第94話 静かな豊かさ
連合に入ってから、町は確かに豊かになっていた。
倉庫の備蓄は増えた。
冬の分まで余裕がある。
交易の列も以前より長い。
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「今年は楽だな」
倉庫番が笑う。
「こんなに余る年は久しぶりだ」
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炊き出しの鍋も少し大きくなった。
子どもたちの皿に、
肉が乗る日が増える。
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守られている。
その実感は、確かにある。
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広場の空気も、以前より軽い。
大きな議論は減った。
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「困ることがない」
誰かが言う。
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困らなければ、議論も減る。
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代表の机には、
今日も連合からの書簡が積まれている。
だが、内容は穏やかだ。
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――交易優先枠の拡大
――備蓄支援の追加
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「評価が高い」
代表は短く言う。
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それは町にとって良い知らせだ。
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マルタが言う。
「悪い選択じゃなかった」
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誰も反論しない。
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分散は残っている。
内政は今まで通りだ。
畑の配分も、
倉庫の確認も、
代表の決断ではない。
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だが。
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大きな決断は、
もう一人の机に集まっている。
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夕方。
子どもが新しい靴を履いて走る。
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「連合の交易だ」
母親が言う。
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豊かさは静かだ。
怒りも、
議論も、
少しずつ溶かす。
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夜。
焚き火のそば。
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「困ってない」
誰かが言う。
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「そうだな」
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「なら、何が問題なんだ」
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その問いに、
誰もすぐには答えない。
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レオンが火を見つめながら言う。
「問題は、今じゃない」
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「じゃあ、いつだ」
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「戻るときだ」
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静かな言葉。
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戻る必要がなくなれば、
戻る理由も消える。
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私は空を見上げる。
町は豊かになった。
安全にもなった。
そして、
議論は減った。
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三か月の期限は、
まだ半分も残っている。
だが、
静かな豊かさは
選択の重さを
少しずつ軽くしていく。
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それが
この町にとって
一番静かな変化だった。
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