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火曜日は朝礼の日 2

「え~と楠木遙君と楠木ミノリ君です」

塾長が二人を紹介すると、続けて2人がペコリと頭を下げた。

 そうそう。弟はみぃ君と呼ばれていた。でも、自己紹介で私の事を言い出したりしないかなと心配する。

「「よろしくお願いしま~す」」2人声を合わせると、それを受けて部屋にいる全員が「よろしくお願いします」と口々に返した。

 

「え~…」と言って塾長が二人の紹介を始める。

 ハルちゃんの方は隣県で高校の教師をしていたけど、この春からこちらに転職をされて…と言う感じ。ハルちゃんの弟は、一浪して県内の国立大学にこの春から通い初めて初めてのバイトなので、みなさん、お手数ですが慣れるまではいろいろと手をかしてやってください…そういうまともな紹介だ。

 良かった。塾長、私の事なんて一言も話さなかった。

 当たり前と言えばあたりまえだけど、さすが雇用主。


「知合いなんですか?」

「へ?」と間抜けな声を上げて慌てて手で口を押さえた。「いえ、あのちょっとだけ」しどろもどろに答える。

 ふいに振り向いて聞いてきたのが奥田先生だったからだ。

 奥田先生は私の斜め前に立っていた。弟が手を振って来なければ知り合いだとバレなかったのに。


 奥田先生は良い人だと思う。穏やかで優しいし実直。見た目も爽やか。でも奥田先生はダメだ。大好きな泉田先生の紹介でもダメ。

 それはまず私が泉田先生の事を好きだからだが、もっと大きな理由は奥田先生の顔が元彼の顔と雰囲気が似ているからだった。


 だいたい、泉田先生は何で人の気も知らないで他の男の人なんて紹介するんだろう…そう思いながら泉田先生をチェックすると、泉田先生は腕を組んでじっと前を向いているが、前は向いているのだけれど、塾長やハルちゃん達の立っている場所をまっすぐに向いているわけではない。微動だにしないけど、目は開けてんのかな、瞑って聞いてるのかな、それとも別な事考えてんのかな、けれどやっぱり寝てんのかな…どれにしてもカッコいいな…


 うっとりと泉田先生の後頭部を見ていたら、泉田先生が「カッ!」という感じでパッといきなり振り向いたのでビックリした。目を見開いている。面白くて笑ってしまうと、ちょうど目が合った泉田先生が「何じゃあ?」という感じで小首をかしげた。…可愛い!超ほのぼのしてる…私の熱い視線を感じてくれたのかもしれない。



「え~と」と塾長が続ける。「みなさん、よろしくね。ではまぁどうでもいいけど自己紹介やっとく?…はいじゃあ遙君から自己紹介をどうぞ~~」

「え~~ただいまご紹介にあずかりました楠木遙です。主に高校生の理数系を担当しますが、小、中学生担当の先生方とも仲良くさせていただきたいと思います。ご指導よろしくお願いいたします」

 普通にまともな挨拶だ。良かった。こっちをずっと見ていたけど知り合いだとか余計な事言わなかったから。

 いや普通に知り合いだと言われるのは構わないけど、他人の前でうちに来た時のような事を言われたら厭だ。

「はいはい」と塾長が相槌を打ち、みんながパチパチと拍手で答える。

 塾長は次に弟にも振った。

 弟も挨拶をする。声がやっぱり兄弟似ているなと思う。「楠木ミノリです。小学生を担当させていただきます。バイトで週2回程度しか来れないのですがよろしくお願いします」

パチパチパチパチ。

「ハイ、では今週も体に気を付けてがんばりましょう」塾長が淡々と自己紹介を締める。「じゃあ後は各階で連絡事項をチェックし合って下さい。…あっそうだ、今度の日曜は歓迎会をしましょうかね。私はちょっと出られないかもしれないけど」



 塾長かハルちゃんがふいに私との事を何か言い出すんじゃないかと少しはらはらしたが、私との事は元より、二人とも淡々とした自己紹介だったし、二人が兄弟だって事も、塾長の孫だって事も言ってないし…

「あ、それから」先に控室から出て行きかけた塾長がこちらを振り向いて声を上げた。「中野リツさ~ん」

「え?あ、はい!」慌てて返事をした。

「ちょっと今から私の部屋に来てもらえます?」

「…はい…」


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