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第九地区南部海魔討伐作戦 襲撃編 鴉の章 【一ノ三】

聖アルフ歴1887年


「狼狽えるな! 海への警戒を損なうことなく近づかれる前に攻撃範囲の広い火行の術式で迎撃すれば問題ない筈だ」


船の乗り込もうとした海魔を見つけた防人は、術式を練る準備をしながらそう言った。それを聞いた防人の何人かは、我に返ったように術式を練り上げ始める。


「「「火気、幾十もの火の玉を生み出す。火行、火炎散連弾!」」」


 防人たちが火行の術式を空中の海魔に放つ。すると、海魔は、背中に生えていた長大な翼を畳んで、無数の炎弾が飛んでくるよりも早く船へと急降下を始めた。


「アイツ。重力を利用して速度を上げたのか!? あの速さじゃ炎弾をすり抜けられちまう」


 体格の良い防人が慌てた様子でそう言うと、別の防人は慌てたように腰の刀を鞘から抜き取る。


「こうなったら仕方ない。白兵戦で――」


 刀を細い腕で持った防人がそう言おうとした次の瞬間、細身な防人の首が魚のような顔をした海魔にもぎ取られていった。


「この野郎!」


 一番近くに居た体格のいい防人は、苛立ち交じりに敵の海魔に向かって身の丈に近いが長さの太刀を振りかざす。


 敵の海魔は、太刀の一撃を背中から生やした翼で受けとめると、もう一方の翼の先端で防人の胴体を貫こうとした。しかし、翼の先端が貫くよりも早く、横から槍が割り込み、海魔の翼の被膜を切り裂く。


「米林二等士下がれ。こいつは私が振り落す。お前たちは今まで通り時間を稼げ」


 新垣がそう言うと、米林と呼ばれた体格の良い防人は、無言で頷いてから後方へと下がった。部下が下がったことを確認した新垣は、敵の海魔へと意識を集中させる。


「お前の相手は私が務めよう。その翼では先程みたいには飛べまい」


 新垣上等官は手に持った槍を構え直しながらそう言った。海魔は一瞬自らの翼に目をやると、翼を畳みながら人間の言葉を話し始める。


「人間にも優れた戦士もいるそうだな。加えて我らの群れを見ても発狂する兵士が一人もいないとは驚いたぞ」


 海魔はそう言うと、先ほどもぎ取った細身な防人の生首を頬り投げて構えを取った。その構えは、格闘術を習得した人間と大差のない物だった。


「貴様と貴様の部下に敬意を払ってお前とだけは一対一で戦ってやろう」


 そう言われた新垣上等官は、無言で槍を構えたまま姿勢を一段階低くする。すると、海魔は人間には聞き取れない咆哮を上げた次の瞬間、魚面の海魔は口元を歪めながら新垣上等官に向かって殴り掛かって来た。


「速いな。おまけに一撃が重い」


 右に回避した新垣は、金行の術式を練り上げる。


「金気、我が敵を捕縛する無数の金剛石の鎖とならん。金行、多重金剛縛鎖」


 新垣が術式を練り上げると、無数の金剛石で作られた鎖が敵の海魔を縛り上げた。


「甘いな。人間」


 そう言った海魔は、自らを縛り付ける金剛石の鎖を力ずくで振りほどいて、再度打撃を加えるために船の甲板を跳躍して踵落としを行う。回避が間に合わないと判断した新垣は、咄嗟に槍で受け止めた。


「っち、金気、我が手に収まりし武具を覆え。金行、鉄鋼硬化」


 金行の術式で槍を強化した新垣は、術式で強化したにもかかわらず軋みを上げている愛用の槍に苛立ちを覚えながらも、咄嗟に槍が弾き飛ばされるように受け流して、仕切り直すように後方へ下がる。


「逃がさんぞ」


 海魔はそれだけ言うと、被膜を切り裂かれていない翼を展開して新垣の頭部を貫こうとした。


「金気、我が理解する武具へと成りわが手に現れろ。金行、武装創造」


 新垣が術式を練り上げると、何も持っていなかった彼の腕には、槍が何処からともなく現れ、それ利用して新垣は敵の翼を再度弾き返しながら石突で殴る。


「その首をもらうぞ」


 新垣は槍を素早く引くと、海魔に目では追い切れない速さの刺突を首元に目掛けて放った。


 海魔は自らの首元へと近づく槍を回避するために後方へ下がる。それを見た新垣は、金行の術式を練り始めた。


「金気、我が理解する武具へと成り無数に連なり空を駆けろ。金行、多重武装創造」


 新垣が金行の術式を練り上げると、何もない空間に、防人が持っている槍と同じ武具が無数に現れる。


「行け!」


 空中を浮遊していた無数の槍は、敵に目掛けて一斉に射出された。海魔は咄嗟に回避するが、射出された槍によって左腕を斬り飛ばされる。


「ぬっ!」


 痛みを耐える様にそう呟きながら海魔は、体勢を直した。それを見据えた新垣は槍を低くかめながら口を開く。その口調は何かしらの手応えと革新が籠ったものであった。


「千本差しの名は伊達ではない。一流の金行使いなら、魔力を利用して名剣の模造品ぐらいは容易で何本も作れる」


「次は首を貰うぞ。貴様の口ぶりから考えれば、お前達はどの国の回し者でもなさそうだから、殺しても問題は無いだろう」


 そう言った新垣は、先程まで防戦一方だったのとは対照的に自分から敵に肉薄して槍を振りかざす。



 第九地区の船団が海魔と交戦している頃、別方向から幻惑術式を船に施して無人島へと接近していた第672機動部隊は、敵に見つかることなく無人島へと接近していた。探知を担当していた伊藤三等官は冷静な口調で攻撃対象を探知したことを告げる。


