表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/110

第68話 善意の代表者

 朝の空気は、昨日より柔らかかった。


 広場には、早くから人が集まっている。

 理由ははっきりしていた。


 昨日、決まったからだ。

 そして、楽だったからだ。


---


「……今日は、どうする?」


 問いは出た。

 だが、昨日までとは違う。


 誰も“迷って”いない。

 ただ、口にする順番を待っている。


---


「昨日みたいにさ」

 若い女が言う。

 遠慮がちだが、はっきりした声。


「誰かがまとめた方が、やっぱり早いよね」


 否定は出ない。

 それどころか、数人が小さく頷く。


---


 倉庫番の男は、少し困った顔をした。


「……俺は、今日は無理だな」

「昨日で、結構来てる」


 それは正直な申告だ。

 弱音ではない。


---


 すると、別の声が上がった。


「じゃあ、俺がやるよ」


 中年の男。

 炊き出しを手伝ってきた人物だ。

 特別な権限も、肩書きもない。


---


 一瞬、空気が止まる。

 そして、次に来るのは――安堵。


「助かる」

「それでいこう」

「じゃあ、今日はあなた中心で」


 その言葉が出た瞬間、

 男の肩がわずかに強張った。


---


「……いや、中心ってほどじゃなくて」

 彼は慌てて手を振る。


「決めるのは、皆でだ」

「俺は、まとめるだけ」


 その言葉は、誠実だ。

 善意そのものだ。


 だからこそ、誰も疑わない。


---


 作業は始まる。


「炊き出しは、昨日と同じ時間で」

「水は順番だけ整理する」

「修繕は、屋根を優先で」


 判断は速い。

 昨日と同じくらい、滑らかだ。


---


「やっぱり、楽だな」


 誰かが言う。

 今度は、はっきりと。


 それは評価であり、期待だった。


---


 男は、何度も呼び止められる。


「これ、どうする?」

「次は、どっち?」

「さっきの話、まだ同じ?」


 彼は、全部に答える。


「いいよ」

「それで」

「大丈夫」


 断らない。

 断る理由がない。


---


 私は、少し離れた場所でそれを見ていた。


 昨日と同じ構図。

 だが、決定的に違う点がある。


 彼は、レオンではない。

 そして、私でもない。


 それでも――

 **代表になっている。**


---


 昼。


 作業は滞りなく進む。

 人々の表情は穏やかだ。


「今日は、助かるな」

「やっぱり、誰かいると違う」


 その言葉が、何度も交わされる。


---


 男は、笑って応じる。

 だが、昼食を取る時間はなかった。


「後ででいい」

 そう言って、また呼ばれる。


---


 午後。


 小さな意見の衝突が起きる。


「水は、こっちを先に」

「いや、あっちだろ」


 周囲の視線が、自然と男に集まる。


 彼は、一瞬だけ迷う。

 そして、口を開く。


「……今日は、こっちで」


 決まる。

 それで終わる。


 誰も反論しない。

 空気が、決断を支持している。


---


 私は、その瞬間を見逃さなかった。


 善意の代表者は、

 争いを収めるために選ばれる。

 そして、その役割を疑われない。


---


 夕方。


 男は、少し疲れた顔をしていた。


「……今日は、流石に多いな」


 そう呟くと、すぐに声がかかる。


「ありがとう」

「助かった」

「明日も、頼める?」


 最後の言葉は、笑い混じりだ。

 だが、昨日より近い。


---


「……明日は、分からない」

 男はそう答える。


 その声は、弱くない。

 だが、確信もない。


---


 レオンは、遠くからそれを見ていた。

 何も言わない。

 何も奪わない。


 だが、彼は理解している。


 これは、かつての自分だ。


---


 夜。


 焚き火のそばで、誰かが言った。


「代表がいると、助かるよな」

「交代制なら、問題ない」


 その言葉に、誰も反対しない。


 “交代”という言葉が、

 安心を伴って広がっていく。


---


 私は、火を見つめた。


 善意の代表者は、

 悪者にならない。

 だから、長く続いてしまう。


 中心は、権力で生まれない。

 **助けたい、という気持ちで生まれる。**


---


 町は、今日も壊れない。


 だが、

 “今日は誰がやるか”という問いが、

 少しずつ、

 “次もあなたでいいか”に

 形を変え始めていた。


 それに、気づいている者は、

 まだ少ない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