お呼ばれ 2
着ていく服を迷う。塾長だけなら別に普段の仕事着と同じようにシャツとジーンズでいいと思うが、奥さんには綺麗に見られたいと思う。いや綺麗にとまでいかなくていいから小奇麗でちょっと賢いんじゃないかしら?この子、って感じに見られたい気がする。すごく綺麗な人に「あら何この子」みたいな目で見られたら、今よりさらに自信のない私になりそうだ。かといってあんまり小奇麗にしていって、私が気に入られようとしていると思われるのも嫌だ。と、つまらない事を迷う。
もういいや時間もないしジーンズで。着替えて外に出て待っておこう。母さんがミノリ君を見たらまた面倒くさい事になるかもしれない。
そう思っていたら、やっぱり面倒臭い事になった。
10時と言っていたミノリ君は9時40分にうちのチャイムを鳴らしたのだ。
「ミィ君っっ?」ドアを開けた母さんが声を張り上げる。
チャイムが鳴ってすぐ2階から階段を駆け降りたのに母さんに先を越された。結局玄関でひとしきり騒がれる事になった。
「おっきくなったねぇ!びっくりびっくり。ハルちゃんよりも大きいんじゃない。ミィ君も滅茶苦茶かっこよくなって~~」
そう言って騒ぐ母さんにニッコリと笑ってミノリ君が聞く。
「兄と僕とどっちがカッコよくなりました?」
ケラケラと母さんは笑って、「もう~~二人ともカッコいいよ~」という。
その会話を聞いて鬱陶しい顔をしていたであろう私に母さんが聞いた。「今日はハルちゃんも来るって言ってなかった?なになになになに?兄弟でうちに遊びに来てくれたの?」
ほら、母さんがまた余計な事を言った。
「兄ちゃんとも約束してんの?」とミノリ君が呆れた感じで聞いてきた。「進展早いねぇ。りっちゃんも結局兄ちゃんに迫られたらすぐ…」
「してない」と私は話を遮る。
私の親の前で何を言うんだこの子は。
「ふうん」と言うミノリ君の目は私を少しバカにしたように笑っていて、イラっとする。
面倒だしさらに余計な事までミノリ君に喋られたらかなわないので、私は自分でかいつまんで母さんに説明をする。
夕べ塾長の奥さんから誘いがあった事、塾長からも前に来るように言われてた事、ハルちゃんは一緒には住んでいない事。そしてハルちゃんとは約束してない事。
「もう家族ぐるみのお付き合いしていくって事?」
冗談か本気かわからない顔で母さんが聞いてくるので早く家を出ようと思う。バッグ取ってくるから外で待っていて欲しいと告げたが、ミノリ君は出ようとはせずに母さんに質問した。
「夕べも兄がここまで送ったんですよね?」
「そうそう。お世話になりました。ラブラブで帰って来たよ~~」
母さんを羽交い絞めにして口を押さえたい。
「へ~~そうなんですか~~。僕なんておきざりにされたのに」
「あら?そうなの?」母さんが私を非難の目で見る。「あんたそんな格好で行くつもり?仮にも雇用主の奥様に御呼ばれしてんのに。お土産も持ってかなきゃ」
「おかまいなく」ミノリ君がニッコリと笑う。「ばあちゃんが急に言い出した事なんで」
母さんも極上の笑顔でニッコリと返す。
気持ち悪いな、この二人の笑顔。
「あ、それからお母さん」
ミノリ君にそう、ふいに『お母さん』と呼ばれた母さんがものすごく嬉しそうな顔をした。
「今日はりっちゃんお借りしますけど、今度は僕も遊びに来ていいですか?」
もちろん母さんは速攻でОKだ。私の意思なんて全く関係ない。
ミノリ君は大型バイクで来ていた。メット持って来たから、と軽く言うが私はバイクの後ろに乗った事は生まれて1度もない。
「ものすごく怖いんだけど」
「大丈夫。僕にしっかりつかまっとけば。街中だからそんなに走んないし」
ミノリ君は昼から大学に行くらしい。だから昼にはまた家まで送ってくれると言った。
「そもそも私はなんで塾長んちに行く事になったんだっけ?」
とミノリ君に間抜けな感じの質問をしてしまう。
「まぁいいよ」とミノリ君が言う。「あの人たちに家に来られるよりはいいでしょ?」




