第49話 余白に集まる人々
町の入口に、
見慣れない荷車が増えていた。
商人だけではない。
家族連れ。
一人旅の若者。
誰も、
声高に目的を語らない。
ただ――
留まっている。
「最近、
人が増えましたね」
宿の主人が、
少し困ったように言う。
「揉め事があるわけでも
ないんですが」
それが、
一番の理由だった。
揉めない。
責められない。
決めつけられない。
この町には、
そういう空気がある。
広場では、
即席の炊き出しが
行われていた。
主催者はいない。
声を張り上げる者もいない。
誰かが始め、
誰かが手伝い、
自然に形になった。
「……助かります」
そう言って、
深く頭を下げる人がいる。
理由は聞かれない。
過去も、
事情も。
私は、
少し離れた場所から
それを見ていた。
ここに集まっているのは、
信奉者ではない。
正しさを求める者でもない。
ただ――
疲れた人々だ。
「前の町では、
決めることが多すぎた」
そう話す男がいた。
「何をするにも、
理由を求められる」
それは、
悪意ではない。
効率だ。
責任だ。
正しさだ。
「ここでは、
とりあえず休める」
別の女が言う。
「判断は、
後でいいって言われた」
その言葉に、
多くが頷く。
判断を
後回しにできる場所。
それだけで、
人は集まる。
あの男――
レオンは、
人を集めているつもりはない。
追い返しもしない。
歓迎もしない。
ただ、
「無理に決めなくていい」
と言っているだけだ。
それが、
どれほど
人を惹きつけるかを
本人だけが
自覚していない。
夕方。
町の外れで、
新しく来た者たちが
簡単な住居を作っていた。
「ここに、
長くいるつもりですか」
誰かが聞く。
「……分からない」
返事は、
正直だった。
「とりあえず、
今はここにいる」
それで、
十分なのだ。
私は、
少し離れた丘に立つ。
町を見下ろす。
規模は、
確実に大きくなっている。
だが、
制度は増えていない。
決まりも、
増えていない。
それが、
均衡を保っている理由であり、
同時に
危うさでもある。
(……余白は、
人を休ませる)
それは、
間違いない。
だが――
休み続ける人が増えれば、
誰かが
判断を引き受けることになる。
そして、
その誰かは
すでに一人しかいない。
夜。
焚き火の周りで、
人々が静かに話している。
誰も、
未来の話をしない。
今日のことだけ。
それが、
心地よい。
私は、
背を向けた。
ここで声を上げれば、
空気は変わる。
だが、
それは
私が前に立つことを
意味する。
まだ、
その時ではない。
町は、
今日も揉めない。
人は、
増え続ける。
それは、
成功の兆しに見える。
だが――
余白に集まる人々は、
やがて
余白そのものを
狭めていく。
その予感だけが、
静かに
夜に溶けていた。
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