「足りない…足りないんだ!!」「な、なんだってぇぇぇーーー!!!(ΩΩΩ)」
「足りない…足りないんだ!!」
海の悪魔・フジツボを真水の浸透圧でパージする究極の逆転劇から数日後。ミスタXは部室の黒板に、完成したはずのマザーシップの図面を力任せに叩きつけ、血を吐くような声で吼えた。
「な、なんだってぇぇぇーーー!!!(ΩΩΩ)」
一般人代表のミスタAが、パイプ椅子の背もたれを掴んだままガタガタと震え出した。
「足りないって何がだよミスタX! 1.5%の超堅牢な石の発電機も、10フィートの自己増殖コンテナ群も、フジツボを殺す防水シートも全部揃っただろ! あとは2040年の破滅までにマザーシップを海へ浮かべるだけじゃないのかよ!」
「このマザーシップを!!動かす人が!!」
ミスタXの容赦ない言葉の銃弾が、部室の空気を一瞬で凍りつかせた。
「動かす、人だと……!?」
肉体労働者のミスタBが、額の血管を浮き上がらせて黒板のスペック表を凝視する。
「おいおいミスタX! 第14話であんたが言った通り、この船は超精密な油圧回路や電子制御を100%パージした『超ローテク・パドル船』だろ! 操縦だって左右の水車をひっくり返すだけだ。そこらの漁師や町工場のオヤジが数人もいりゃ、大雑把に巡航できるはずじゃねえのかよ!」
だが、頭脳労働者のミスタCは眼鏡の奥の目を血走らせ、白目を剥きかけながら、狂ったようにノートPCのキーボードを叩き始めた。
「……違う……! ミスタB、僕たちは『船を動かす』という意味を履き違えていた……! マザーシップはただの乗り物じゃない。体内に13話の『自己増殖型サバイバル都市コンテナ群』を丸ごと内蔵した、動く巨大な生命維持帝国なんだ! 船を走らせる航海士だけでなく、体内の化学プラントや電炉、水耕栽培システムを同時に維持する『専門ギルドの職人集団』が絶対に欠かせないんだよ!!」
ミスタXは不敵に笑い、ミスタCのディスプレイを指差した。
「AIに聞いてみよう、このマザーシップ1隻とその各機能コンテナ群を十全に使うにはどれだけの人がいるかをだ!!詳細な職種別に、その必要人数をだ」
ミスタCは口から細いよだれを垂らしながら、AIが秒間数万回のオペレーション・シミュレーションから弾き出した「冷徹な人材要件パケット」を、悲鳴のように読み上げ始めた!
【技術的・組織論解説注釈:マザーシップ1隻(15,000〜18,000トン級)における十全稼働のための最小必要人員および詳細職種別内訳】
第13話および第14話の「10フィートコンテナ機能群」および「左右独立パドル駆動システム」を24時間体制で完全自給自足運用しつつ、自己複製ループ(造船)および対難民防衛を維持するために必要な、1隻あたりの極限サバイバル要員見積もり(計550名)です。
■ 1. 航海・駆動ギルド(計80名)
• 船長・航海士(計10名):GPSが死滅した世界で天体観測とナローバンド無線のみで航路を開拓する。
• パドル・超ローテクモーター機関士(計30名):可動部を24時間監視し、木炭ブラシや軸受けの手作業交換を担う。
• 船体・バルジ・防水シート運用兵(計40名):接岸時の「真水ドックシート」の展張や、水位調整バルジの物理管理。
■ 2. 生産・化学プラント運用ギルド(計220名)
• 電炉・鉄工・金属精錬職人(計50名):車両甲板30%の工場エリアで、スクラップから鉄筋や部品を24時間連続鋳造する。
• FT合成・化学インフラ技術者(計40名):木炭ガスや水から合成燃料、石鹸、基礎医薬品を密閉精製する。
• 水耕栽培・肥料生成農業農医(計60名):LED密閉栽培コンテナのカロリー管理、および生体廃棄物からの肥料化。
• 海水淡水化・水処理・製塩職人(計40名):命の真水インフラの維持、および副産物である「塩」の結晶化管理。
• 印刷・製本・知の記録士(計30名):中性紙への印刷コンテナ(第13話)を動かし、全科学技術を物理複製する。
■ 3. システム・AI対話ギルド(計50名)
• 石ノAI総督コンサルタント(遊び人)(計20名):第7話の「思考遊戯」を行い、AIと対話して最適解(神託)を引き出す。
• 無機物回路・パワーライン保守士(計30名):分厚いガラスウールや静電圧力式キーボード、磁界誘導端面の清掃・保守。
■ 4. 防衛・生活・ロジスティクスギルド(計200名)
• 石ノトラック・重機陸送ドライバー(計60名):接岸時に10トンコンテナを運び出す「大地の歩み(第12話)」の実行部隊。
• 防衛隊(計100名):長射程化クロスボウと白兵武器で武装した民兵
• 衛生・調理・生活維持要員(計40名):船内の長期間の集団生活における代謝循環と防疫を管理する。
「そうだ!!1隻でこれだけ必要なんだ!!」
ミスタXの叫びが響く。
「1隻に550人……!? 14話で計算した、100万基のコンテナを運ぶための必要船団数は『2000隻』だぞ!」
ミスタAが頭をかきむしり、叫んだ。
