6-2 カイン→ザカリー
スロード商会の会長らしき男はシアのネックレスに興味を持ったのか、覗き込むように見ていた。
それに気付いたザカリー様がシアを自身の背中へと隠す。母国であれば自分もシアの側へ行き守るがここは隣国・・今はザカリー様に任せるしかない。
近くで令嬢たちが話ているが全く耳には入ってこない。そんな私の態度に脈が無いとわかったのか、一人、また一人と去って行った。
それと同時に男も二人から離れて行く。俺は少し考えてから男へ近づき声をかけた。
「失礼ですがスロード商会の方と聞きましたが」
男は俺の声に振り返ると少し、ほんの少しだけ眉をひそめたが直ぐに元の表情に戻した。
「初めまして、スロード商会会長を務めておりますフィリップと申します。こちらの国では男爵位を賜っております」
「ご丁寧にどうも。私はバレイド国で王太子殿下付き執務官をしておりますカイン・ベラスターと申します」
握手を交わす。その手からは何かを伝えようとしているのか?直ぐには離してはくれなかった。
「先ほどザザーライン侯爵子息がエスコートされている令嬢に何か気になる事でもありましたか?」
この男にはストレートに聞くが一番と思い、聞く事にした。スロード卿は少し考えたフリをし
「いえ、令嬢が付けていたネックレスが見た事もない意匠でしたのでお聞きしたのです。まぁ、警戒されて何も聞かなかったのですが・・」
と笑いながら答えた。そして・・
「ベラスター卿もあのご令嬢に興味がおありですか?」
「なぜ?」
男はクックっと笑いながら
「目で追っておられたでしょう?ご安心ください、私以外はザザーライン侯爵子息しか気付いておりませんので。ですが子息の話では直に婚約発表されると・・」
「なっ!あいつ・・」
俺の心の声を聞いたスロード会長は、誰にも言いませんよ。と言った。そして耳元で信じられない事を囁いたのだった。
「ザカリー様、侯爵様がお呼びでございます」
スロード商会の会長と離れた私たちはシアが疲れたと言ったので、少し離れた席で休む事にした。
本当はそのまま屋敷に戻そうと思ったのだが、先ほどの執務官殿の言葉で犯人がこの矢先に入り込んでいたら自分の目の届くところか、人の多いここのが安心だと思ったのだ。
近くにいた給仕から飲み物を受け取ると、シアは嬉しそうに果実水を飲み干した。
「執務官殿も人気があるようだ。先ほどから令嬢たちが引っ切りなしに寄っている」
私の言葉を気にしながらチラッとベラスター卿を見ている。この女は私を男として見ていない。あくまでも主人としてしか・・
それは少し前から気付いていた。少なくてもメイドたちからも好意的な視線を浴びているのはわかっていた。だか、この女からは一切それが無かった。
(何か理由があるのだろうが、この女も一途にベラスター卿を想っていたのだな)
二人が一緒にいた所に遭遇したのは本当に偶然だった。そして、この女の身元も・・
第二王子からの報告が無ければ表に出す事はしなかったが、自分の目の届かない所で何かあっても困る。そんな時このパーティーを開くと聞いた。
伯爵令嬢ならば私の隣に立たせても良いだろう!と、バルトへ話をした。
この女の命を守るため、そしてある事件の犯人を捕まえるためにその身を囮に使わせてもらおう。と・・
その考えが間違っていたと知っていたら、今この場を離れる事は無かったのに・・
「少し離れる」
「はい、侯爵様に呼ばれていますものね。」
「俺が戻るまでここから離れるなよ。一人が不安ならミレイアを呼ぶが・・」
「そんな!大丈夫ですよ?ザカリー様がお戻りになるまでの間、ここで待っています!」
ベラスター卿を見れば先ほどの怪しい商会長と話している。もし俺がここから離れたら間違いなく来るだろう。
そう思い込んでしまった。
それと、見送る彼女の笑顔に俺は安心してしまっていた。




