第2話 旅立ち(前編)
ここは、村の中の豊穣祭開催会場。
エルダとポーラが慌てて駆けつけた時には、酒乱会場と化していた。
当然と言うか、案の定と言うか、中心となって呑んでいるのはエルダの父親だ。
エルダ『おぃおぃ、メチャクチャになってるじゃないかよ・・・。』
エルダの言葉の通り、何処から手をつけて良いのかわからない状況である。
それでも、自分の親が呑むのをやめればおさまるだろうと考えたエルダの取った行動は・・・。
エルダ『一発頼む。』
ポーラ『りょ~かい。』
二人が中心人物の傍まで近寄る。
エルダの父親『おぉ、やっと来たか。お前も飲め!』
エルダ『うるさい!!』
容赦ない一撃を繰り出したが、酔っているとはいえ剣の達人である。
エルダの繰り出すパンチをひょいっと避ける。
エルダの父親『まだまだワキが甘いな。ど~れ、塩でも塗ってやるか。』
親父ギャグ炸裂!!
全然受けないために、空気が重くなった。
ポーラ『はぁ~。』
ポーラは力をためている。
エルダの父親『・・・お前も大きく育って、父さん嬉しいぞ!』
エルダ『親が無くとも子は育つ!』
エルダの父親は、娘のある部分をジ~っと見つめて、視線をはなさない。
エルダ『・・・あのなぁ、育ったってここの事か!?』
エルダの父親『うんうん、よくも、そこまで大きく育ったもんだ。』
ゆっくりと立ちあがると、娘の胸を鷲掴み!
直後、エルダの肘鉄がクリティカルヒット!
おまけついでに、ポーラの鉄拳が繰り出され、会心の一撃!!
エルダの父親は動かなくなった・・・。
エルダ『変態親父め・・・。』
ポーラ『でも、思いっきり入れちゃったけど、おじさん大丈夫かなぁ?』
エルダ『大丈夫、大丈夫。俺よりタフなんだ親父は。動かないけど、寝てるだけだって、ホラな。』
エルダの言う通り、いびきをかいて眠ってしまっている。
不思議なほどのタフさが証明された。ある意味、剣の達人という事以上に凄い事なのかもしれない。
その倒れて寝ているエルダの父親の横では、母親も寝ていた。
酒乱ではあったが、酒に弱く、すぐに寝てしまう体質だったので、被害が拡大する心配はなさそうだ。
村人A『おぃおぃ、実の父親を殴るなんてひどい事するなよ。』
エルダ『このまま放ってはおけないだろ?』
村人B『しかしな、今日は年に一回のお祭りなんだぞ。少しぐらい良いじゃないか。』
エルダ『あれは、少しとは言わない。』
村人C『まぁまぁ、そんな事言わずにな、一口ぐらい呑んでけよ。』
エルダ『ポーラの鉄拳が食べたいか?』
ポーラは呼吸を整えている。
村人Aは逃げ出した!
村人Bは逃げ出した!
村人Cは逃げ出した!しかしまわり込まれてしまった!
村人C『勘弁してくれよぅ。ほら、村長も来てるんだしあんまり派手な行動は慎んだ方が良いぞ。』
村人Cが指をさす方向に、確かに村長はいた。
どうやら、シンシアとヘレナも一緒のようである。
エルダ『おや、早かったじゃないか。こっちは今片付いたばっかりだぜ。』
シンシア『どうやらそのようね。』
エルダの後には、エルダの両親が仰向けで仲良く寝ている。
並んではいないが。
村長『まだ寝るには早いのにのぅ・・・。』
シンシア『そろそろお昼ですから、皆さんいらっしゃいますわ。』
エルダ『そうだよ。騒ぐ時間を間違えてるんだ、こいつら。』
村人Cは、こっそり逃げ出そうとしたが、ポーラに捕まってしまった!
