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可愛らしい人 2

「ところがさぁ」とミノリ君が喋り始めたとたんに嫌な予感しかしない。「今日オレとデートする事が兄ちゃんにバレて、兄ちゃんが夜りっちゃんの…」

「ミノリ君!」慌てて話を止める。「水!いっぱいになり過ぎるんじゃないの?」

「ふん?」と言ってミノリ君がニヤッと笑う。「あ~~止めてくる」

 この子は本当にイヤな子だな。



「りっちゃん?」キヨミさんが言う。「私の事どう思う?」

「…」え~~~…ダイレクトだな!自分に自信のある人の聞き方っぽい。そりゃあるよね。こんだけ魅力的だったら。

 どう答えるのがベストなんだろう…ってベスト回答を出そうとしているのが変だしせこいとも思うが、何と答えたらこの場をすうっと通り抜けられるんだろうと考える。

 すうっと通り抜けたい。そして家に帰りたい。

 キヨミさんは本当のところ、私の事をどう思っているんだろう?


「どう答えたらいいかな、って考えてるの?」キヨミさんが小首を傾げる。

 うわ、可愛いな…こういうしぐさをするたいがいの女子からは胡散臭さと過剰演出が疑われるのだが、キヨミさんの場合はただ本当に疑問に思ってるから、と言う感じしかしない。

 可愛いなって思ってます、って答えたらキヨミさんはどんな風に思うだろう。私は今心からそう思っているけれど、キヨミさんが、わざとらしいお世辞を言われただけと思ったりしたら嫌だな。

 好きか嫌いかで考えたら嫌いじゃない。嫌いじゃない、なんて答えたら上から目線のような気がするけれど、今のところ嫌いに思う要素がないのだ。キヨミさんには負の要素が感じられない。たぶん心の中もその笑顔のような人なのだろう。

 今みたいに『私の事をどう思う』って聞かれても、嫌な感じはしない。本当にどう思っているか知りたくて聞いているんだろうなと思う。

 まぁ私は姑息に、どう答えたらそれがうまい答えになるだろうと思ったけれど。



 「…はい」と私は答える。「どう答えたらいいかなって思ってます」

「そっかぁ」とキヨミさんはニッコリと笑う。「そうだよね、思うよね。じゃあ…私がりっちゃんの事どう思ってるかわかる?」

 嫌だな、その質問。

 キヨミさんが私の事をどう思っているのか、キヨミさんから聞いてみたいと思うけれど、それを私に当てさせるのは…やっぱほんとは意地悪なのかな…。

 いや、やっぱり私が思っているようにキヨミさんの心はとても澄んでいているにも関わらず、キヨミさんより明らかにさえない私の方を、キヨミさんを断ってまで好きだとか言い出しているハルちゃんの事がまだどうにも好きだから、私にどうしようもなくて意地悪してるのかも…。

 どっちにしろ嫌だけど。

 …どう答えていいかわからない。嫌な間が空く。



 水を止めたミノリ君が私の方へ戻ってきた。

「あ、水草入れてくれたんだ」とミノリ君が言う。

言ってる相手はさっきから、私とキヨミさんの会話を聞いているのか聞いていないのか、とにかく一言も発せずにそばに立っていたリョウさんにだった。

 水草?

「えっ!?」と結構大きな声を上げてしまう。

 ビニルプールの中にはいつの間にか結構な量の水草が入れてあった。

 いつの間にか…本当にいつの間に?

「じゃあ、これも」

そう言ってリョウさんがポケットから黄色いスーパーボールを幾つか取り出す。

 ポケットにスーパーボール入れてたの?

 ポンポンポン、とそれを水の入った、そして水草も入ったビニルプールに入れると、それが水に浸かった瞬間に黄色いビニール製のアヒルの浮かぶおもちゃに変わった。

 スーパーボールが!!

 ミノリ君を見るが、こちらに戻って来る時にもって来ていたポットのお湯をざばぁっとビニルプールの中に全て注ぎ込み、おもむろに右手をビニルプールに突っ込んで「まだちょっと冷たいな」と言う。それから、「リョウさん、アレやってよ」と。

 言われたリョウさんはビニルプールの縁に近付き自分の前4,5センチのビニルプールの縁をきゅうっと右手の人差指でこすり、今度はその右手をくるぶしまで入れぐるぐると水をかき回した。

 何?何の儀式?キヨミさんを見ると、ビニルプールに浮かんだアヒルの一つを掴んで、それをギュッとつぶしまた元に戻るのを待ってまたつぶしを繰り返している。

 …何?この『リョウさん』何もの?マジシャン?

「よし!」とミノリ君が言った。「ビイ連れてこよっと」



 ミノリ君が猫のゲージに入ったままビイを持ってくると、その後から黒猫のキイもついて来た。

 「キイ!」と叫んだのはキヨミさん。「キイじゃん!久しぶりい!」

 いや、キヨミさん。普通の友達に話しかけるようにキイに話しかけてるけど。

 そして言われたキイはピタッと動くのを止めた。

「キイ?え、何で?」そう言ってキヨミさんは凄い勢いで手招きをした。「こっちって!キイ!!無視するなコラ」

 10秒くらい微動だにせずに、じっとキヨミさんと対峙していた猫が、タタッと走って来た。

「よ~し!。お利口じゃんキイ」とそのまま足元まで寄ったキイを撫でようとして、キヨミさんは瞬時にキイの四肢に腕を巻きつかれ引っ掻かれ、噛まれていた。

「ぎゃぁっっ!イタっっ!痛い!キイ!痛い!」

 キイを振りほどき、やられた所を撫でるキヨミさん。

「キヨミさん!」と叫ぶ私。

「あ~~~」と言う顔の、リアクションの薄いリョウさん。そしてキイとキヨミさんを指さして大笑いするミノリ君。



 キヨミさんの左腕には数本の結構長い引っかき傷と3か所の噛まれたらしい痕。血がにじみ出している。

「いっつもやられるのに、何友達ぶってキイを呼んでんの?」ミノリ君が遠慮なく言う。

「ミノリ君!もっかいちょっと水出して来て!」

私が言うとミノリ君は「へ?」という顔をするのでさらに言う。

「早く水で洗い流して綺麗にしなきゃバイ菌入るよ」

「ありがとう、りっちゃん!」キヨミさんが言った。「優しいね。こいつらぬるく笑ったり派手に笑ったりしてるのに。私自分で洗面所に行ってくるよ」

 スタスタと塾長の家の中の勝手口に廻るキヨミさん。

 そっか、何度も来た事あるって事ね?

 ミノリ君もキヨミさんとは仲良くしてたらしい感じが伝わって来る。



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