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奥さんの言うことには 1



 その中にあったのはおそらくうちの隣から引っ越した後からつい最近までのハルちゃんだった。

 いや、ハルちゃん中心のものだった。

 私が積極的にページをめくらないので、塾長がじれったそうにめくっていってくれる。

 私の見た事のない場所に、私の見た事のない人たちといるハルちゃん。ミノリ君や二人のお母さん、塾長と奥さんも出て来たが、後は知らない人ばかり。

 運動会で走るハルちゃん。海で遊ぶハルちゃん。山道で振り返るハルちゃん。小学校の卒業式、中学の入学式…


「見たいかと思って」と塾長が言った。「ここ何日かでうちの奥さんと抜粋しといたんだよ」

 う~~~ん。どんなリアクションをしたらいいかわからない。

「見たいかと思ってね」ともう一度塾長が言った。

 見たくないわけじゃないし、どっちかと言うと塾長の言うとおり見たいのだと思うけど、ハルちゃんのアルバムを用意して待っていてくれているとは思ってもみなかったし、第一本人がいないところで私が見てもいいんだろうか。

 私だったら嫌だな。私がいないところで私のアルバムを見せられたりしたら絶対嫌だ。


 修学旅行とか、音楽祭とか文化祭とか、学校で購入したであろう写真まであった。結構女の子に囲まれている。ハルちゃんのそばで写っている女の子たちのキラキラした笑顔、そして反対に死んだ目のハルちゃん。顔を手で隠しているのもあった。結構面白いけど…

「見たいかと…」

塾長しつこいな!

「でも本人はこういうのを勝手に見せられるのって嫌なんじゃないでしょうか?」

正直に口に出した私のその問いかけには答えずに、塾長はゆっくりとページをめくる。だんだん大きく、そして今に近付いてくるハルちゃん。



 奥さんが大きなお盆にホールのケーキを持ってきてくれた。その後からミノリ君が紅茶を運んで来てくれる。お茶とケーキをテーブルに置くと奥さんが塾長を横にずらさせて私の前に、そしてミノリ君が私の横に座った。

「ほらほらこれ」と塾長がアルバムの写真を指さしながら言う。「高校の頃一番ハルカにガンガン言い寄ってきてた、なんていう女の子だったかな…最初は面白かったけど、最後の方はもう私たちも困るくらいの…なんていう名前だったけ?」

「なんかもう誰かの誕生日みたいなケーキ作っちゃった」

奥さんは塾長を無視して私にニッコリと笑う。

 本当に綺麗な人だな。写真よりも綺麗。これだけの歳を取っている人でこんなに綺麗な人は、本当に初めて見る。



 奥さんが持って来てくれたのは、イチゴが山盛りにのった30センチもあるホールケーキ。ブルーベリーやミントの葉でゴージャスに飾られている。

「ミノリは誕生日終わったばっかりだし」と奥さんが言う。「りっちゃんは9月が誕生日だったわね~」

奥さんが私の誕生日を知っている事に驚く。そして私の事を『りっちゃん』て呼ぶんだな?

「でもりっちゃん?」奥さんが続けた。「せっかくだからろうそく立てて消してみようか?りっちゃん何歳だったけ~」

「いえ!あの私…」

言いかけるが奥さんはさらに続ける。「食器棚の右端の引き出しのどこかに誕生日用のろうそくがあったはずなんだけど」

「あ~じゃあせっかくだから取って来るよ」と塾長が立ち上がる。「ミノリは中野さんがろうそくの火を消すとこ写真撮ってあげて」

「いえ!」私は急いで塾長を止めた。「すみません、せっかくですが結構です!」

 誕生日9月なんだって!


「そう?」と少し残念そうに言った奥さんは早速にもナイフでケーキを8つに切り分け、その一つ一つを手慣れた感じでサクサクと4つの皿に取り分ける。動作が機敏だ。

「これこれ」と言ってミノリ君が見せてくれたのはミノリ君と同じくらいの歳の可愛い女の子が一緒に写った写真だった。

「このページはさ」とミノリ君が説明する。「僕が監修したんだけど、僕と仲良くなりかけて、でも兄ちゃんの方がいいつって兄ちゃんに告った子とか、はじめから兄ちゃん狙いで僕と仲良くなろうとした子とか、完全に僕と付き合ってから兄ちゃんにも近寄っていった子とかをまとめてみました~~」

 あ~そうなんだ~…

「りっちゃん食べて?」と奥さんがニッコリと笑った。



「それでさっきの質問なんだけど」真っ先にケーキをほおばった塾長が、もごもご言いながら言う。「昨日の帰りは送ったんだろう?ハルカが」

「…」

「いや、それは確実に把握しているところだから」

「…はい」

「それで?」と奥さん。「もうチュウとかされちゃった?」

奥さんも聞くんだ!「されてないです!」

 力強く答えてしまうと、3人にじぃっと見つめられた。

 負けて目を泳がしてしまう。居心地悪っ!

「「「やっぱりされちゃったんだ¬~~」」」三人が声を合わすので、来てしまった事を本気で後悔する。

「それで実際のところ」と、切分けられたケーキをもう食べてしまった塾長が言う。「ハルカの事をどう思ってるのかな。あ、ケーキおかわりもらおっかな」

塾長はもう一切れケーキを自分の皿に入れた。

「ハルカの事好き?」と奥さんも聞く。

 本当に超居心地が悪い。「…大事な幼馴染だと思っています」

「「「そんなこと聞きたいんじゃないって」」」

3人同時にそう突っ込まれて黙り込む私だ。




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