ポーラ『とりあえず殴り足りないから、一発殴らせて。』
村人C『そんなぁ・・・。』
エルダ『大丈夫、痛みを感じる前に気絶するから。』
村人C『そんなこと、あっけらかんと言うなぁ~。』
ぼくぅっ!!
ポーラ『ふぅ、すっきり♪』
ここにいる者達は、ポーラだけは怒らせてはいけないと、心に深く刻み込んだ。
ともかく、静かになった会場では、まだ来ていない村の者達が来る前に、散らかった酒樽やコップなどを
片付ける事に成った。
当然、掃除をしたのは女性4人である。
温かい陽射しを注ぎ込む太陽が真上に昇りつめたころ、ようやくお祭りらしい、限度を知っている者達が集まり始めた。
限度を知らない者は、今現在夜時間である。
村人D『あ、村長!もう、いらしたんですか。』
村長『あぁ、余興を見に来たんじゃが、一足違いだったらしい。』
村人D『余興?』
村長『あ、いや、気にせんくて良いぞ。』
そんな事言ったら、余計に気に成るだろう。
が、とりあえずお祭りと言うこともあって、豊穣祭のメインイベントの準備が始まる。
村の作物が今年も良く実るように祈願するもので、木彫りの女神像が豊穣神兼守護神として祭られている。
はっきり言って、村人達の都合の良いように作られているだけなのだが、200年以上も続いているだけあって、
信じるものも少なくはなかった。
要するに、この女神様のおかげで今の村があるのだ。
そんな事などどーでも良いとばかりに、さっそくのランチを楽しむ4人の姿は、作業をする村人達の死角に位置していて、
無理すれば覗けない事も無いが、ポーラがいるのを知れば近づかない方が無難だろう。
エルダ『シンシアの料理は最高だよ♪』
そう言って右手に持つパンと左手に持つコーンスープを交互に口に放りこんでいる。
シンシア『慌てなくても沢山あるわよ。』
ヘレナ『時間なんてそんなに無かった筈だけど、いつのまにこんなに作ったの?』
4人の囲むバスケットの中には4人分にしては少し多目の料理が詰まっている。
シンシア『今日はちょっと早起きしたのよ。本当は準備のお手伝いした後にする予定だったけどね。』
ポーラ『・・・してないけど、もう食べちゃったよ。』
ちょっと申し訳なさそうに言ったが、行動は言葉を裏切っている。
それでも、シンシアは優しく微笑んだ。美味しく食べてくれればそれで良かったのだ。
ヘレナ『そうだ、一つ忘れてた!』
突然大声を出すものだから、驚いて放りこんだばかりの食べ物を口から噴き出す。
エルダ『な、な、なんだよ、イキナリ!?』
ヘレナ『きったないわねぇ・・・。』
エルダ『あのなぁ・・・驚かしといてそれは無いだろ。』
ポーラ『・・・ごめん。私も。』
3人が視線を一点に集めると、コーンスープをこぼして顔を赤くしているポーラの姿がある。
シンシアが慌てて、ハンカチで拭うが、服に染み込んでしまったようだ。
シンシア『あらあら、どうしましょう。』
ポーラ『・・・着替えた方が良いかな?』
シンシア『そうね。そうしましょう。』
二人は慌しく席を立ち、村の人達が作業する表では無く、遠回りに裏道に進んで行った。
エルダ『で、騒ぎの原因はなんだ?』
ヘレナ『・・・とりあえず二人が戻ってきらね。ゆっくり食べましょ。』
エルダ『あんまりもったいぶると期待するぞ。』
エルダは、食べかけのパンをもう一度口に放りこむと、ヘレナを横目で見る。
ヘレナ『ふふふ・・・。』
そこには不敵な笑みがあった。
約10分後、ポーラとシンシアの二人が戻ってきた。当然だが、ポーラは違う服を着ている。
やっと席について、ランチの再開・・・の予定だったが、バスケットの中身は空っぽだ・・・。
