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第3話 旅立ち(後編)

その日の夕刻。

日没まで、あと少しの時間があるころの小屋にエルダとポーラがいる。

二人は特に用事が無いので、早くから来ることが出来たのである。

シンシアは、村長の孫娘と言うこともあって、お祭りに出す料理の準備に追われているのだ。

ヘレナは不明だが。


ポーラ『みんな来るよね。』


エルダ『だから、俺達がここにいるんじゃないか。』


小屋から少し離れている祭りの会場から賑やかな声が聞こえる。

お祭りが大好きなエルダとしては行きたいが、それ以上のお祭りが待ってると思えばなんの苦にもならない。

ポーラは小さな窓から祭りの行われている方向を眺めている。


エルダ『・・・本当は、ポーラが一番辛いんじゃないか?』


ポーラ『・・・。』


エルダ『最初にこの計画を考えた時、ポーラがなぜ一緒に行くと言ったのか、俺はいまでも謎なんだ。』


ポーラ『・・・仲間はずれなんてやだもん。』


エルダ『仲間はずれ?そんなわけないだろ。』


ポーラ『それに、友達いないもん。』


ポーラはものごころついた時にはエルダと一緒にいることが多かった。

村にはポーラと同じ年齢の女の子もいるが、なぜかポーラと仲良く話すような奴はいない。


エルダ『俺達が友達じゃないか。』


ポーラ『・・・うん。』


窓の外には沈む太陽とは別の方向に赤い光りが見える。火が灯されたのだ。

それは祭りが本番を迎えた事を意味していた。


エルダ『・・・来たな。』


ゆっくりと動く影がこちらに向かってくるのを無言で見つめるポーラは、エルダにしがみついた。

射し込む光が、二人を赤く染めあげる。

そこに、ヘレナが入って来たのだが、二人の姿を見て不思議そうな表情をしている。


エルダ『早かったな。』


ヘレナ『・・・うん。』


エルダ『なんだ?気になるようなかおして。』


ヘレナ『ポーラが泣いてるわ。』


言われて見てみると、涙が頬をつたって落ちている。

だが、拭ったりはせずに再び窓の外を眺めた。


エルダ『今日はな、そういう日なんだよ。』


ヘレナ『まぁね。』


エルダ『泣くんなら、胸かしてやるぜ。』


ヘレナ『私は遠慮しておくわ。』


エルダ『我慢は身体に良く無いぞ。』


そう言って、くすっと笑った。

今日に限っては、泣くのも笑うのも同じ感情のような気がするのだ。

泣いていたはずのポーラも、何時の間にか笑っている。

笑いすぎて、ずっと外を眺めていた筈のエルダはシンシアが小屋に入って来るまで気が付かなかった。


シンシア『たのしそうね。』


エルダ『あぁ、これからの事を考えるとね。ワクワクしっぱなしだよ。』


ヘレナ『ワクワクする意味が違うような気がするけど・・・まっ、いいわ。』


ポーラ『いいわ。』


エルダ『・・・あのな。』


シンシア『それより、ちょっと問題が起きたわ。』


エルダ『問題?』


シンシア『お祭りの中で、剣の試合があるでしょ。それなの。』


それでは説明が足りないのは承知している。

それは、これから説明するのだ。


シンシア『毎年、男だけが参加する筈だったんだけど、今年はエルダも数に入ってるのよ。』


エルダ『へっ?なんで俺が?』


シンシア『理由は知らないのよ。私だってさっき知ったんだから。』


ポーラ『毎年、出たいって言ってた。』


エルダ『そりゃね、出たかったけどさ。』


ヘレナ『・・・アレもって来たけど、まずかったかしら・・・。』


エルダ『持って来たんだな。俺は嬉しいけど、大丈夫だったのか?』


ヘレナは持っていた袋の中から剣を取り出した。


シンシア『・・・精霊剣・・・これって優勝した人に渡す物じゃない。』


エルダ『そうなの!?』


ポーラ『エルダは、試合の途中で寝ちゃうから。』


エルダは言い返す言葉がない。


シンシア『この際だから、いいわ。貰っちゃいましょ。』


シンシアがそう言う事を言うイメージが無かっただけあって、3人は驚いている。

だが、エルダしはすぐに賛成した。


エルダ『どうせ、いつ戻ってくるかもわからないンだ。そうしよ、そうしよ。』


ポーラ『しよ、しよ。』


ヘレナ『毒をくらわば皿まで・・・ね。』


シンシア『良い子と呼ばれるのだけが取柄じゃないのよ。私だって・・・。』


村長の家に生まれた彼女は、小さいころから自由が少なかった。

礼儀作法に花嫁修業。

本当にやりたい事は一つも出来なかった。

その中で唯一のわがままだったのが、魔法の勉強である。

実のところ、今回の計画はエルダが考えた事になっているのだが、その提案に強く賛同したのはシンシアだ。

本当は、一人でも旅に出るつもりだったのだ。

だから、エルダの言葉を聞いた時、率直な自分の気持ちが、一気に表に出たような感覚になったのである。


エルダ『さて、みんな揃ったし。騒ぎになる前に出発しようか。』


ヘレナ『そうね。』


