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火曜日は朝礼の日 1

「駅のロータリーのとこでいいよね?」私は前を向いたまま聞く。

「うちに寄ってく?」

「ううん」懲りないな~この人。

「即答だな!…いいじゃん!」彼が急に大声を出したのでビクッと反応してブレーキを踏みそうになった。

「聞いたっていいじゃん。すごく気になるんだから。リツに黙っていろいろ探り入れるよりよっぽどいいでしょ?ねぇそんなにスピード出したら危ないよ?運転変わろうか?」

「今日は来てくれてありがとう」

「何か嫌だな、そんな閉めの言葉。すぐに駅についちゃうね。次の約束も出来てないのに。ねぇ、そいつ年上なの?」

「…」

「リツのその、…好きなやつの事だけどさ、どんなやつか教えてよ。もっと話をしたい」

 私はその質問をそのまま無視する。

「ハルちゃんは高校生受持つの?塾で働くようになっても、私ほとんど1階にいるからあんまり会う事ないと思うけどよろしくお願いします」

 彼は大きくため息をついたが、私がそれきり黙ると彼も黙っている。少し気まずい気もしたがしょうがない。

駅のロータリーで彼を下ろす。

「ごめん」と彼が言った。「嫌な気持ちにさせる気は本当になかったんだよ?」

「…」

「ねぇ、りっちゃん!」

 ビクッとしたが私はニッコリと笑って見せた。

が、彼はムッとしている。「もっとゆっくり話がしたい」

 彼はドアに手をかけて言ってくれたが、後続の車にクラクションを鳴らされて、名残惜しそうにドアを閉めた。



 火曜日は恒例の週1回の朝礼の日だ。

 朝礼と言っても塾が始まるのは昼過ぎ。各年代担当によって登塾時間もまちまちだが、朝礼のある時間帯はいつも、火曜の午後2時から2時半までだ。

 場所は4階の会議室。会議室と言っても普段はパイプ椅子と長机がいくつか畳んで壁にもたせてあって、がらん、とした10畳くらいの部屋だ。

 たいした内容はない。いつも階ごとに控室があるために一同が顔を合わす機会を週1回は持つ、というのが主な目的らしく、だいたい簡単な塾全体の連絡事項の通達で終わる。そしてその他諸々。検定を受かった子の発表とか、教える側に回った子の中で誰がうまかったとかを各界の主任の先生が発表したり。


 会議室にわらわらと集まって、みな適当に並んで待っていると、塾長が入って来るなり言った。

「今日は新しい先生を紹介します。2人ね。一人は正規の講師ですが、もう一人は大学生、アルバイトとして入ってもらいます」

言われて入って来たのはハルちゃんと、塾長が言うように大学生ぽく見える男の子だった。その子はハルちゃんより2、3センチ背が高いように見える。

 いつから働くのか昨日ちゃんと聞いてなかったが、今日からか。再会早いな。『次の約束も出来てないのに』とか言ってたくせに。

 本当にここで一緒に働くんだな…。塾長が私の事を幼馴染です、とか紹介したら嫌だな。



 …バイトの男の子の方はもしかしたら、ハルちゃんの弟なんじゃないだろうか。むかしハルちゃんがうちの隣に住んでいた頃の感じに似ている気がする。

 弟は当時3歳くらいだったはずだけど、その頃の弟の顔を私はよく覚えていないので、その当時の弟が、その当時のハルちゃんに似ていたかどうかも覚えていない。当時は私も小さかったから、目の前の兄弟が似ているかどうかなんて気にしていなかったのだ。

 あんまり弟の方とは遊ぶことがなかったし、ハルちゃんについてうちに来た事もあったが、ほんの何回かだけで後は来なくなった。

 なんだかムチムチして小さくてまだ赤ちゃんみたいな子だったのは覚えている。

だっこやおんぶをしてあげた事もあったな。ハルちゃんとけんかしてびーびー泣いて、鼻水を垂らしていた。それでもハルちゃんに無視されて、仕方ないから私がティッシュで鼻を拭いてあげてからおんぶして家に帰してあげた事もあった。…なんていう名前だったっけ…



 二人を前にざわっと部屋が大きくうごめいた。

ここの塾の従業員は、バイトを含め、講師と事務職の人を合わせて塾長を入れずに31人。うち16人は女性だ。その女の人達が大小波はあれ、塾長の隣に立つ2人に何らかの反応を示している。

 世の中って本当に不条理だな。特に女子って失礼な程男子を見た目で判断する。いや、男も同じか。まぁでも可愛いとか、カッコいい、とか言って、アイドルを見るように、ただ騒ぐのを楽しむ人だって多いから一概には言えないかもしれないけれど。

 そしてその、女子のみなさんの熱い視線をくぐりぬけて今紹介された2人は、2人ともにまっすぐに、部屋の後ろの方にいた私と目が合っていて、もちろん私は微妙に目を反らす。


 ハルちゃんのむかしの顔に似たバイトの子が、やっぱりまだ私を見ながらハルちゃんに何か耳打ちをしているのが目の端に見えて、微妙にそらした目を私はまた彼らに合わせてしまった。

 やっぱり弟なんだろうな…きっと兄弟でおじいさんの塾を手伝う事にしたのだ。

バイトの方の子が私の方をまた見ながら、ニッコリと笑って少し手を振ったのでびっくりする。私に手を振ってんの?私もじっと見つめてしまうと、今度ははっきりと手を振って来た。

 絶対弟だな。それでもあんなに小さかったのに、私の事を覚えていてくれているんだ。ハルちゃんが教えたのかな…

 あ、バイトの子、ハルちゃんに肘で小突かれた。



 早く朝礼が終わればいいのに。みんなにチラチラ見られるのが嫌で私は窓の外を向いた。

 今日は天気がとても良い。向こうの遠くの空の青が、春の柔らかい光にかすんで見える。仕事なんかせずにどこか遊びに行きたい。

 前の方に立っている泉田先生の頭を見ながら、あ~泉田先生がどこか連れていってくれないかな~~、と考える。


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