表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/131

お呼ばれ 3

 塾長の家は駅の裏手の方の、むかし大きなディスカウントショップがあったところがつぶれて造成され,市に買い上げられて公園になったところからまだ向こう側の区画にあった。駅前から一転、静かな住宅地だ。

 2階建ての黄色い家だった。庭がわりと広そうで、家周りも趣味良くガーデニングされていて、そのままこじゃれたカフェでも開けそうな感じだ。

 時間にしたら15分もなかったと思うが、バイクの後ろはカーブを曲がるたびに怖くて酷く長い時間に感じた。実際何度もギャーギャー叫んで、その度にミノリ君に笑われた。場所を教えてくれていたら自分で自転車で来たのに。

 メットをはずしながらミノリ君がニコニコ顔で言ってくる。「すげぇ良かった。りっちゃんにしがみつかれんの」

 あ~そう。来るだけで疲れた。

 ミノリ君が玄関を開けて「りっちゃん来たよ~~」と叫んでくれたのに誰も出て来ない。もうあがればいいよ、と言われて躊躇するが結局ミノリ君に手を引かれて促され私は靴を脱いだ。

 リビングに通されてミノリ君はお茶を入れてくれるために台所へ行く。



 初めて来た家の、しかもそれは雇用主の家のリビングに上がり込んで一人きり…大変気まずい。そわそわする。しかも私は手ぶらだった。昨日の今日で何の手土産も用意出来なかったし、ミノリ君にはいいと言われたが、途中でどこかに寄ってもらって少しお菓子でも買うべきだった。今になってとても気まずい感じがする。

 座って待っててと言われてソファに腰掛けているのだが、立って部屋をうろうろしたくなる。

 リビングは板張り、壁は落ち着いたクリーム色でソファも薄い黄色だ。この家も塾も黄色いし、塾長は黄色が大好きなんだな、きっと。

ミノリ君が戻ってくるのが遅い。

 ソファの前のテーブルの上には分厚いアルバムが置かれていた。テーブルの上にあるのはそれだけだ。ぐるっと座ったまま部屋を見回す。ソファの真後ろにあるチェストの上には、ハルちゃんとミノリ君がちょうど私の家の隣にいた時くらいの、二人とも笑っている写真があった。

 可愛いな、やっぱり二人とも。

 部屋の中にあるのは後、1メートルくらいの高さまで伸びた観葉植物の鉢が二つ。

 部屋の入口に黒い小さな影が見えてビクッとする。あ、黒猫が入って来た!

「おいで」と小さい声で猫を呼ぶ。「おいでって」

人差し指を伸ばしてフルフル振って見せると小首を傾げ興味を示した。目は黄色い。じっと私を見ている。

「おいで」

 もう一度言いながら指をフルフル続けるとゆっくり近付いて来る。が、ソファから50センチの所まで来たと思ったらそのまま何事もなかったようにゆっくりと歩いて部屋から出て行った。

「ねこ~~~~」もう!猫でもいいから一緒にいて欲しかったのに。



 やはり立ち上がってミノリ君を呼んでみる事にする。

「ミィく~~~~ん」

にゃ~~~~~と返事があった。さっきの猫だ。きっと。

「ミィく~~~~ん」

にゃ~~~~~。

 可愛い!

 もう1回、と思って「ミ…」と言いかけた所に背後から両肩を掴まれた。

「ぎぃやあああああ!」

 叫びながらパッと振り返ると塾長と塾長の綺麗な奥さんが立っていた。

 どこから出て来たの!

 ケラケラと二人は笑った。「「そんなに驚かなくても」」と声をそろえる。

「今ケーキとお茶持ってくるから」

挨拶もまだなのにそう言って奥さんはすぐ部屋からいなくなった。


「中野さん」塾長が小首をかしげている。「なんでアルバムを見ない?」

いやぁ…いや今はビックリして返事が何もできないんですけど。

「なんでアルバムを見ない?」

同じ質問が繰り返される。

「なんでアルバムを…」

「人んちのアルバムだからですよ!びっくりしました!どこから入って来られたんですか二人とも」

 庭に面した大窓も今も開いていないし、開いた気配もなかった。

「まぁ座りなさい」と塾長が言う。「うちの奥さんがもう夕べから楽しみにしててね。夜中にケーキ焼いてたよ。それで?夕べは?ハルカと帰ったんだろう?チュウくらいしてきたかな?」



 来なきゃ良かったと思いそうな事は想像していたが、私は塾長の質問には全く耳を貸さず、今日は手土産を持って来ていないので、奥さんの好きなものを教えてもらえないかと頼んでみた。

「いらんよ」と塾長は言う。「うちの奥さんが中野さんの事を見たくてたまらないらしくて。昨日ミノリが帰って来てハルカが中野さんを送って行ったって聞いたもんだから、よけいね。今私が書いてる小説なんだけど、ハルカとミノリと中野さんをモデルにした…」

「ああ!」と私は声を張って塾長の話を遮った。書いてる本人にあのケイタイ小説の説明なんかされたら、私はいったいどんな顔をしていればいいのか全くわからない。

「やっぱりアルバム見せてください!」


 促されて私はソファに戻る。テーブルを挟んで前のソファに塾長が腰かけた。塾長が私の方へずずっとアルバムを差し出す。

う~~~ん…でも本当は見たくないような気がするし、見ない方がいいような気がする。

「どうぞどうぞ」と言われてしぶしぶ私はアルバムを開ける。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