第91話 模範都市
三か月のうち、まだ半ばにも届かない。
それでも連合から届いた書簡の文面は、どこか祝賀めいていた。
――迅速な即応、安定した供給、規律ある統制。
――貴町を「模範都市」と認定する。
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「模範、ね」
倉庫番が苦笑する。
「悪い気はしないな」
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悪い気はしない。
それが一番厄介だった。
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数日後、他都市の代表者が視察に訪れた。
連合の標章を胸に付けた者たち。
視線は冷静で、計算している。
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「即断権限は、どのように機能しているのですか」
細身の男が問う。
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まとめ役――今は連合から“代表殿”と呼ばれる男が答える。
「防衛関連のみ、私が最終判断します。
ただし、内政は分散維持です」
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「効率的ですね」
別の代表が頷く。
「理想と現実の折衷」
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私はその言葉に、わずかに違和感を覚える。
折衷は、制度になると“前例”になる。
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「成功例は、広げるべきです」
視察団の一人が言う。
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広場に、微かな誇らしさが漂う。
守れている。
評価されている。
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だが、その夜。
まとめ役の男は机に伏せていた。
「資料が増えた」
短い呟き。
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「模範だからな」
レオンが言う。
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「模範は、監視される」
彼は続ける。
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翌週。
連合評議会から追加の提案。
――模範都市として、他都市への指導参加を要請する。
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「指導?」
マルタが眉をひそめる。
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「我々の構造を説明し、連合内に共有する」
書簡は淡々としている。
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「つまり」
レオンが言う。
「この形を、標準にしたい」
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空気が重くなる。
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分散を守るために借りた集中。
それが今、制度化の種になりつつある。
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ルーカが小さく言う。
「連合内部じゃ、
中央集権が加速してる」
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「どういう意味だ」
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「小都市は、即断できない町から順に統合されてる」
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静寂。
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「模範都市が必要なんだ」
ルーカは続ける。
「中央集権を正当化するための成功例が」
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その言葉が、広場を冷やす。
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まとめ役の男がゆっくり言う。
「俺たちは、
中央集権の顔になってるのか」
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私は火の消えた空を見上げる。
成功は、広がる。
広がるとき、
元の意図は薄れる。
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町は守られている。
評価も高い。
だが、
世界がこの町を“例”として使い始めた。
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三か月は、まだ終わらない。
だが、
期限はもう町の中だけの問題ではなくなっていた。
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