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再び奥さんの言うことには 2


 「私も泉田先生は好きよ」と奥さんが言う。「でもねりっちゃん」

奥さんの声は優しい。そして私を慰めるかのようだとも感じてしまう。

「こんな事言ったら嫌かもしれないけど」と変わらない優しい綺麗な声で奥さんは続ける。もちろんちゃんと運転しながらだ。

「どれだけ好きでも絶対どうにもならない相手や、どんなにお互いが近付いても絶対に交わらない相手っていると思うんだけど、りっちゃんにとっての泉田先生はそんな感じだと思うのよ。泉田先生はりっちゃんの事を嫌ってはいないし、優しく扱ってくれると思うんだけど、どんな事があっても絶対に恋人同士にはならない組み合わせだと思うの。りっちゃんは自分でもそれが分かってるでしょう?」

 塾長にも同じような事言われたな。泉田先生は私みたいなやつとは付き合わないって話だ。

「でもね」と奥さんは続ける。「奥田先生には早くちゃんと断っといた方がいいんだと思うのよ?」

そうか、奥さん、奥田先生の事も知ってるんだ。

「どうせ付き合う事なんてないんだから。泉田先生に悪いとか思ってたらそれは、奥田先生に対しても失礼な事でしょう?」



 「この世には」と奥さんが続ける。「どんなに離れた所にいても結局巡り合ってしまう人もいるし、どんなに思い合っていても一緒にいられない人もいるし。それでもちゃんとね、良いようになってるんだと私は信じてるのよ?会うべき人とは会えるようになっているんだと思う。ねぇ?」

「…はい」

 はいと返事はしたがそうなんだろうか。それでもどうにか自分でも、相手に思ってもらえるようにある程度努力するのは当然の事だし、相手に迷惑じゃなかったら、良い事だと思うけど。

 奥さんがチラッと私を見て言った。「ハルカの事、迷惑?」

ぎくっとする。「…いえ」

「じゃあ本当のところ、どう思ってるの?ハルカには絶対言わないから。ちょっと教えて欲しいの。ぶっちゃけそれはね、孫のためっていうより全部創作のため」

…そうか創作のためか。

「突然だったので。15年くらい全く会っていなかったのに、突然そんな、私の事を…その…好きだとか言われても信じられないし…。だって本当に好きだったらそれまでにも会いに来てくれたり、電話とか…私もわかってるんです。泉田先生とはどうにもならない感じなの、自分でもわかってるんです、ちゃんと」



「あの次、すみません右でお願いします」私は運転する奥さんに行く道を伝える。「あ~うん…」奥さんがなぜか苦笑している。

ここら辺りからちょっと道が狭くなってるし、いちいち説明して道を折れてもらうのも申し訳ない。「私、歩いて帰れます。この辺で降ろして下さったら…」

「あのね。気持ち悪いって思うのはわかってるんだけど…」奥さんが言いにくそうだ。「家、知ってるのよ私」

ナビかなんかで前もって見たって事か?

「もう3回くらい来た事あるの。りっちゃんち、っていうより、それはハルカが前住んでた、りっちゃんの隣の家にって事なんだけど。ハルカに頼まれてね、連れて来た事あるの。むかしの家、見ときたいって、例えば進路とか決める時とかね、母親が再婚する時とかね、迷ってる事があるとそれを自分で整理するためにむかしの家見たいって言って」

「…」

「たぶん、りっちゃんの事見たかったんだと思うけど。ちょっと…というかだいぶ気持ち悪いよね!!りっちゃん見たくて来てたとしてたら。だから私にもそれは言わないようにしてたんだと思うのよ~。どっちにしろやっぱり気持ち悪い?どう?どのくらい気持ち悪い?」

う~ん…「もうよくわかりません」



 家のすぐ近くまで奥さんは送ってくれた。

 母さんにも会って挨拶したいけど、と奥さんは言ってくれたが、あいにく母さんは昼からパートに行っているはずだ。

 ハルちゃんのお母さんの事も聞いてみたが、今は再婚して、その旦那さんの転勤で他県に住んでいるらしい。

 「お顔を見れて良かった」と奥さんが、車のドアを開ける私に言ってくれた。「りっちゃんの事は1回も見た事なかったけど、なんかむかしから知ってる感じ。でも実際会えて話せて嬉しかった」

 大変ありがたい言葉だとは思ったが、私はそれにうまくお礼も言えなかった。


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