6 カイン
話合いが終わり一旦会場へ戻ろうとなった時、シアが亡き伯爵夫人のネックレスを見ている事に気付いた。シアを見るとクビにはネックレスでは無くチョーカーが巻かれている。
「シア、これを付けるかい?」
「えっ?良いのですか・・?」
「元を辿れば君の物だし、亡き伯爵夫人も喜ぶと思うよ」
そう言ってネックレスを付けようとシアに近付くと、何故かザカリー様が手を差し出して来た。
「?如何されましたか?」
「いや・・今日の彼女は私のパートナーだから・・」
「?私は彼女の婚約者ですが?!」
シアはメイドにチョーカーを外してもらい付けてくれるのを待っている様子だったのだが・・何故かザカリー様が引かない。
そんな俺たちを見て笑っている殿下。
出来れば殿下にこの人を何とかして欲しかったのに、楽しげに見ているだけだった。
二人でもめている状況に痺れを切らしたのはザカリー様付き従僕ハントさんだった。
「ザカリー様、ベラスター様、このままですと他の来客の方たちに怪しまれます。お決まりにならないので有ればわたくしか、こちらのマリンにお任せ頂けませんか?」
私とザカリー様が顔を見合わせると互いにバツの悪そうな顔をし、ネックレスをハントさんへ渡した。ハントさんはネックレスをメイドに渡すと
「お嬢様、失礼いたします」
と、メイドは笑いを堪えるようにシアに付けてくれた。
伯爵夫人のネックレスはシアの為に作られたように似合っていた。ただ・・
「やはり何かが細工してある気がしますね?」
「執務官殿もそう思うか?実は俺も見た瞬間にそう感じた」
「シアの両親は諜報に関する物を幾つか作っています。ので、これもその一つかと思ったのですが・・」
ネックレスだけでは作動しなかった。
何か鍵となる物があるのだろうが、本人が亡くなっている為わからない。
こうしてネックレスを付けたシアをエスコートしたザカリー様と別々に会場に戻った私は、二人から離れた位置で見守った。
母国から離れたこの国で知り合いも居ない自分は、怪しい人間が居ないか見張るつもりでいた・・・のに?
「どちらのお国の方ですの?」
「初めてお見かけしますわね?あの・・もう決まった方はいらっしゃるのですか?」
「あら!抜けがけはダメですわよ!」
私の周りにいるこの令嬢たちは・・と、困った顔をしながらシアを見ればエスコートをしているザカリー様が意味ありげな顔で笑っていた。
(アイツの仕業か・・)
「何かおっしゃられましたか?」
一人の令嬢に声をかけられ我に返る。そして私の視線に気付いた一人の令嬢が
「あら?ザザーライン侯爵子息だわ!女性をエスコートされるなんて珍しいわねー」
「そうなのですか?」
「ええ、その・・あのご容姿でしょ?色々と女性で迷惑と言いますか不快な思いをされたようで・・」
「女性嫌いと有名なんですの!」
あれ?でもシアに対しては普通だったような・・
「ですからエスコートされるのは侯爵夫人か妹様だけなのですが・・」
その話を聞きもう一度二人を見る。側から見れば仲睦まじく見えるが・・ザカリー様がシアを女性と見ていないのか?それともシアがザカリー様を男と見てないからなのか・・
「?」
今シアと目が合ったような・・
周りにいる令嬢たちの声をBGMのように聞き流していると、二人に近付く一人の男性が目に入った。確かあの男は・・
「あら?あの方は確かスロード商会の会長では?」
「あら本当!あの成り上がりが侯爵子息に何のご用なのかしら!」
「スロード商会・・ですか?」
「貴方様はご存知ないのも仕方ありませんわ」
「ええ、前スロード男爵を騙して爵位を奪ったと聞きましたわ!」
「あら私は爵位をお金で買ったと伺ったわ」
「・・・」
これ程の黒い噂を立てられるなんて・・ちょっと気になる男だな・・




