再び奥さんの言うことには 1
「オレが送る」とハルちゃんが言う。「いろいろ話したいから。話す事によってオレの気持ちを整理したい」
「あら、」と奥さん。「ここで話せばいいじゃない」
「そうそう」とミノリ君。「オレ、お茶を入れ直してくる。オレもせっかくだから学校休もうかな」
「おや?ハルカも来たのか?」とリビングに戻ってきた塾長。
「あの~」と私。「本当に私このへんでお暇しようと思います」
4人が一斉に私を見た。目が泳いでしまうが関係ない。
「今日ありがとうございました。ケーキ、とても美味しかったです」
「来週も来る?」と奥さんが聞く。「それか、りっちゃんは木曜休みなんでしょ?」
「…」
木曜の休みもここに来て、私はいったい何をしたらいいんだ。
「木曜だったら」と奥さんは続ける。「ミノリもハルカも邪魔出来ないからゆっくりケーキ食べれるでしょ?」
「…」
奥さんは私を呼んでどうしたいんだ。
「ばあちゃん」とハルちゃんが言う。「面白がるのは止めてよ。ほんとに、みんな止めて。ミノリが邪魔しようと思うのもまぁわかるけどさ。今までのいろんな事はオレからちゃんとリツに話したいし」
「じゃあやっぱりっちゃん帰ろ」とミノリ君。「りっちゃん送ってそのまま学校行くから。来る時もオレがバイクに乗せて来たんだよ。りっちゃんのおっぱいがオレの背中に…」
「ミノリ!」とミノリ君を注意したのは塾長だった。「ダメだよ。今一瞬ですごく想像したから。中野さんのおっ…」
「じいちゃん!」と今度はハルちゃんが塾長を注意した。「もうほんと止めて。そっとしといてよ。頼むよ。オレは普通にリツとむかしみたいに仲良くなって、なんかいつの間にか普通に大人の付き合いしてる感じになって、そしていつの間にか普通に結婚しようかっていうような感じにもって行きたかったの!」
「結婚!!」と驚いた声を出したのは私ではない。奥さんだった。
もう私は一言も口を挟めなくなっていた。
奥さんは言った。「付き合う前から結婚の事出すなんてずうずうしい。ねぇりっちゃん、今の女の子ってそういうのすごく嫌だと思う人が多いんでしょ?『勝手に決めないでよ!』とか言っていいのよ?私たちの事は気にしないで、ちゃんと言いたい事を言いなさい?」
いや~~もう早く帰りたいだけです。
結局私は奥さんに車で送ってもらう事になった。
「私のお客さんなのよ?」と奥さんは諫めるようにハルちゃんとミノリ君に言った。
そうなんだよね、私は確かここにケーキをいただきに来たのだ。帰りに、これもまた奥さんが作ったという紅茶のシフォンケーキを渡され恐縮する。そして塾長に見送られるのも何となく恐縮する。恐縮しながらも、私は今日いったい何しに来たんだとも思う。
ハルちゃんが塾長の隣でムッとしている。ミノリ君は先に学校へ行ってしまった。
助手席に私を乗せた奥さんが運転しながら質問してくる。
「もう読んでくれた?」
「…はい?」
「うちの旦那さんが書いてるやつ」
「…ネットで掲載してる小説の事ですか?」
そうそう、と奥さんは頷く。
奥さんの車にはワンダイレクションの曲が流れていた。ラジオかと思ったがCDだ。
塾長には読んでないって言ったけれど奥さんには正直に言ってしまう。
「ちょっとだけ見ました。ほんのさわりだけ」
「さわりだけかぁ…じゃああんまり面白くなかったって事?」
「そういうわけじゃないんです」
すぐ閉じたのは恥ずかしかったからだ。でもそう答えづらい。モデルが私とハルちゃんとミノリ君、泉田先生だなんて思っているのが自意識過剰な感じに思えて恥ずかしいからだ。でもまぁ実際に絶対私たちがモデルだと思うけど…と私が考えてる間、奥さんはワンダイレクションの「ロック・ミー」を一緒に口ずさんでいた。
「それで」とさらに聞かれる。「どれを読んでくれたの?」
「…王様の…」というのが本気で恥ずかしい。
「あぁ!泉田先生が門番のやつね!」
やっぱりあの門番は泉田先生モデルか。
「門番はね」と奥さんが説明を始めた。
止めて、聞きたくない~。
「ハルカ…じゃなかった、王様にね、無理矢理徴兵されて戦地へ送らされそうになるの。それを止めさせたかったら言いなりにな…」
「わかりました!」私は慌てて奥さんを止める。「今度またゆっくり読んでみますから!」
「そう?」




