表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/66

第28話 正しさは、静かに歪む

 連合の朝は、忙しい。


 王都のように鐘で始まるわけではない。

 誰かの号令があるわけでもない。


 それぞれの土地が、

 それぞれの都合で動き始める。


 その雑音のような始まりが、

 この場所の健全さでもあった。


「……南部第三領から、正式な照会です」


 書類を差し出しながら、

 マリアンヌが言った。


「“循環効率向上計画”について」


 私は、書類に目を通す。


 内容は、想像通りだった。


 供給量の再配分。

 人員の整理。

 補助役の削減。


「効率は、上がりますね」


 私の言葉に、

 マリアンヌは少しだけ眉をひそめた。


「……ですが」


「ええ」


 私は、書類を閉じる。


「必ず、どこかに無理が出ます」


 数値上は、正しい。

 論理としても、間違っていない。


 だからこそ、

 厄介だ。


「王都の時と、

 何が違うのでしょう」


 マリアンヌの問いは、

 率直だった。


「中心がない、という点では

 同じ轍を踏まないはずですが」


 私は、少し考えてから答えた。


「“中心がない”だけでは、

 十分ではありません」


 人は、

 必ず別の中心を作る。


 効率。

 正しさ。

 善意。


 名前が違うだけで、

 本質は同じだ。


 昼過ぎ。


 南部第三領の代表が、

 拠点を訪れた。


 若い男だった。


 自信に満ちた目。

 焦りはない。


「我々は、

 誰かを犠牲にするつもりはありません」


 彼は、はっきり言った。


「ただ、

 合理的に回したいだけです」


 その言葉に、

 嘘はない。


「結果として、

 誰かが外れる可能性については?」


 私が尋ねると、

 彼は即答した。


「それは、

 全体の利益のためです」


 静かな沈黙。


 あの日と、

 よく似ている。


 聖女の部屋で聞いた、

 あの声と。


「……分かりました」


 私は、立ち上がった。


 男の表情が、

 明るくなる。


「では、承認を?」


「いいえ」


 私は、首を横に振る。


「判断は、

 こちらではしません」


 彼は、戸惑った。


「連合の設計思想を、

 もう一度お渡しします」


 机の上に、

 一冊の薄い冊子を置く。


「それを読んだ上で、

 再設計してください」


「それでも同じ結論なら、

 我々は止めません」


 男は、目を見開いた。


「……止めない、のですか?」


「はい」


 私は、静かに答えた。


「止める権利を持った瞬間、

 私は、

 別の王都になります」


 男は、言葉を失った。


 夕方。


 応接室を出た彼の背中を、

 私はしばらく見送っていた。


「……放っておいて、

 大丈夫でしょうか」


 マリアンヌが、不安そうに言う。


「大丈夫ではありません」


 私は、即答した。


「ですが、

 経験しなければ分からない歪みもあります」


 連合は、

 正解を配る場所ではない。


 間違える自由を、

 残す場所だ。


 夜。


 机に向かい、

 報告書をまとめる。


 赤い印をつけた箇所が、

 少しずつ増えていく。


(……始まったな)


 派手な崩壊から始まらない。


 もっと静かで、

 もっと善意に満ちた形で、

 歪みは生まれる。


 正しさは、

 いつも声を荒げない。


 だからこそ、

 見逃されやすい。


 私はペンを置き、

 窓の外を見た。


 灯りは、

 今日も安定している。


 だが――

 安定は、

 保証ではない。


 完璧であることをやめた私は、

 今日もまた、

 「答えを出さない」という

 判断を選んだ。


 それが、

 世界を壊さないための、

 次の試練だと知りながら。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