後、魔術陣が発光する。フレデリカの視界が真っ白になる。ここまではあの時と同じ。

 だが、フレデリカの欲しい結果はここからだ。


(声が……聞こえない)


 あの時はこのあたりでライクの声が聞こえた。だが、今回は無音。

 不安に押しつぶされそうだ。だが、フレデリカはその事実に目を反らすことなく、ただ真っすぐ見続けた。

 やがて元の空間へ戻る。


(どうだ……!!?)


 しばらく待ってみた。だが、何も起きない。フレデリカの呼吸が乱れる。不安が襲う。気を強く持ち、状況が動くのを待つ。



 何も、起こらなかった。



「そっ……か」


 フレデリカはそれでも膝を曲げなかった。直立し、状況を受け入れようと、頭の中をぐるぐると回す。

 目の前の現実を整理する。

 魔術は失敗。ライクは来なかった。


「――いない」


 フレデリカはライクを思い浮かべる。そして、今の状況を彼が見たら、なんと言うか考える。


「終わっちゃいない。決めたんだ私は。ルミネに負けるなら剣の腕を上げる。ライクがいつ来ても良いよう魔術の腕を上げる。どっちも上げるんだ」


 フレデリカはもはやこれで折れるような人間ではなかった。


「今回は私の失敗だ。だけど、そのうちまたチャレンジしてみせる。何十回でも、何千回でもやって、またライクと会うんだ」



「――はっ。良く吠えるようになったじゃあないか」



 フレデリカは、背後で『その声』を聞いた。確実に、間違いなく。


「……え?」


 これが現実だったら嫌だ。そう思い、フレデリカは後ろを振り向くのが怖かった。


「俺が居なくなった後のお前を見てきた。無様な一面もあったが、まぁ前よりは確実にマシになったんじゃないか?」

「私……そうだよね、マシになったよね」


 フレデリカの声が震える。視界が滲む。頬が冷たい。叫びたい、身体全てを使ってこの感情を表現したい。

 だが、フレデリカは鋼鉄の精神でそれを抑え込む。


「剣と魔術の両立。昔のお前なら鼻で笑ってやったところだが、今のお前ならそれも良いだろうさ。その黒衣が似合っている、ということはそういうことだ」

「似合って……いるんだね……? 私、似合うんだね……!」

「あぁ。似合っている。それでこそ俺の――」


 その瞬間、フレデリカは振り向き、走り、ライクへ抱き着いた。

 とはいえ、実体を持たないのですり抜けてしまったが。


「はっ。猪突猛進が過ぎる」

「良いでしょ、これくらい……!」

「違いない。さぁ、これから俺が居なかった時のことを話せ。そして笑ってやろう」

「良いよ、徹夜で話してあげる。それでね、言わせて欲しいことがあるんだ」


 フレデリカは満面の笑みで、拳をライクの前へ突き出した。



「お帰り! 私の相棒!」

「ただいま。俺の相棒よ」



 二人の拳が重なる。

 一瞬。一瞬だけだ。フレデリカはライクの拳の感触を、確かに感じたのだ。

 けど、もうその感触はない。

 奇跡だったのか、それともライクが何か魔術を使ったのか。

 今となってはどうでもいい。


 仮に奇跡だったとしても。

 そんなモノ、二人のこれからの日々に何度でも起こるはずなのだから。



【最強の剣士になりたい私がやらかした失敗談~猪突猛進系凡才少女剣士と皮肉屋系伝説の魔術士のアレコレ~ 完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