嫌い
『もうなんでよ!!』
葵は夜に関わらず朝でも昼でも叫んでは泣くようになった。
肉体的にも精神的にもきつい状態でいつか美桜に手を出してしまうのではないかと犬太はそわそわしていた。
『(最近、葵冷たいし…。本当に大丈夫かな…。病院行ったほうがいい気もする…。)』
今日は美桜がずっと泣いてて葵も『もう…』と泣きながらソファの上で体育座りしながら泣いていた。
『葵…?俺もう仕事行かなきゃ』
時刻はもう7時半だった。
7時45分には職員室にいなきゃ行けないのにタイムりミットはもう15分だった。
『そんなの行けばいいじゃん……』
葵は『グス……グス…』と鼻をすすりながら犬太に言った。
『……わかった。もう行くよ。いってきます』
犬太は少し呆れながら玄関に向かった。
『ん……』
『(いってらっしゃいも言わくなるのか…)』
犬太は少し寂しくなりながらも仕事用のリュックを背負って車に乗った。
『せんせー赤ちゃん産まれたの?』
『せんせーが産んだの?』
『産んだのは先生じゃなくて嫁さんw』
『よめさん?』
子どもたちは首を傾げて聞いた。
『うーんと。先生の好きな人』
『ええ!せんせー好きな人いたの!?誰?かおりちゃん?かれんちゃん?』
子どもたちは興味津々だった。
『せんせーの好きな人は、このクラスでもなければこの学校でもありません!!』
『ええ!!じゃあ、せんせーは宇宙人が好きなの?』
『せんせーの嫁さんは宇宙人なのー?』
子どもたちはクスクスと笑いながら言った。
『違う違うw 先生の嫁さんは…』
犬太は今朝の葵を思い出した。すごい辛そうな顔をして『なんで』って子どもみたいに泣いて。いつも笑ってる葵じゃなかった。
『せんせー?どうしたのー?せんせーの嫁さんはどんな人?』
『あっ…ごめんね。せんせーの嫁さんはね、優しくて…作ってくれるご飯が美味しくて…いつも笑顔で可愛い女の人だよ』
『へぇ……』
男の子たちが『みほちゃんみたいだね』とか『かおるちゃんに似てる』とこしょこしょ話始めた。
『みんな、好きな子できたらぜひ先生に教えて!』
犬太はニヒヒと笑った。
『え〜!せんせーに言うとすぐその子に言っちゃうじゃん!!』
『言わない言わないw』
『私せんせーが好き!』
『私も!!』
『僕も僕もー!』
子どもたちは犬太を囲んだ。
『(なんて幸せなんだ…)』
『先生もみんなのこと大好きだ!!』
犬太は笑いながら答えた。
『ただいま〜』
帰ってくると葵の返事がなかった。
靴はちゃんと葵の分もある。
リビングで葵がまたソファで体育座りして泣いていた。
『葵…ずっとこのままだったの……?』
『違う』
葵は顔を挙げずにそのまま答えた。
『……美桜にミルクあげた?』
『うん』
『葵ご飯食べた?』
『ううん』
『え?』
『朝ごはんからずっと食べてない』
『……なんで?』
『お腹すかないんだもん』
『葵食べなきゃダメだよ…美桜に健康なミルク飲ませなきゃいけないんだから…』
『……口にご飯入らないもん』
『俺、葵の美味しいご飯食べたいな〜〜!』
『……なんでそんな勝手なこと言うの…?』
『え……』
葵の気分を良くしようと思ったけれど逆効果だったらしく不機嫌になってしまった。
『美桜に健康なミルク飲ませなきゃって美桜の健康状態しか考えてないじゃん…私のご飯食べたいって自分のことしか考えてないじゃん……!』
『いや…そういうことじゃ…』
『私のことも考えてよ!!』
『葵…?』
『ずっとお腹痛くてでも美桜が泣くからあやさなきゃいけないし葵が寝たと思ったら洗濯物取り込まなきゃいけないし、掃除機かけなきゃいけないし、そんなことしてたらまた葵が泣き始めてオムツ替えたりしてお皿洗いして洗濯物の分けてたら泣いちゃうし……。精神的にも辛いし自分でも美桜に手出しちゃうんじゃないかって心配になっちゃって泣いちゃうし……意味わからなくなっちゃうの……!それなのに犬太は私のご飯食べたいとか自己中なこと言ってさ……犬太本当は私と結婚したくなかったんじゃないの!?!?』
『え!?』
まさかそこまで言うと思わなかった。
『私に嫌がらせして楽しんでるんじゃないの!?!?』
葵は泣き叫んだ。
『葵何言ってんだよ…』
『もう……こんな私嫌いでしょ…?!大嫌いだよね…?!もう一緒にいると犬太辛いよね…?!』
『違う!!葵の勘違いだって……。確かに葵はたまに俺に対して冷たいこと言ったりしてくるときあるけどそれでも葵のこと嫌いになったことない!!嫌がらせなんて絶対にするわけないだろ!?自己中なこと言ったりしたのは本当に申し訳ないと思ってる。辛いのにまた辛いこと重ねちゃってごめん。』
『いつも泣いちゃってごめんね…。でも私も頑張るから、だから見捨てないでね……』
葵は泣きながら犬太に抱きついた。
『……うん。見捨てないよ。』
犬太は葵の頭を撫でた。




