10-2
「お館様、やっと目を覚ましました」
目を開けようとしたが余りの眩しさにまた目を瞑ってしまった。が、周りに人の気配を感じゆっくりと目を開ける。目の前にはハンナが覗き込むようにしゃがみ込んでいて、私と目が合うとお館様と呼ぶ人へ報告した。
私は目だけで周りを見るとそこは貴族屋敷の応接室で、私は豪華なソファーに寝かされていた。
ハンナにお館様と呼ばれた男性はゆっくりと私の方へ歩いて来て、反対側のソファーに腰を降ろした。
「初めまして、ゲート伯爵令嬢。もう気付いていると思うがここはバージニア侯爵家。私はその当主だ」
一見私の両親と変わらない歳の侯爵が挨拶をしてきた。私は半分頭がボーッとした状態で
「今の私は平民のシアです。ザザーライン侯爵家に帰してくださいませんか?」
「おや、怖がらないんだね?普通のご令嬢だと泣きながら叫ぶんだが」
バージニア侯爵はつまらなさそうに口を尖らせた。
「・・私に何の用が・・-」
「んー。本当はこんな事したく無かったんだが・・君がいないと証拠を消せないと知ってね。ご足労頂いたんだよ」
「・・わたくし、自分の足で来た覚えございませんが・・」
めいいっぱい見栄を張る。
それに証拠とは・・?
侯爵はハハッと笑いながら前屈みになり、私の目を見ながら
「君は、ご両親から何か聞いているかい?例えば・・そのネックレス」
首元を触ればハンナに盗られたはずのネックレスが着いていた。
「私が調べたところ、それに証拠が入っているんだが・・それだけでは取り出す事が出来ないんだよ」
バージニア侯爵はふざけた様な口振りで言う。
私は首を横に振ると
「何も聞いておりませんわ」
と、答えた。嘘ではない!何も聞かされていないのは本当だ。
するとハンナが私の首を絞める。
「グッッ!」
声にならない声が出る。
侯爵は ヤメロ! と手でハンナに指示を出すと、私の首から手を離す。
ゴホッゴホッ!と咳き込むがハンナは薄笑いをしながら
「お嬢様の首は細いから、もう少し力を入れたら折れちゃいますねー」
と笑いながら語ってきた。
「そのネックレスを壊せば済む話なんだが・・壊れないんだよ。何かに守られているようだ。困ったなぁ、君の血でも垂らしてみるかい?」
今度は侯爵の後ろに控えていた騎士が剣を振り、私の首元に剣先を当てる。
ツーっとネックレスに血が垂れるが何も起こらなかった。
「とにかく時間が無いんだよ。ザザーライン侯爵家が動き出した様だしね」
そう言い終わる前にパチン!と指を鳴らすと後ろ手に縛られたマリンが引きずられるように部屋へと連れ込まれた。
「マリン!」
「シア!首から血が・・」
マリンが私の首から血が流れている事に気付き、ギュッと唇を噛んだ。
「さぁゲート伯爵令嬢。知っている事なんでも良いから話してくれないか?じゃないと、こちらの令嬢の命も保障できないよ?」
もう少し粘ればザカリーさまやカインが助けに来てくれるだろう。だけど・・
「・・わかりました。ですが、私一人の力では出来ないのです」
「それは・・?」
バージニア侯爵が騎士に剣を納めるように指示を出す。
その時
「バージニア侯爵!!その場から動くな!!」
私から剣を外した騎士が今度は侯爵の首元に剣を当てた。
よく見るとザカリー様がバージニア侯爵の横に立って、剣を構えていた。




