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帝国の協力者

シャフスに引き合わされたアカコンゴウインコ族は、研究員を名乗った。

シャフス同様に若い。そして、―――


「―――私が目指すのは一定量の抽出!ですがこれが難しい!奥が深い!

これまでの薬品精製過程では、量も質も毎回違う結果しか得られませんでした!

何故ならそれは原料の草、土の質が一定に保てないからであり、

更には分解する微生物に適した環境を整えることが出来なかったからです!

現在我々はそれを1回1回濃度検査し、混ぜることで一定の質を保とうとしています!しかし、もしそれを省略できるのなら製造の中の1工程を省くことができ、

それこそが、薬品精製部門の商業的立ち位置を上昇させる手段足り得る―――」


お喋りだった。

自己紹介からの、これである。


「ターヒル、そこまでにしておいて下さい。皆様がドン引きされてますよ。」

「おっと失敬。」

「・・・実に、熱心な方なのですね。」


手始めに研究内容を聞いたのは、間違いだったのか、

彼や彼の研究内容が知れて良かったと思えばいいのか。

カスビですら若干、気圧(けお)されている。

サドはこの場で確認すべきだろうと、シャフスに問いを投げかけた。


「それで、ターヒル殿はどのような情報提供と、

活動支援をして下さるのでしょうか。」

「そうですね、彼には研究所が担っている国家事業の情報提供を依頼しています。」

「人聞きが悪いよ、シャフス君。研究所の発展のための情報共有だろう?

