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リセル・ヴェルホロウ

「はぁ...はぁ...はぁ」

「大丈夫ですかマコト君!?」


 リセルが近づき【回復】を使ってくれる。

 おかげで回復したMPを全て【再生】に回せる。


 目を治す。


 見上げた《赤尖塔》の頂上では鐘が揺れていた。

 そこに魔王の姿はない。


 振り注ぐ《紅染の重鎧》の破片が倒した証明だった。

 それはキラキラとひかり、幻想的であった。


 首を回す。

 グラムが全力を使い果たした末に、疲れて大の字になっている。

 フレイヤはティアを看病している。

 どうやら目を覚ましたらしい。

 彼女も首だけを曲げて俺と目を合わせる。


「やはり倒したのですね」

「ああ。頼まれたからな」

「ありがとうっ」


 人類が勝った。

 そんな大げさな言い方は嫌いだ。

 あくまで勝ったのは俺達だ。

 だが、さすがにそれをここで言うほど野暮ではない。


 【再生】で頭部が治った。


 カランッ。


「んあ? おいマコト、いまそっちで大きな音がしなかったか?」

「...これは」


 魔石だった。

 真っ赤な魔石。


「すげぇな。一等級...いや、それ以上か」


 魔王を倒した報酬。

 前人未到の偉業で手に入れた魔石は等級を超える。


「それはマコト殿たちの物だ」


 魔物の素材は止めをさしたパーティーに権利がある。

 手のひらに乗った魔石を見て、ふと、思いついた。


 幸せの門出を祝うように鐘の音はまだ鳴り響いている。

 ライスシャワーのように《紅染の重鎧》の破片がキラキラと降り注いでいる。


 脚が治った。

 立ち上がる。


「もう大丈夫なの?」


 リセルが心配そうに俺の全身を上から下へと見ている。


 【金の魔法】


 リセルに選んでもらったプレートアーマー。

 大事に使うと言った。


 これ以上の大事な使い方はちょっと、見当たらないよな。


 真っ赤な魔石を宝石に見立て、プレートアーマーでリングに仕立てる。


「リセル―――好きです」


 向き合うリセルがごくりと唾を飲む。


「これからもずっと一緒にいたい」

「私も、同じ気持ちだよっ」


 リセルの細く、それでいて強さを感じる手。

 それは決して女の子らしい手じゃない。

 剣を握る手だった。


 だけど、そんなリセルだから...。


 左手の薬指にリングを通す。


「...ありがとう」


 リセルは愛おしそうに左手を右手で包む、胸元で暖める。


「前哨戦が終わったから、次は本戦だな」

「ふふっ、まだ戦うの。もしかしてマコト君って戦闘狂?」

「かもしれないな。どうも俺は負けてばかりでな。勝ちたいのかもしれない」


 俺としては魔王に負けた。

 人類の中でもティアに負けた気分だ。


「負け癖がついたのかもな」

「じゃあ、ご利益が必要だね」


 リセルは真っ赤な指輪を大事そうに握り言った。


 はは、全然効果ないじゃんか。


 やっぱり。

 俺の負けだよリセル。


 口には出さない。

 敗北宣言になる。

 そうしたら戦いが終わってしまう。

 だからこんな言い方しか出来ない。


「リセル―――アストを一生忘れないで欲しい」


 『姫と勇者様』で勇者は「忘れるほど幸せにする」と言った。


 リセルの期待通りではなかった。


 期待を裏切られた。


 いや、違う。


 期待を超えただけだ。


「ふふっ。うん、忘れないよ。だからずっと一緒にいてね」

「ああ、もちろんだよ」

「じゃあ、ご褒美を頂戴」


 指輪では足りないようだ。


「言ったよね。私はマコト君の悔しがる顔が見たいって」

「ふっ。ははっ...わかった。存分に見てくれ」


 絶対忘れないように、死が二人を分かつその時まで。


 そして、顔を近づけてゆき―――。








        キスをした












                         Fin 








二章終了です。これにてこの作品はひとまずの完結となります。なにせ三章からはタイトル詐欺になるので。

ここまでお読み頂き本当にありがとうございました。

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