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Act,14―Linaと空―

「……持田、あんたがあの子に入れ知恵したの?」

「いいえ。けど、敵を欺くためには味方から。そう言ってらしたので、そうかな、という予想です」


ただし、彼女にも予想できなかった事態が起こっているのも、また、事実なんだけどな――


持田は心の中で笑いながら、車を学園にむかわせた。








「……はぁ」


ため息をつく。なんちゅう事だ。初めてカメラマンの前に立つのが、女の自分だと? 胸なんか自前だし。貸してもらった詰め物を見てまたがっくり。自前もどうせは小さいから、入れてないとダメなようだ。っていうか、あのカメラマン結構人で遊んでんだろ、本当に。エクステを付けた髪の毛は腰まであって、手入れもされていて、綺麗だった。頬の腫れは、メイクすればどうにでもなったし、青い目は、カラーコンタクトを入れてくれたから黒い目になることができた。さっきまでスーツを着ていた自分とは正反対の自分が、鏡の前に居たのだ。


「城島サン、できましたー?」

「はいはーい」


まぁ、こちらからも条件を出した。二人には、俺の正体をばらさない事。カメラマンは何故とは聞かなかった。


出ていくと、メイクサンや、スタイリストサンが目をぱちくりしている。何をそこまで見るんだよ、とでも言いたかったのだが、あえて言わずに、ニコリ、と笑った。別にバレるとかそういう心配は一切しなかった。俺は、女を演じきればいいのだ。そう、SI大好きな、媚びまくる少女に――


楽しそうだね、それって


ニヤリと自分の心が笑う。あぁ、楽しみだ。


すでに撮影し始めている二人の元へ向かうと、案の定凄い目で見られたが、何も言わずにSIに近づいた。


「よろしくお願いします!! Linaって言います。今日、一緒に撮ってもらうことになりました」


二人が目を点にして、“私”を見るのが楽しい。そんなこと聞いてねぇぞ、とかそういうのだろう。だって、ほら、にやってしてる。後で俺をいじるにはちょうどいいネタだもんな


「“私”、SIさんの大ファンなんです!! ご一緒させて頂くなんて本当、光栄です!」


キャピキャピ言う“私”に対して少し欝陶しい顔をし始めたのは、市草だ。ほー、そういう顔をするのか。


「ど、どうかされました?」


焦りながら言う“私”に、市草は張りつけた笑顔を見せる。


「いや、何も無いで」


そんな流暢な関西弁に、安堵の顔を見せた。よかった、この人は許してくれた。


「おいおい、始めんぞー!」


カメラマンがそう言って、こちらの力試ししているのは、嫌でもわかった。セットは白い背景に一つ赤いソファ。ここで、白を着た“私”と、二人の黒い男がじゃれ合うのだ。


カシャカシャ言う音が聞こえる。



二人はある程度の格好をつけるが、私には一切触れてこない。まるで、私が居ないかのように。


何よ、覚悟なさい――……落としてやるわ。


二人の顔を崩してやりたくてしょうがなかった。そのポーカーフェイスをどうやったら崩せる? モデルとしての、私のプロ根性を見せ付けてやりたいの。こんな凍った顔を見て、誰が喜ぶのよ。こんな顔を見て喜ぶファンは、まだまだね。もっと、笑いなさい、悲しい顔をなさい――そして、こちらを見るの。私だけを見るの。


片方にしがみついて、気を引く。上目遣いで、彼の注目をすべて自分の物にするの。貴方の頬に触れ、私は貴方のペット。可愛いでしょう、私。ほら、貴方は、私には夢中になるのよ。普段の私じゃないわ、カメラの前の私よ。気付いて、カメラの前ならどんな顔でもできるの、私。さっき、私を欝陶しいなんて思ったこと、訂正なさい。



そしたら自然と反対側はやってくる。ほら、後ろから手がやってくる、そちらに行こうとすれば、見つめていた片方が手を伸ばすのよ。一瞬ずつ見せる微笑みは、その、綺麗な顔の良い所をすべて引き出すの――


