第84話 揺れる背中
四日目。
町は、いつもより静かだった。
議論に疲れたわけではない。
むしろ、考えすぎている。
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広場の中央で、まとめ役の男が立っている。
普段よりも、姿勢が硬い。
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「連合の条件は悪くない」
彼は言う。
「防衛も、交易も、安定する」
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「代表は?」
誰かが問う。
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「固定だ」
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ざわめき。
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「お前がやるのか」
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沈黙。
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「……求められれば」
その言葉は、強くない。
だが、否定もしていない。
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空気が重くなる。
“求められれば”。
それは承諾の前段階だ。
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私は輪の外にいる。
だが、視線は感じる。
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「一人に戻るぞ」
小さな声。
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「戻れば、守れる」
別の声。
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レオンが口を開く。
「守れるかは分からない」
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「だが、速い」
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「速さが正しさではない」
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「遅さが正義でもない」
返答は即座だ。
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思想が、初めてぶつかる。
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マルタが前に出る。
「私は賛成だ」
はっきりと。
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「集中すれば、防衛は速い。
連合に入れば支援も来る」
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「分散で守れる保証は?」
問いは、私に向く。
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私は答えない。
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レオンが代わりに言う。
「保証はない」
一拍。
「だが、集中にも保証はない」
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「連合はある」
マルタは言う。
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「連合は、連合を守る」
レオンの声は低い。
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空気が裂ける。
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まとめ役の男は、目を閉じる。
自分が立たされている場所を理解している。
代表になれば、町は守られるかもしれない。
だが、自分は――。
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「俺が潰れたら?」
小さな声。
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誰も答えない。
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「交代すればいい」
誰かが言う。
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「本当に、簡単か」
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沈黙。
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私は、やっと口を開く。
「集中は、強い」
一拍。
「だが、強い構造は狙われる」
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「狙われない保証は?」
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「ない」
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空気が揺れる。
保証は、どちらにもない。
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夜。
焚き火は大きい。
意見は割れている。
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「代表固定でいい」
「分散を守るべきだ」
「折衷案はないのか」
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私は火を見つめる。
町は初めて、明確に分かれた。
理想派。
安定派。
様子見派。
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レオンが静かに言う。
「選ぶしかない」
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七日のうち、四日が過ぎた。
残り三日。
町はまだ壊れていない。
だが、
初めて“分裂”という形が見え始めていた。
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