私はそれを願っているだけだよ。

共和国との薬品精製における協力体制が確立されれば、

薬品開発の勢いが段違いに上がるはずだ。

そうすれば、帝国はこれまで以上に力を付けることが出来る。

私は帝国の研究員であって、決して共和国の者ではない。

諸君らの欲しがるような、帝国に不利益になるような機密は渡さないが、

諸君らが帝国内で活動する地盤を作ることは出来る。

私はその見返りに、共和国統領に繋げてもらう。

その関係で良いなら、喜んで契約を結ばせてもらうよ。」


ターヒルは最後に足で首を掻き、どうするね、と訊いた。


「それだけでも有難いことです。ご協力に感謝します。」


サドは即答する。

帝国内をある程度、見て回れる身分が貰えるなら、これは良い待遇だ。

ターヒルは「結構。」と頷き、話を(まと)めることが出来たシャフスも息を吐いた。


こうしてチュウヒ隊は、研究所付属の薬草園を管理する見習いとしての身分を得、

帝国内に点在するそれらを行き来することになった。

もちろん、その途中で寄り道するであろうことは暗黙の了解である。




「次の御仁も、あんな感じだったらどうするよ。」

「まあ、カスビが頑張るでしょー。」

「やめて下さい。」


もう1匹の協力者の元へ行く、その道中の会話である。


「シャフスの顔の広さには謎が多いな。どこで知り合ったんだ?」

「ああ、商人組合ですよ。

塩の手配の際に、薬品の原料になる物を仕入れる機会がありまして、

その時ちょうど、研究成果以外に研究所の立場を向上したいと考えていらっしゃる方がいると紹介して頂きました。今は私のお得意様です。」

「・・・巡り合わせとは不思議なものだな。」

「そういえば、シャフス。

ここに来た時に“お印”とか呼ばれてたけどー、あだ名?」

「まあ、そのようなものですね。」

「“お印”って、神殿で貰うアレだよな。」

「神殿とも繋がりがあるのか・・・。」

「もしかして、その頭の青は・・・。」

「違いますよ、染めてません!これは地の羽毛です。」

「そういえば、帝国は赤なのか?青?」

「両方ですね。

探索者も多く集う国なので、4色全て使っている家もあるくらいです。」

「へえぇー。」


シャフスが疑われたのは、神殿で配る色粉の使い方だ。


中央山脈にその本拠地を構える神殿は、“神聖教”と呼ばれる教えを説き、

大陸中に信徒を抱える大宗教である。

信徒は中央山脈を登って、4本の大河が流れ出る側に建つ4つの神殿のいずれかに(おもむ)く巡礼を行い、両手1杯分の色粉を受け取る。

手足の無い者は神殿の定めた量を貰うのだが、

信徒はそれを使って家や晴れ着を彩り、巡礼を成し遂げた“印”を残す。

信徒にとって巡礼は、一種の通過儀礼だ。

勿論、巡礼は何度行っても構わないのだが、色粉が貰えるのは一生に一度。

そういうことになっている。

複数の色で飾るというのは、その家の住民がそれぞれ違う神殿に(もう)でた、

つまり家から遠い神殿まで行った家族がいることを表し、

その敬虔(けいけん)さを示しているのだ。


「流石の私も、そんな顕示(けんじ)欲はありませんよ。」

「どうだかな。」

「じゃあ、どうして“お印”なんて大層なあだ名が?」

「ここ数年で、獣勇国から毛や羽を染めるオシャレが入って来たんです。

勇士(マハリブ・シュジョア)』の中には、信仰心からでなく腕試しに1匹で神殿まで行く者もいて、

そういう者は登った証でしかない色粉を持て余していたそうなんですよね。

そこに勇者が現れて、そのような使い方を教授したと。」

「「「え?」」」

「・・・獣勇国の勇者は、そんなことをしていたのか?」

「実は私も、勇者様がどのようなことをなさっていたのか、

最近まで知らなかったのですけれども。そのようです。」

「・・・勇者って、もっとスゴいことしてるもんだと思ってたー。」

「ヒト族、だったか。」

「綾織国の出身なのでしょうか。」

「勇者にも色々いるもんだな。」


サドは、これから会う予定の古道具屋について考える。

先程の研究員が獣勇国と帝国の内情を探るための協力者なら、

こちらは『神聖なる蛇の書(キタブ・アフ・カダス)』捜索の協力者だ。

もしかしたら、ついでに勇者についての情報も得ることが出来るかもしれない。


「シャフス。紹介してくれる古道具屋は、どんな方なんだ?」

「一言でいえば、・・・不愛想ですね。」

「「「「・・・・・・」」」」

「・・・やめて下さい。」


チュウヒ隊は、無言でカスビに応援の視線を送った。







シャフスの言う通り、そのカメ族はニコリともしなかった。

いや、他種族の表情は分かりづらいのが普通なのだが、

なかなか口を開かない態度が分かりづらさに拍車をかけている。


「こちらのワディン殿は探索者組合にも出入りしていまして、

遺物の取り扱いに関しては、この一帯で1,2を争う業者なんですよ。」


シャフスの紹介を受けても、ブスリと押し黙っている。


「・・・申し遅れました。私がこの隊を(まと)めるサド・アビドです。」


相手が話し出すのを待つのが上策だと思ったが、

名乗るのも礼儀だと、サドは隊員たちの紹介をした。


「・・・・・・・・・お前さん方の探し物は、ここにはないぞ。」


やっと口を開いたかと思えば、取りつく島の無い言葉である。


「・・・そうですか。でしたら―――」

「見せて頂ましたところ、“使い物”より“年代物”の取り扱いが多いようですね。

“使い物”は別のお店ですか?」


サドが何とか食い下がろうとしたとき、

入店してから忙しなく目を動かしていたカスビが(さえぎ)った。

どんな援護をしてくれるのかと振り返ると、その目に怪しい光が灯っている。


「・・・・・・・・・何じゃ、お前さん。話の途―――」

「ここは下層ですから、遺物の集積場所としての性格が強いのでしょうか?

ならば、“未読物”は上の層ですね。さすがに“中枢域”には送らないでしょうし。

あ、すみません。置いてある“年代物”の若いのが意外だったもので。」


カスビに先程の研究員の姿が重なった。

横でヴィーが、ウッという顔をしている。

しかし、カスビは止まらない。


「組合のお膝元なので、独立した研究所があると踏んでいるのですが、

それも上ですか?

これほどの大店(おおだな)をお持ちなのですから、

そういった場所との繋がりもお持ちのはずですよね。

是非とも(のぞ)いてみたいのですが、その繋ぎ役になっては頂けませんか?

あ、探索者組合にもお願い致します。」


(かたく)なに開かなかったカメ族の口が、何かを言いかけたまま開いている。


「シャフスが紹介してくれた以上、

何らかの取引はして下さるおつもりだったのでしょう?

『書』の情報が無いのは残念でしたが、その代わりにご縁なら頂けると思いまして。

繋ぎだけでもお願いしたいのですが、そういったことは可能でしょうか?」

「・・・お前さん、厚かましいのう。」


とうとう、突っ込ませた。

溜め息を吐くカメ族に、交渉が進展する気配を感じたサドは、

内心でカスビを褒めた。


「分かったわい。」

「無理を言ってすみません。

いえ、これまで見聞きしてきた分析方法を、実際にこの目で見てみたいという、

気持ちが無い訳ではないのですけれども、分析がどの系統で行われて―――」

「カスビ、そこまでだ。そこまで。」


余計な事まで話しそうになったので止める。

やはり全て援護という訳ではなかったようだ。


「全く、近頃の若いもんは・・・。」

「申し訳ない。後で注意しておきます。」

「ええわい。そこまで詳しいのがおるなら、こっちとしても手間が省ける。

・・・しかし、儂もこの青い坊主に聞くまで『書』が流れとるかもしれんなんぞ、

噂にも聞かんかったわ。案外、どこかに隠されとるというのが真実やもしれんぞ。

今は獣勇国が搔き集めとるで、疑わしいは分かるがな。

実際、帝国(こっち)の『書』も貸し出されとるし、

綾織のと都市国家のも借りれんか交渉中らしい。」

「・・・獣勇国は、本当に『(マレク)』と戦うつもりでしょうか?」


サドは思わず訊いてしまう。

自分達より(はる)かに情報通の老体ならば、

ある程度の見立てが出来ているだろうと踏んだのだ。


「・・・・・・お前さん方、あの研究馬鹿には()うたか?」

「ターヒル殿、ですか?」

「あれから仕入れた情報で考えい。あれの方がよっぽど“中枢域”に近いでな。」


首を(ひね)りながら頭を出し入れする老体。


「お知り合いだったのですね。」

「あ、サド殿、それは―――」

「知り合いだと!?あ奴め!

貴重な“年代物”を蒸留に必要不可欠だと言って使い潰しよったんじゃぞ!?」


プンスカしだした老体。

どうやら穏やかな関係ではないらしい。

しまった、と思うサドの横から横やりが入る。


「店長、その蒸留装置とは、どんな物なんですか?」

「「「「カスビッ!!」」」」




その後、老体に気に入られたカスビは当初の予定通り、古道具屋の担当に収まり、

薬草園の見習い兼、古道具屋の助手を務めることになる。


“鋭い分析” ターヒル・ハッド(アカコンゴウインコ族)

“不愛想” ギヒール・ワディン(ヒラタヘビクビ族)


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