「そろそろ敵の拠点ですね。上杉上等士に連絡を入れる必要が有りますね」


 比較的若い防人の男性がそう言うと、津島二等官は連絡用のマジックアイテムを手に取り、口を開いた。


「そろそろ攻撃対象への射程範囲に入る。隠蔽用の結界を解いて攻撃に入る準備入ってくれ」


 連絡用のマジックアイテムを介して二人にそう言った津島二等官は甲板で臨戦態勢に入っている防人たちに指示を出し始める。


「これより砲撃戦に入る。お前らも死なない程度に気を抜くなよ」


 津島二等官がそう言うと、部下である防人たちは武具を天に掲げながら雄叫びを上げる。


「おっと、いくら隠密行動は終わったとしても、もう少し静かにしろよ」



 津島二等官の指示を受けた鴉と上杉は、隠蔽用の結界を解除して甲板上部に立っていた。


「いよいよだな。結界を貼って移動してる最中にも確認した通り、火行を使える俺が前で、お前が後方から金行で援護射撃をする戦術で行くぞ」


「……はい」


「後、さっき俺の得物の事聞いた時少し敬語抜けてただろ? ありがとうな。少し緊張が抜けた」


 くせ毛の防人がそう言うと、頭に付けた鉢金を締め直しながら少し嬉しそうに笑う。それを見た鴉は、少し顔を赤くしながら口を開いた。


「何呑気なことを言ってるんですか。我異界より我が従僕を招かん」


 顔を真っ赤にした長い黒髪の隠密が使い魔を召喚する術式を使うと、人間を乗せれるほど巨大な三本足の鴉が姿を現す。


「今度は偵察ではないようですわね? 空中から奇襲ですの?」


 女性的な口調でそう言った鴉の使い魔に、長い黒髪の長髪の隠密は答える。


「はい。以前の偵察を含めて酷使することになりますが頼みますね。熊野」


 鴉の使い魔を熊野と呼んだ長い黒髪の隠密は、そのまま使い魔の背中に乗った。それを見ていたくせ毛の防人も、慣れた手つきで召喚術を練り始める。


「のんびりしてたら置いて行かれるな。我異界より我が従僕を招かん」


 上杉が召喚術を行うと、熊野と呼ばれていた召喚獣よりも一回りほど大きな鴉の召喚獣が現れていた。


「いよいよ仕掛けるぞ。早速で悪いが俺を背中に乗せてくれ大和」


「分かった。この国と同じ名を持つ者として恥じぬように全力を尽くそう」


 大和と呼ばれた鴉の使い魔は、低い声でそう言うと、背中を上杉に向ける。上杉が背中に乗ると、大和と呼ばれた鴉は、空へと羽ばたいた。


 二羽の鴉が空を舞い始めると、船からは火行の炎弾が無人島へ放たれ始める。攻撃が始まったことを確認した上杉は、僅かに先行している長い黒髪の隠密に話しかける。


「そろそろこちらの射程範囲に入る。先行する」


「了解しました」


 鴉がそう答えると、上杉は無人島を見据えて先行し始めた。


「じゃあ早速行くぞ。援護を頼む」


 そう言ったくせ毛の防人の青年は火行の上級術式を練り始める。


「火気、豪炎と成り我が敵焼き尽くす紅蓮の波となる。火行、豪炎紅蓮波」


 上杉が術式を練り上げると、広範囲を焼き払える高出力の炎が無人島へと放たれた。紅蓮の炎は、無人島から湧き出ててくる海魔の群れを焼き払う。


 二人が無人島へ接近しようとすると、海から巨大なタコ足が生えてくると同時にタコ足が二人を襲おうとした。


「私が切り裂きます」


 そう言った鴉は、上杉に並びながら古式術式を練り始めた。


「我、大いなる闇を司る憤怒の護法神を具現せん。大黒天・魔装」


 鴉が術式を練り上げると、青黒い魔力で形成された盾を持った隻腕の魔人が現れる。


「我が身を纏いし大黒天よ。敵軍を切り刻め。大黒天・魔装手裏剣」


 鴉がそう詠唱すると、青黒い隻腕の魔人は、手に持っていた円盤状の盾を手裏剣のように投げつけた。魔力の塊で形成された手裏剣は、海から生えてきたタコ足を両断する。


「無茶するな。今のどう見ても体に負担がかなりかかるだろう?」


 上杉は、大黒天を解除して肩で息をしている鴉に慌てた様子で声を掛けた。


「ごめんなさい、けれど……あれぐらいの一撃じゃないと今の海魔には対応できない」


 申し訳なさそうに鴉がそう言うと、上杉は、黒いくせ毛を少し掻きながら答える。


「後で無茶したことの説教はするから、今は下に降りるぞ。雑魚が片付いた今の内に敵の中枢を叩く」


 上杉がそう言うと、長い黒髪の隠密は無言で頷いた。敵の海魔が船から放たれる魔弾でさらに焼き払われていることを確認した二人は、無人島へと向かう。


                           続く


 どうもドルジです。更新が遅れてしまい申し訳ありません

 今回登場した召喚獣の元ネタは名前も含めて八咫烏です。日本神話において八咫烏の案内を受けて神武天皇が移動した二か所の古代の国の名前からとりました。

 やっと作戦そのものに話の主軸を持って行けた感じですが、がんばりたいです。

 

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