ポーラ『・・・無い。』
視線を向けられ、慌てる。
エルダ『お、俺一人じゃないからな!ヘレナも共犯だゾ!』
ヘレナ『ちょっ、ちょっと!私はちょっと多目に食べただけよ!エルダが沢山食べたんじゃない!』
と、罪を擦り付け合っている。
まぁ、二人以外に犯人などいる筈も無いのだが。
その二人を見て、シンシアとポーラがくすくす笑っている。
エルダ&ヘレナ『・・・?』
ポーラ『予想通りだったから面白かった。』
エルダ『予想通り?』
シンシア『私達がいなくなったら、絶対に全部食べちゃてるって話をしてたのよ。』
そう言うと、別のバスケットを二人に見せる。中身は半分程度だが、二人分なら十分だ。
ヘレナ『そのバスケットは・・・?』
ポーラ『私のお母さんが作ってくれたものよ。みんなで食べるつもりだったけど・・・ね。』
空のバスケットをわざとらしく覗き込んだ後、二人を見つめる。
当然、返答は無い。
ポーラ『じゃ、あらためて、いただきまーす♪』
シンシア『はい、いただきます。』
楽しそうに食べる二人とは対照的に、その光景を眺める二人。
少し前の時にも似たようなことはあった。
だが、その時はポーラとエルダが無言で眺めていて、更にその前にはエルダとシンシアが・・・。
良く考えてみれば、諸悪の根源はエルダなのだが、誰も怒らない。
ポーラはエルダと喧嘩をしなかった。
シンシアはエルダを叱らなかった。
だから私も怒らない。
と、言うのとは違う。
全ては、許してしまえる仲なのだ。
冗談も、皮肉も、ちゃんとわきまえている。
最年少のポーラだって、最年長のシンシアだって。
多少、年齢ははなれているが、自分がみんなを、みんなが自分を許してくれる。
いつからこんな関係が始まったのか・・・とても不思議なのだ。
それすらも、みんなが知っていたのではないという事も知っている。
複雑に絡まり過ぎた糸は解かなくてもよい。
丸めて一つにすれば良いのだ。
4人は、そう言う関係だった。
エルダ『・・・なに考えてンだ?』
話しかけられても振り向くことなく即座に答える。
ヘレナ『あんたのバカさ加減よ。』
エルダ『そうか・・・奇遇だな。同じことを考えてたのか。』
二人は視線を交わし、少し真面目な表情をしていたが、我慢しきれずに笑った。
とても楽しく笑った。
シンシアもポーラもつられて笑う。
丸まった糸を無理して解こうなど、無意味である事をみんなが肌で感じている笑いがここにある。
エルダ『おっと、笑っててもはじまんねぇや。何か話があるんじゃなかったのか?』
ポーラ『お話ってなに?』
ヘレナはにやりと笑う。そして顔を近づけると、他の3人の顔も寄り、声をひそめて話だした。
ヘレナ『ポーラとエルダなら喜ぶ話よ。旅の軍資金にも出来そう。』
シンシア『お金の事?』
ヘレナ『うん。ほら、先週、旅人が一人来たじゃない。道に迷ったって言ってさ。』
エルダ『あぁ、覚えてるぞ。あのヘナチョコか。』
ポーラ『うん。ヘナチョコ。』
ヘレナ&シンシア『ヘナチョコ?』
エルダ『まぁ、良いや。それで、どうしたンだ?』
ちょっと気に成る言葉だが、だいたいの予想はついたので、聞くのはやめた。
ヘレナ『・・・それでね。その人が持っていた紙なんだけど。』
そう言って、ポケットから丁寧に折りたたまれた紙を取り出し広げる。
ポーラ『大会出場願書。』
ポーラが言ったのはその紙に一番大きな文字で書かれていた言葉をそのまま読み上げただけである。
ヘレナ『ここを良く見て、異種格闘技で年齢性別の制限無しって書いてあるでしょ。』
エルダ『ほぅ・・・これは楽しそうだな。』
エルダは舌なめずりで、瞳を輝かせている。
