最終話 これからの日々
ある日の夕方。学園から帰宅する最中、フレデリカのふとライクと出会った時のことを振り返っていた。
もちろん前向きな思いだ。今のフレデリカは、全ての迷いが吹っ切れている。
(最初は最強の剣士の魂を呼び出して、私に乗り移ってもらおうとしたな……。今思えば、どうしてあんなことを思いついたんだろう)
あの時の自分は考えに考えすぎて、良く分からない方向に物事を考えてしまった。
だってそうだろう。何をどう思えば、魂を呼び出して乗っ取ってもらおうと思うのか。自分で研鑽してこそだ。
今にして思えば、ライクでなかったら、とんでもないことになっていたかもしれない。
(かんっぜんにおかしくなっていたよな、私)
だが、その過ちこそが、今のフレデリカを形成しているのだから不思議なものである。
ルミネと切磋琢磨し、ロクリスやマリアンとも出会えた。マリアンとは少し悲しい時間があったが、今となっては良い思い出となっている。
良い思い出は良い思い出だが、代償は大きかった。
(あの時、私にもう少し魔術の力があったなら。そうすれば、もしかしたらライクを失わずに済んだのかもしれない)
精神魔術によって正気を失い、ライクと分断されたのが全ての始まりだ。結果的にライクが全てを引き受け、そして消えてしまった。
「相棒、か」
あの時、フレデリカとライクは真の意味で心が通じ合った。
――相棒。
その二文字はフレデリカの心の中に永遠に存在するだろう。
「……」
とはいっても、だ。
最近、フレデリカは『ある事』をぼんやりと浮かべていた。
「やっぱり……やってみようかな」
ライクと再会する手段が一つだけ、ある。
フレデリカとライクとの出会いの魔術。
そう、戦魂召喚の魔術だ。
あの時、ライクは消え、元の場所に帰ってしまったと仮定する。
もしその仮定が正しかったとするなら、やることはシンプルなのだ。
(正直怖い。これでライクを呼び出せなかったら、私はきっとまた落ち込んでしまうだろう)
奇跡。ライクとの出会いは奇跡なのだ。戦魂の数がどれだけいるか分からないが、またライクと出会える可能性は限りなく低いだろう。
だが。
「やる前から諦めていたら、ライクに怒られるよね」
こんな状態の自分を、ライクが見たらなんと言うだろうか。そう思ったら、もはや迷いはなかった。
◆ ◆ ◆
決行日はあの時と同じ、星が綺麗な夜だった。
フレデリカは自室の床に魔法陣を描いていく。あの時とは違い、魔術というものをある程度理解できたからか、数倍も早く描き終えることが出来た。
「……さてと」
フレデリカは黒いローブを纏った。少しでもライクとの繋がりを強めるためだ。もちろん、おまじない程度だ。この行為にどこまでの効果があるかは、分からない。
ただ、もしも来てくれるのなら。
自分が少しはマシになった姿を見て欲しい。そう願い、フレデリカは黒衣を身に纏うのだ。
「ここまで来れば、もう私には出来ることはない。あとは、なるようになるだけだ」
フレデリカは呪文を読み上げる。出来るだけはっきりと、出来るだけ力強く。
ライクに届くように!
フレデリカの呪文に迷いはない。完全に頭の中にある。あとは、これに言葉の力を乗せるのみ。
やがて、最後の呪文へとたどり着く。
「『来たれ戦に彷徨った戦士よ。次なる戦いの荒野はここに在り。その身、塵となるまで運命の風はお前の頬を撫でる』」
詠唱が――終わった。
直後、魔術陣が発光する。フレデリカの視界が真っ白になる。ここまではあの時と同じ。
だが、フレデリカの欲しい結果はここからだ。
(声が……聞こえない)
あの時はこのあたりでライクの声が聞こえた。だが、今回は無音。
不安に押しつぶされそうだ。だが、フレデリカはその事実に目を反らすことなく、ただ真っすぐ見続けた。
やがて元の空間へ戻る。
(どうだ……!!?)
しばらく待ってみた。だが、何も起きない。フレデリカの呼吸が乱れる。不安が襲う。気を強く持ち、状況が動くのを待つ。
何も、起こらなかった。
「そっ……か」
フレデリカはそれでも膝を曲げなかった。直立し、状況を受け入れようと、頭の中をぐるぐると回す。
目の前の現実を整理する。
魔術は失敗。ライクは来なかった。
「――いない」
フレデリカはライクを思い浮かべる。そして、今の状況を彼が見たら、なんと言うか考える。
「終わっちゃいない。決めたんだ私は。ルミネに負けるなら剣の腕を上げる。ライクがいつ来ても良いよう魔術の腕を上げる。どっちも上げるんだ」
フレデリカはもはやこれで折れるような人間ではなかった。
「今回は私の失敗だ。だけど、そのうちまたチャレンジしてみせる。何十回でも、何千回でもやって、またライクと会うんだ」
「――はっ。良く吠えるようになったじゃあないか」
フレデリカは、背後で『その声』を聞いた。確実に、間違いなく。
「……え?」
これが現実だったら嫌だ。そう思い、フレデリカは後ろを振り向くのが怖かった。
「俺が居なくなった後のお前を見てきた。無様な一面もあったが、まぁ前よりは確実にマシになったんじゃないか?」
「私……そうだよね、マシになったよね」
フレデリカの声が震える。視界が滲む。頬が冷たい。叫びたい、身体全てを使ってこの感情を表現したい。
だが、フレデリカは鋼鉄の精神でそれを抑え込む。
「剣と魔術の両立。昔のお前なら鼻で笑ってやったところだが、今のお前ならそれも良いだろうさ。その黒衣が似合っている、ということはそういうことだ」
「似合って……いるんだね……? 私、似合うんだね……!」
「あぁ。似合っている。それでこそ俺の――」
その瞬間、フレデリカは振り向き、走り、ライクへ抱き着いた。
とはいえ、実体を持たないのですり抜けてしまったが。
「はっ。猪突猛進が過ぎる」
「良いでしょ、これくらい……!」
「違いない。さぁ、これから俺が居なかった時のことを話せ。そして笑ってやろう」
「良いよ、徹夜で話してあげる。それでね、言わせて欲しいことがあるんだ」
フレデリカは満面の笑みで、拳をライクの前へ突き出した。
「お帰り! 私の相棒!」
「ただいま。俺の相棒よ」
二人の拳が重なる。
一瞬。一瞬だけだ。フレデリカはライクの拳の感触を、確かに感じたのだ。
けど、もうその感触はない。
奇跡だったのか、それともライクが何か魔術を使ったのか。
今となってはどうでもいい。
仮に奇跡だったとしても。
そんなモノ、二人のこれからの日々に何度でも起こるはずなのだから。
【最強の剣士になりたい私がやらかした失敗談~猪突猛進系凡才少女剣士と皮肉屋系伝説の魔術士のアレコレ~ 完】




