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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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第10話 追放の朝

 王都を発つ朝は、驚くほどあっけなかった。


 馬車は一台。

 随行は最低限。

 見送りも、儀礼もない。


 それが、

 断罪された公爵令嬢への扱いだった。


 私は、窓越しに王都の街並みを見つめていた。


 白い石畳。

 整えられた街路樹。

 秩序と安定を象徴する、美しい都。


(……守ろうとしたもの)


 その思いが、胸をかすめる。


 だが、不思議と後悔はなかった。


「お嬢様」


 向かいに座るマリアンヌが、静かに声をかける。


「体調はいかがですか」


「問題ありません」


 本当に、問題はなかった。


 眠れなかった夜のはずなのに、

 頭は冴え、視界は澄んでいる。


 ――これが、覚悟というものなのだろう。


 馬車が城門を抜ける。


 その瞬間、

 王都の空気が、はっきりと変わった。


 重圧が、消えた。


(……ああ)


 知らぬ間に、

 私はずっと息を詰めて生きていたのだと気づく。


 街道を進むにつれ、景色は変わっていく。


 整備された道は途切れ、

 土と草の匂いが濃くなる。


「辺境伯領までは、あと半日ほどです」


 護衛が、簡潔に告げた。


 ――辺境。


 王都から遠く、

 政治の中心からも遠い土地。


 かつて私は、

 「秩序が行き届いていない場所」と認識していた。


(傲慢だったわね)


 秩序とは、

 中央から与えられるものではない。


 守ろうとする者がいて、

 初めて成り立つ。


 昼過ぎ、馬車は小さな集落の前で止まった。


 石造りでも、豪奢でもない。

 だが、どこか落ち着いた雰囲気があった。


「ここで少し休憩を」


 馬車を降りた瞬間、

 私ははっきりと感じた。


 ――視線が、違う。


 王都のそれとは、まったく違う。


 恐れでも、好奇でもない。

 ただの、警戒。


 それでいて、

 敵意ではない。


(……久しぶりね)


 評価される前の視線。


 役割を押しつけられない空気。


 集落の一角で、水を汲む子どもが、私を見て言った。


「……きれいな人」


 マリアンヌが、驚いたように目を見開く。


 私は、思わず微笑んでいた。


「ありがとう」


 それだけで、子どもは照れたように走り去った。


 ――肩書きが、通じない。


 その事実が、

 胸の奥を、少しだけ温めた。


 再び馬車に乗り込む。


 遠くに、山並みが見え始めていた。


「お嬢様」


 マリアンヌが、ためらいがちに言う。


「これから……どうなさいますか」


 私は、窓の外から目を離さずに答えた。


「生きます」


 短く、はっきりと。


「正しく、生きます」


 それが、

 断罪された私に残された、唯一の自由。


 王都で失ったものは多い。

 地位も、名誉も、婚約も。


 けれど。


 ここには、

 まだ奪われていないものがある。


 判断力。

 理性。

 そして――自分で選ぶ意思。


 馬車は、さらに辺境へと進んでいく。


 これは、敗走ではない。


 これは、

 悪役令嬢が、自分の人生を取り戻すための一歩目だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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