シンシア『でも、魔法禁止って書いてあるわ。』
ヘレナ『そうよ。だから良いんじゃない。エルダとポーラには打って付けと思わない?』
ポーラ『強い人と戦える?』
ヘレナ『もちろんよ。それにね、3位以内に入れば賞金が出るの。』
エルダ『おっ!ホントだ。3位が15000リア、2位が50000リア、優勝が100000リアかぁ♪』
ヘレナ『強くて、カッコイイ人も見つかるかもね。』
エルダ『うんうん。』
ポーラ『うんうん♪』
シンシア『忘れないでね。最初の約束。』
エルダ『あぁ、忘れて無いぜ。幸せはみんなで掴むんだからな。』
ポーラ『・・・優勝したら、旅は続くって事なのね。』
シンシア『負けたら、私達一文無しよ。ここに書いてある開催する町は、早くても一週間以上かかかるもの。』
紙のすみには、町の名前がしっかりと書かれている。
年長者であるシンシア以外は、その町までの距離を知らない。
エルダ『そんなに遠いのか・・・。って、それより、開催日は?』
ヘレナ『えっとね・・・げっ、五日後・・・みたいよ。これ・・・。どうしよう・・・。』
困惑するヘレナにエルダが軽く突っ込む。
エルダ『おぃおぃ、間に合わないじゃん!そのくらい、ちゃんと見ておいてくれよな。』
ヘレナ『ご、ごめん・・・。』
シンシア『・・・五日ならなんとかなるわ。』
ポーラ『一週間じゃなくて?』
シンシア『えぇ、そうよ。山越えで魔物も出現する危険なところを通過する事になるけど・・・。』
エルダ『魔物か・・・。おもしろそーじゃん。それで行こう!』
ヘレナ『そんなに簡単に決めないでよ。私は戦闘は苦手よ。』
エルダ『心配すんなって。俺とポーラがしっかり守ってやるからよ。』
自信満々の笑顔を見せるエルダにみんなが見つめて、同時にため息をはく。
エルダ『なんだよ。信用して無いのかよ。』
ポーラ『違う。』
エルダ『じゃあ、なんだよ。』
ヘレナ『エルダって私達の理想の男性像をそのままに女にしたような人だって事よ。』
シンシア『そう言う人好きなのよ。』
エルダ『え゛。』
ヘレナ『あんたが男だったら、私達、今頃こんなに仲良くなかったかもね。』
エルダ『じゃあ、実は俺は男だったんだぜって言ったらどうする?』
わざとらしく、親指を立てて自分に向けると、男っぽい仕種をしてみせる。
ポーラ『惚れる。』
ただその一言だったが、目が真面目過ぎた。
エルダ『じょ、冗談だろ?』
ヘレナ『冗談に決まってるでしょ。あんたと一緒にお風呂だって入ってるんだから。いまさら男とは思えないわ。』
エルダ『・・・あんまり冷静に指摘しなくても・・・。』
シンシア『とにかく、これだけは言えるわね。このチャンスを逃がすと、後が無いって事。』
それは、村を飛び出す事と、大会に出場する事と、双方に言える事である。
悩むまでもなかった。
はっきり言って、選択肢が二つしか無いのである。
行くか、止めるか。
止めるなどとは考えていない。それは全員が一致している。
では、多少の無理は承知で出発するしか無いのだ。
エルダ『・・・よし。今夜だ。今夜全て決める。集合場所はいつもの小屋。時間は日没。』
その言葉にみんなが頷く。
エルダ『遅刻厳禁だからな。』
ヘレナ『日没って言ったらお祭りの一番盛り上がるころね。みんなが祭りに夢中になっている隙に・・・。』
エルダ『そう言うことだ。』
四人が四人とも同じ表情で、お互いを見つめた。
長い無言。
そして、形に表せない何かがかたまった事を、みんなが感じていた。
それは、村の男衆が祭りの準備が終わるころ、ゆっくりと角度をつくる陽射しが短い影を作っていた。