両方の手が伸びて、私に絡み付く。どちらの目も愛しそうに私を見るの。どちらも手に入れたわ。



なら、もう、あなた方には用はない――




「――はい、終了!! Linaちゃん、ありがとうねっ!」

「もう、いいんですかー? これからなのにー」

「あはは、それ以上色気出してどうすんだ」

「はーい。もっとSIさんと絡んでおきたかったのにー。じゃ、失礼しますねー」


そう言って一礼すると、二人は“私”をじぃっと見つめている。そんな視線を背に、“私”はそこを立ち去った。




そして、急いで誰もいない準備室に入るなり、自分は、その場に座り込んだ。












「……ふぅ」


何もかもをとって、元の姿に戻って、スタジオに戻ると、ちょうど二人が撮影を終えた頃だった。


よし、間に合った!


「お疲れさまです、お二人とも」


ニカッと笑うと、二人は、俺を無視して、さっさと、歩きだした。


「いやいや、今からインタビューですよ!! まだ仕事は終わってないです!」


二人の手を引っ張り、記者の待っている部屋へと急いだ。二人は終始黙っていて気味が悪かったが、少々自分もやりすぎた気がしたので、あえて触れなかった。


「すいません、遅れました」


部屋に入ると、20代くらいの女の人が座っていて、こちらを向いて、俺を睨んだ。二人を座らせると、もう、凄い顔がにこやかだ。色んな意味で。裏ではかなり怒ってるな、この人……。今日は遅れてないのにー!


「はじめまして、城島ともうします。今日から、彼らのマネージャーとなりましたので、よろしくお願いします」

「こちらこそ。マネージャーサンもイケメンですね。私、新人記者なんですけど、よろしくおねがいしますね」


彼女が差し出してきた名刺には、“一ノ瀬 奈々”と書かれていた。あぁ、もう、かなりキレとるって言うか、今までにこの人に何したんだ、おまえらっ……。


「……では、始めますね」


一ノ瀬サンが、録音しはじめて、何故彼女が不機嫌なのかは一目瞭然だった――










――ちょうど、7時くらいに戻ってくると、まだ、二人はインタビュー中で、部屋に入っているという。


多分、いつも通り無愛想なんだろうな……。


そんなことを思いながら、部屋に入ると、案の定相手側の女の人は顔を曇らせていた。


「……では、好きな女性のタイプは……?」

「どーでもいい」

「同じく」

「……あぁ、これはね、どんな人でも愛せる、読んでいるみんなを愛せるって事です」


いやいや。

空クンは何をしているのかな、また、次の質問にどうでもいいように答える彼等に、付け加えるマネージャー、空。いや、何を言ってるんだ、この子!! よくやるよ、放っておけばいいのに……


