第99話 揺れる正しさ
翌朝、広場の空気は少しだけ違っていた。
昨日の言葉が残っている。
――戻りたい。
代表のその一言は、町のどこかを確かに揺らしていた。
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炊き出しの鍋が火にかけられる。
子どもが走る。
畑の相談が始まる。
町はいつも通り動いている。
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だが、人の目は少しだけ代表を追っていた。
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代表は、いつものように机の前にいた。
書簡を開き、
短く返答を書いている。
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「疲れてるな」
倉庫番が小さく言う。
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「ずっとだろ」
誰かが答える。
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それは今に始まったことではない。
だが、昨日の言葉が
重さを見えるものにしてしまった。
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マルタが私の隣に立つ。
「聞いた」
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「ええ」
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「戻りたいって」
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彼女は少し空を見てから言う。
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「でも」
一拍。
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「戻れるのか」
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それが今の問題だった。
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町は守られている。
豊かにもなっている。
連合の評価も高い。
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そして今、
制度化の提案がある。
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「戻れば」
マルタは言う。
「この全部が揺れる」
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それも事実だった。
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「守るための集中だった」
私は言う。
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「でも」
マルタは続ける。
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「守れてる」
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沈黙。
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それが一番強い。
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レオンが後ろから言う。
「正しさは、状況で変わる」
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マルタが振り返る。
「変わるのか」
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「変わる」
レオンは言う。
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「分散が正しい時もある」
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「集中が正しい時もある」
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焚き火の煙がゆっくり上がる。
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私は静かに言う。
「完全な分散は」
一拍。
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「幻想かもしれない」
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マルタが驚いた顔をする。
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私自身も、その言葉を少し重く感じていた。
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分散は壊れやすい。
遅い。
守れないこともある。
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集中は速い。
強い。
守れることもある。
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だから、
この町は
その間に立っている。
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広場の向こうで、
代表がまた書簡を閉じる。
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そして、深く息を吐く。
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三か月の期限はまだ残っている。
だが、
町の問いは変わり始めていた。
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分散か、集中か。
ではない。
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どうすれば、
どちらにも
飲み込まれないのか。
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答えはまだない。
だが、
町は
その問いの入り口に立っていた。
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