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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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51/67

第51話 衝突は、静かに始まる

 最初に起きたのは、

 本当に些細なことだった。


 誰も、

 それを問題だとは

 思っていなかった。


 朝。


 水汲み場に、

 列ができていた。


 昨日までは、

 なかった光景だ。


「……少し、

 時間がかかりますね」


 誰かが言う。


「人が増えたからな」


 それで、

 話は終わる。


 不満ではない。

 事実だ。


 だが、

 列は動かない。


 水量が、

 微妙に足りていない。


 誰もが気づいている。

 だが、

 誰も口にしない。


 昨日、

 配分は変えないと

 決まったからだ。


「……どうします?」


 小さな声が、

 後ろから聞こえる。


 問いは、

 宙に浮いた。


 誰も答えない。


 代わりに、

 視線が

 一方向に集まる。


 レオンは、

 少し離れた場所で

 状況を見ていた。


 声をかける者はいない。


 だが、

 誰もが

 彼の反応を

 待っている。


「今は、

 このままで」


 それだけ。


 声は、

 穏やかだ。


 誰も、

 逆らわない。


 列は、

 ゆっくりと進む。


 だが――

 時間はかかる。


 私は、

 その様子を

 端から見ていた。


 誰も間違っていない。

 誰も横暴ではない。


 だが、

 調整が遅れている。


 理由は、

 はっきりしている。


 判断が、

 一箇所に集まっているからだ。


 昼。


 別の小さな摩擦が起きる。


 炊き出しの量が、

 足りない。


「今日は、

 少なめで」


 誰かが言う。


「昨日と同じ量だ」


 別の誰かが返す。


 どちらも、

 正しい。


 だが、

 結論は出ない。


 なぜなら――

 誰も、

 決める役ではないから。


「……聞いてきます」


 一人が、

 立ち上がる。


 向かう先は、

 自然に決まっている。


 レオンのもとだ。


 私は、

 胸の奥で

 小さく息を吐いた。


 始まっている。


 争いではない。

 分裂でもない。


 依存が、

 表面化し始めている。


 夕方。


 町の空気は、

 少しだけ

 重くなっていた。


 怒りではない。

 焦りでもない。


 待ち疲れだ。


 私は、

 丘の上から

 町を見る。


 誰も叫んでいない。

 誰も暴れていない。


 だが、

 昨日までなかった

 「立ち止まり」が

 いくつも見える。


(……これは、

 失敗ではない)


 私は、

 自分に言い聞かせる。


 世界が、

 次の段階に

 入っただけだ。


 正しさを

 手放した世界が、

 次に直面するもの。


 レオンは、

 まだ同じことを言っている。


「無理に、

 決めなくていい」


 その言葉は、

 変わらない。


 だが――

 受け取られ方が

 変わり始めている。


 夜。


 焚き火の周りで、

 人々は静かだ。


 話題は、

 今日の小さな滞り。


 誰も、

 責めない。


 ただ、

 気づいている。


 この町は、

 もう“判断をしない場所”では

 いられないと。


 私は、

 その場を離れた。


 まだ、

 声をかけない。


 だが、

 見ているだけの時間は

 確実に

 終わりに近づいている。


 衝突は、

 怒号とともに

 始まるものではない。


 静かに、

 生活の隙間から

 滲み出してくる。


 そしてそれは、

 誰のせいでもない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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