「じゃぁ、最後に。音楽とは?」

「おもちゃ」

「遊び相手」


二人の答えは同じ。それには一切触れない空に、女の人は、黙って録音するのをやめた。


「ありがとうございました、では、私はこれで」


一秒でもここを出たい、そんな感じの彼女に、空は手を伸ばす。そして、ようやく、私の存在に気付いた彼は、一瞬考えてから、また、指示を出した。


「ちょ、那智はこの2人連れてって!!」


出ていった女の人を追い掛ける空は、必死だった。


「……とりあえず、行こう。その服、返さなきゃなんないし」


二人はなぜかだんまりしていて、いつもなら何か言ってくる二人を、ただ、眉間に皺を寄せながら言った。


「……あんたら大丈夫?」

「うるせっ」


吐き捨てるように言う、彼らは私をおいて、先に出ていった。何をしたかったんだ、こいつら。私の頭の中は?マークでたくさんだった。


「――すいませんっ」


空の声? 急いで、外にでると、そこには、もう、SIの姿はなかった。ただ、空が土下座している姿だけ、あった。


「あなたが謝る事じゃないでしょ? 貴方はあの二人を謝らせるべきでしょ」

「……すいません」


空は頭をつけたままだった。それを嘲笑うかのように、二人は角に消えた。


「けど、まっ! いい記事書けるわよ、貴方がいっぱい言ってくれたから」

「……は?」


先程までの辛辣な表情はどこへ消えてしまったのか、彼女は、笑顔で空の前にしゃがみ、言った。


「もしかして、やっぱり悪い記事じゃ……!」

「いいえー、貴方がいっぱい言ってくれたから、妄想が膨らんじゃって、いい物になるわ、次もよろしくねっ!」

「へ……?」


そう言って空の頭をポンポンと撫でると彼女は颯爽と気持ち良く去っていった。

空がぼけーっと口を開けているので、私は思わずクスクス笑いながら、空の頬をつついた。


「よく、頑張りました」

「え? ぁ、俺なんとかやりきったんだ?! やったぁっ!」


空は、冷や汗を拭きながら、そこに正座していた。なんちゅう、頑張り屋サンだ。私も精一杯頑張らなきゃならなくなったじゃないか……。本当、君は凄い。


「おーい、マネージャー! ちょっと!」


後ろを振り替えると、そこには、あの有名なカメラマンが居た。名前は忘れたが、SIの専属カメラマンだ。部屋から顔をだし、そこから何やら封筒を持って手招きしている。


「ぁ、はい」


空が急いで立ち上がり、その部屋に入ったから、私もそれに続く。


「ん? そいつは誰だ?」

「俺と同じくSIのマネージャーですよ」

「へぇー」


彼は私を下から上まで舐めるように見た。彼はいつもこうである。新人なのに絵にする人間を凄く選り好みすることでも有名なのだ。彼がSIを選んだ時は、本当に驚いた物だ。何故なら、彼らがどのカメラマンに対しても、張りつけた表情しか出さなかったからだ。そんな人が空に何の用なのだろう。


「あの、さっきの、やりすぎました? 大丈夫でした?」

「いやいや、本当にいいの撮れたんだって! あんた、中々やるねぇっ、真剣女だと思ったよ」


空の背中をバンバン叩くカメラマンは、片手にタバコを持って、かなり機嫌がよかった。と言うより何の話をしているんだ? あんた、やるねぇ? 真剣……女?


「……な、何の話なのさ、空! もしかして、空もとっ――」

「――しぃっ!! ちゃんと話すからっ、二人には内緒だっ」


かなり焦っている空ににこやかに笑うカメラマンは、その大きな封筒を、空に渡した。


「大丈夫だ。あんたの顔が写っているのはそれだけだからよ」


ニヤニヤ笑いながら、空の反応を楽しむ、カメラマン。空は、恐る恐るそれを見て、大きく溜め息をついた。


「ちょっと、な、何なの?!」

「……はい」


うなだれる空は、その封筒を手渡す。何もわからず、それを恐る恐る出してみた。


「……綺麗……」


最初、それを見てそれしか出なかった。


「……綺麗……」


最初、それを見てそれしか出なかった。


白い背景に、赤いソファー。そこには、白いドレスを着た髪の長い女の子、そこに、両側には黒いスーツを着た、SIの二人。いつもより表情が全然違っていて、こちらを見ていても、体が女の子を求めていた。何かにしがみつく彼らを初めて見たからだろうか――かなりの違和感を覚えた。それに、空はどこにも……――それにしても、この女の子凄いな……奴らを本気にさせてる。黒目で、透き通った肌にピンクのチーク。薄い口紅を塗った唇がよく映えていた。けど、見たことないよ、こんなに可愛いなら売れてるはずなのに……。腰まであるその長い髪は、よけい彼女を引き立てた。