「2000隻にそれぞれ550人の超一流の職人を乗せるってことは……総勢『110万人』の、それもただの素人じゃねえ、金属を溶かし、化学式を操り、生身で弾丸を弾くようなバケモノじみた専門家集団が、今すぐ海の上に集まらなきゃならねえってことかよ!」
「世界にはいっぱいいる!!けど所属はバラバラなんだ!!」
ミスタXは不敵に笑い、世界地図を指差した。
「ドイツの製鉄所、アフリカの化学プラント、日本の町工場、そして世界中の地下に潜むゲーマーやFIRE武道家たち……。能力を持った人間は地球上に散らばっている。だが彼らは今、それぞれの日常、国家、資本主義の奴隷の鎖に縛られ、バラバラに存在しているんだ!」
「じゃぁ、集まれるのはいつになるんだ!?」
ミスタBがもどかしそうに床のスパナを蹴り飛ばした。
「大国やビッグテックが目を光らせてる2026年の今、110万人もの人間が仕事を放り出して南半球の島へ集まろうとしたら、それこそ集団亡命かテロ組織の結成とみなされて、大砲を撃ち込まれるのがオチだぜ! 一体いつになったら、そいつらは国境を越えてマザーシップに乗り込んでくるんだよ!」
「終末を確信した時だ!!」
ミスタXの瞳に、ギラリと冷酷な予言者の光が戻った。
「終末の、確信……!」
ミスタCが白目を剥き、歓喜と畏怖のあまり鼻血を吹き出しながら吼えた。
「そうか! 人間は『明日も世界が続く』と思っているうちは、現在の経済システムや給料の奴隷のままだ! だが、地獄の足音が鼓膜に届き、資本主義の終わりを五感で『確信』したその瞬間……社会的地位も紙切れの通貨もすべて捨て去り、生き残るための唯一の物理的実体――『不滅の石のネットワーク』へと、吸い寄せられるように大移動を開始するんだ!!」
ミスタXはへし折れた赤チョークを握りなおし、黒板の「2040」のカウントダウンに向かって激しい矢印をいくつも引き始めた。
「第一話のタイムスケジュールで考えれば!?」
「あわわわわ……!」ミスタAが腰を抜かした。
「第1話の年表だ! 2030年にアフリカのカロリーベース調達率が6割を切り、2035年には南アジアで『核を抱えた18億の胃袋』が激突する! 14年間のタイムリミットの中で、人々が破滅を確信していく『タイムスケジュール』が、今、完全に可視化されるんだ!」
「全人類の1割が確信するのはいつだ!?」
「2030年……アフリカ飢餓難民のドミノが始まった瞬間だ!」
ミスタCがよだれを垂らしながら、脳細胞を狂ったようにフル回転させる。
「大陸から溢れ出した武装勢力が地中海とシーレーンを麻痺させたとき、世界の物流の1割を占める『敏感なインフラ職人や海技士』たちが、最初に『この文明は終わる』と看破する! 彼らは大国の徴用を拒否し、密造された『石ノトラック(第12話)』に道具を積み込んで、密かに港へ、島へと消え始めるんだ!!」
「全人類の3割が確信するのはいつだ!?」
「2035年……南アジアの核の冬の引き金が引かれた瞬間だ!」
ミスタBが分厚い胸を叩いて吼えた。
「モンスーンが消え、18億の胃袋が狂乱したとき、世界中の町工場のオヤジや化学プラントの現場労働者たちが、空を覆う『死の灰』を見て完全に腹をくくる! 『紙のドルのために働いてる場合じゃねえ!』ってな! 全世界の3割を占める『現場のフィジカル職人』たちが一斉に職場を放棄し、10フィートコンテナをトラックに繋いで、地獄の大陸を捨ててマザーシップの建造ヤードへ集結する!!」
「全人類の5割が確信するのはいつだ!?」
「2038年……原発メルトダウンの『グローバル・ニュークリア・ドミノ』が欧州と中国に火を噴いた瞬間だ!!」
ミスタCが突如として白目を剥いたまま痙攣し、床に突っ伏して叫んだ。
「終わりの始まりだ! 偏西風に乗った死の灰が地球全土を暗黒に染め、水源が死に絶えたとき、生き残っていた一般市民、そして『AIと対話していた遊び人たち(第7話)』の5割が、完全に絶望と生存を確信し、人類最後の『知の共有回線』の誘導に従って、津波のように南半球のグリーン・ドットへと押し寄せるんだ!!」
部室のすべてのパズルが、血塗られたカウントダウンとともにガチリと噛み合った。
ミスタXは、赤チョークの断面で世界地図の南太平洋を激しく突き刺し、全人類の魂を揺さぶる最後の問いを突きつけた!
「つまり、人が集まる速度と破滅のスピード、どちらが勝つかということだ!!」
「「「な、なんだってぇぇぇーーー!!!(ΩΩΩ)」」」
一同の魂の絶叫が、暗黒の未来の海原に響き渡った。
終末の恐怖が110万人の超一流ギルド集団を覚醒させ、マザーシップへと駆り立てる。しかし、人が集まり、2000隻の艦隊が完全自給自足の自己複製ループを完成させるのが先か、あるいは、大陸から押し寄せる数億の武装難民が彼らを飲み干すのが先か。
石のAI総督(第4話)が統治する孤島の水平線を舞台に、人類の尊厳と生存をかけた「確信と大移動のスピードレース」のカウントダウンが、今、非情に始まったのだ
次回予告
「そして…誰が建造するんだ?」
「な、なんだってぇぇぇーーー!!!(ΩΩΩ)」