色々な道具を積め込んだリュックをそれぞれが背負い、小屋を出る。


シンシア『花が枯れないと良いわね。』


振りかえって美しく咲き乱れる花に別れを告げる。

その時だ。

ポーラが足を止めてキョロキョロとまわりを見る。


エルダ『どうしたんだ?』


ポーラ『誰か見てる。』


ヘレナ『えっ!?だ、だれ?』


ポーラ『あそこ!』


ポーラは指をさすのではなく、イキナリ走ってその方向に向かう。

追いかけるエルダがポーラに近づく前に、ポーラが拳を振った。

まわりはすでに暗く、近づいても顔が良くわからないが、その一撃を避けると、逃げ出さずに向かってくる。

重いリュックを背負っているポーラは、いつものような素早い動きが出来ず、一歩踏み込んだ一撃も避けられた。


ポーラ『誰!?』


相手は無言のまま、鋭い蹴りを繰り出し、ポーラは両腕でガードする。

そこにエルダがわって入り、腹部に蹴りを食らわせる。

ポーラほどの威力は無いが、片足では姿勢が保てず、数歩後退。

ポーラが小さくジャンプして追い打ち攻撃。

見事顔面に拳が当り、仰向けに倒れたところへ、更にもう一度ジャンプし、空中で一回転の後、落下しつつも右足の踵で胸を強打。


エルダ『もういいぞ。動かない。』


ポーラ『ふぅ~。』


遅れて追いかけてきた二人がエルダに問う。


ヘレナ『ねぇ、誰なの?』


それに答えようと、倒れた者の顔に近づいて確認する。


エルダ『知らない人だ・・・。村の奴じゃないのはわかるけど。』


シンシア『この男の人、一度見た事あるわ。おじい様と話をしてた事があったの。』


エルダ『村長と?』


ポーラ『・・・もしかして。バレてる?』


シンシア『可能性はあるわ。それなら、エルダが試合の数に入ってるって納得できるもの。』


エルダ『やばいな・・・。とりあえずこいつはそこの木に縛っておこう。』


ヘレナ『こんな事でロープを使うとは思わなかったわ。』


そう言いながらも、リュックから取り出した、まだ未使用のロープで男をぐるぐるに巻く。

木に縛り付けたのを確認するとエルダが小さく叫んだ。


エルダ『よし。とっとと、ずらかろうぜ。』


ポーラ『ずらかろう。』


4人は慌てて村の外に向かって走る。

4人以外の村人の殆どが祭りに参加している為、辺りに人影は無い。

・・・筈だったのだが、走り去る影を少し離れた所で見ているものがいた。


村人F『間に合いませんでしたね・・・。』


その男の言う通り、追いかけるには遠くに行き過ぎている。


村人F『どうするんですか、村長。精霊剣も持って行ってしまったんですよ。お祭りはメチャクチャです。』


村長は、木に縛られている男を無言で見つめ、この男が失敗した事を半分残念に思い、半分は良かったと思っている。

勢いとはいえ、結婚を条件にしたのを後悔していたのだ。

だが、あまりにだらしがなさ過ぎる。とも、思っている。

相手は4人。その全てが女性なのだ。


村長『・・・精霊剣はまた作れば良い。実は、以前も壊れた事があって、今の精霊剣は3代目じゃよ。』


村人F『それは知りませんでした・・・。以前もこの様に・・・。』


盗まれたとは言えなかった。

村長の孫娘が犯人の一人なのである。


村長『いや、わしが壊した。』


村人F『えっ!?』


村長『まぁ、壊れてしまったという方が適切かもしれんが・・・。』


村長は、その事について深く言わなかった。


村人F『・・・この男はどうします?』


村長『しばらく、頭を冷やさせよう。』


他人に厳しく自分に甘い村長だった・・・。


予定よりもかなり慌しく村を出発した4人。

さすがにいつまでも走りつづけるのは辛いので、歩いている。

後ろを見ても、誰かがつけて来ている様子はなさそうだ。

月明かりの下、エルダが雄叫びをあげた。

突然過ぎて驚く3人。

だが、お互い顔を見合わせると、エルダと一緒に叫ぶ。

これが、自由な旅の第一歩を記憶に残すエルダ流のやり方だったと知ったのは後日だったが。

いまはただ、歓喜に満ちた叫びが響く。

それぞれの想いを乗せて、声は何処までも響いた。


村を飛び出す計画を立てて約1年。

彼女達には縛られた、決まりきった生活しかなかった。

毎日が同じことの繰り返し。

エルダは声も大きく、シンシアは心の奥に、日常を変えたいと願っていた。

ヘレナも同じ気持ちをもっている。

ポーラは多少複雑な心情があったが、大好きな3人と別れるのは辛く、強い男のいない村はあまり好きではなかった。

唯一の未練は両親の事だったが、シンシアが母親代わり、エルダが父親代わり、ヘレナがお姉さん代わりになっている。

寂しくは無いだろうと思っていたのだった。


彼女達の旅は始まった。

夜空を照らす月が明るく感じる。

無数の星々が、競う様に輝く。

小川のせせらぎが歩調のリズムを整える。

見えるもの全てが、昨日とは違う、なにかを感じさせていた。





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