「……あの、彼女は何ていうんです?」

「ん? あぁ、Lina、だよな、Linaちゃん?」


そう言って、彼が話し掛けたのは、空。


「ぇ、えぇぇぇっ?!?!」


あははと苦笑する彼女には、その写真の面影は一切、なかったのだ。


第一、彼女の目は、青く、髪は肩につくかつかないかぐらい。頬には湿布が貼ってあるのだから――









「――では、今からドラマの撮影している、長野まで、持田さんの車でいきます。睡眠とってくださいね、十分に」


空が、ほほ笑みながら言った。痛々しい頬の湿布の内側は、まだ腫れているらしい。先程から無口な二人に多少心配しているようだ。自分がやりすぎたのかもしれない、と。あれは演技だったのにーっと泣いていたくらいなのだから。


「……マネージャー」

「はい?」

「今日、一緒に写真撮った奴、どこの事務所か知ってるか?」


新羅がまともな質問をしたので、多少驚くと、空はまた、笑った。


「……いえ、知りません。第一、そういう予定はなかったので」


にこやかに笑う彼女の片隅で、女が見え隠れしていた事に、私と持田だけはわかっていた。だが、それ以上に、彼らは突っ込まなかったし、全員静かになった。それぞれの思いを心に、私たちは長野へむかったのだった――





――ついたのは、その日の夜中の1時で、俺達はそれぞれの部屋にチェックインした。そして、持田さんと俺だけが、車に戻った。


「……持っていてほしいものがあるんだ」

「……何を?」

「これ」


さしだした先程の封筒を、持田さんは、首を傾げながら中身を確認した。


「……君?」


持田さんは、そう一言だけ聞いてきたから、迷わず頷いた。頬を押さえながら、その写真を遠目に見た。頬の腫れはメイクでどうにでもなったし、目にはカラコンが仕組まれていた。だけれども紛れもなく、自分だった。


「燃やして、俺の保護者でしょ?」

「いいんですか?」


彼が言いたいことはなんとなくわかったが、証拠は残しておくのはばれる為の一歩を進んでしまったようなもの。絶対、持っておき部屋に隠しておくような事はできなかった。

だからと言って、自分で燃やすことはできなくて。


「いい。ばれるよりマシ」


ばれたとき。


彼女はどうなる、


どうなるかなんて、想像したくない。あの人が壊れてしまうくらいなら、いっそ、ずっとこのままでいい。


「わかりました」


持田さんは、その封筒をゆっくりとカバンの中にしまい込む。


「それは、存在しちゃいけない自分だから」


カバンを閉めた彼の動きが止まる。


「そんなこと、言ってはいけない。貴方自身、本当の貴方を潰してしまう」

「本当の自分なんて、元よりいない」

「……じゃぁ、何故、泣くんですか」


自分の湿布を貼っていた頬に手を添える彼は、また、自分に対してそのポーカーフェイスを崩して苦笑していた。


この人は、ずるい。


「……変態」

「心外ですね、俺は貴方の女の涙を拭き取ったまでだ。貴方を襲おうとはしていない」

「そういう問題じゃない」


ふぃっと顔を背ける。すねてやる。


「まぁ、時にはそういう貴方も見せて下さい。そういう貴方を知っているのは、私だけでしょう?」

「エセ紳士め」

「何とでも」


そう言って笑う彼は、自分の頭をポンポンと撫でる。いつも無表情な彼を見ていると、本当にその顔は嘘のようだった。


「それに、あんただけじゃねぇもん」

「……彼女も、とおっしゃりたいんですね」


そう言って、また、ニッコリ微笑むこの人を睨んだ。元はと言えば、この人がバレてしまう元凶だったんだ、と思い知らされて。彼は、ドアの向こう側にいる那智に、手招きをする。彼女は、何の断りもなしに後ろの席に座って、俺ではなく、持田さんを睨んだ。


「……何、泣かせてんのよ、保護者」

「見てたんですか、悪趣味ですね、那智お嬢様も」

「よくもそんなことをぬけぬけと言える事ね! あんたの立場は何よ!」

「親馬鹿理事長の秘書、兼城島空の保護者ですよ。それ以上でも以下でもありません。今の発言は両者を兼ね備えた者の発言なので」

「……つくづくムカつく奴……」


ふんぞり帰る那智とは裏腹に、持田さんの表情は堅いまま、静寂が流れた。どういう状況なんだ、ここ。


「……とにかくっ、空は私のモノなの! 気やすく触んないでよねっ!」

「……那智?」


――なんちゅう可愛いことをっ!! 凄い、今、後ろの座席に飛び乗って抱きつきたいんですがっ!


「僕を、私を守ってくれるんでしょう?! 最後まで、役目を全うしてよねっ!」


もう、頭がフリーズしていた。何だ、こんなに可愛い事ほざくのは。もちろん、全うしますともっ、全う絶対しやすよ、お嬢っ!


「那智、行こうっ」


満面の笑みとはこういうモノなんだろうな。今の顔がどれだけ歪んでいるんだろう。湿布付きだし。


もう、那智が可愛すぎるし、うれしすぎるし、何もかもが幸せだと思えた。


「明日は、ロケ地までの送り迎えお願いしますねっ」


持田さんに、そう言い捨てて、俺はいつのまにか那智の手をつかんで離さないで、そのまま、ホテルの部屋にむかっていた。もう、うれしくて、たまらなくて。


俺を求めてくれる人が居たから。


「空っ? ちょっ、どうしちゃったのさっ」

「んー? 秘密ー」

「何、それーっ」


笑いながらついてきてくれる、彼女にただ、喜びを感じて。可愛いこの子の手を、いつまでも握っていたかった。


ついた部屋の前で、カードキーを捜し出した。


「空、大丈夫だって」

「ん? ぁ、カードキーならあった!」

「じゃなくて。そんなに、強く握っていなくても、僕は君の横にずっといるよ?」


彼女の笑った顔が、本当にやさしくて温かかった。


体が勝手に動いていた、そう言えばよかっただろうか。彼女の手を引っ張って、中に入って、気が付けば彼女を後ろから強く強く抱き締めていて。



――大事で大事で仕方がないこの子にそんなことを言われるとは思わなかった――



「絶対、守るよ、俺のお姫様」


にかっと笑うと、クスクス笑いながら、見上げて、俺の湿布が貼られた頬を触りながら、彼女は言った。


「全く、君はぼくと同じ何でしょう? そんなにかっこよくていいのかな?」

「いいの。俺にとって、那智は大事な人だから」

「なんか、告白されてる気分」

「えー、俺はそういうつもりー」

「こら、君と私は女の子でしょうが」

「レズ?」

「うーん、そういう気はないよ、私」

「うわ、玉砕」


笑いながら、二人でベッドに飛び乗った。二人がそれぞれの顔を見て笑った。俺の場所はここだ。あの人の前じゃない。あれは……、あれは、自分じゃないから。


「頑張ろうね、空」

「おう、頑張ろうな、相棒!」

「よろしく、相棒!」



相棒、か。



それもいいかもしれない。伸ばされた彼女の細い手をつかんで、握る。二人は、お互いを見据えて、硬く、握手していた。










取り残されて、ため息をついた。

また、取られてしまった。なんで、お嬢様はイイタイミングで入ってくるかな。


溜め息をついて、彼女らの後を追って見ていたが、どう見ても、男女にしか見えなくて、彼の青い目に迷いがなくなっていた。


別段、急いだはずがなかったのに、いつの間にか、廊下に彼らの姿を見つけた。


「……気付いたな、お嬢様」


彼女はこちらをふぃっと見たが、すぐに、彼に振り返って、何かを言った。そして、彼は、強引に彼女を部屋に連れ去った。


「……おいおい、どこのバカップルだよ」


独り言が妙に響いて、苦笑する。どうしても、自分はあの子を女の子にしてしまうらしい。どうしても、その隠れた女の子を引き出したくて、しょうがなくなるのだ。あの子の感情は無視して。


いつのまにか、また男の子に戻った彼を見て、溜め息をつくのだ。つくづく、自分が変なモノに引っ掛かったな、なんて思いながら。




今日も、負け。



いつ、彼女には勝てるだろうか。そのときは、きっと、秘書としての自分が居ないときだ。







――Linaと空――終了

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