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124/124

124、極上の笑顔

 彼は、私の手をつかんで店の二階に上がった。このフロアは簡易宿泊所になっている。私も何度か宿泊したことがある。


 でも、彼は通路を奥へと進んでいった。そして一番奥の部屋の前で止まった。『R』と表札のような文字盤がはめ込まれた部屋だ。


 そういえば、この『R』って何なのか、以前気になってシャインくんに聞いたことがあったわね。確か、家族の部屋だと言っていたんだったかしら。


「この『R』って、リュックの頭文字?」


「あぁ、そーだぜ。遠慮はいらねーから、入れよ」


「あ、う、うん」



 部屋の中は、ちょっと意外な感じだった。まるで本屋か図書館に来たかのようだった。


 部屋の真ん中には長テーブルと、椅子が6個。そして壁にはズラリと天井までの本棚が並んでいる。


「すごい量の本ね」


「だろ? 棚に入りきらねー分は、魔法袋に入れてあるんだけど、魔法袋の中だと、長くいれてるとページがくっついたりしちまうんだよ。だから、簡単に手に入らねー本は、本棚に収納しなきゃならねーんだ」


「へぇ、こんなに読書家だなんて知らなかった」


「オレは最近は眠らねーからな。何もやることがないときは、本の世界に浸るのが楽しーんだ」


「日本語の本もあるのね。探偵や怪盗をしているのは、この本の影響?」


「まーな。魔法も使えねーくせに、やたらとカッコいいだろ? 憧れるよな」


 彼の本棚を見てまわっていると、読めない言語のものも多かった。日本語で書かれたものは、洋書の日本語訳版が多かった。有名な泥棒や探偵の小説はほぼ揃っているようだ。


(あ、ここはコミックの本棚)


 他の本棚とは違って、スカスカの本棚には、たくさんのマンガ雑誌と、そして私の故郷で買った合言葉がXYZのコミック本が並んでいた。


「あー、マンガはまだあまり集めてねーんだ。時代を移動しねーと続きが読めねーからな」


「そう、これ、あの本屋で買ったものよね?」


「あぁ、ローズの前世の時代は、マンガ天国だよな。タイガについていくと、昭和時代だからな。ライトが面白いっていうマンガがまだ生まれてねーんだよ」


「マスターは、平成時代だったわね」


「あぁ、だからオレ、怪盗は辞めねーからな」


「ん? 話が急に飛んだわね」


「そーか? 怪盗の報酬で得る氷の魔石の花を吸収すると、オレの魔力タンクが少し増えるんだ。でも、まだまだ足りねー。地球と往復するのがギリギリだから、地球でのんびりしてる時間がねーんだ。それに、往復の途中で交戦になったりすると魔力がもたねー」


「え? 魔ポーションを持ってるんでしょ?」


「オレにはポーションは効かねーんだ。魔力を回復するには、主人から供給を受けるしかねーんだ。古の魔人が、女神に逆らって大魔王になろうとしたから、それ以来、女神が生み出す魔人はすべてそうなってるみてーだ」


「じゃあ、マスターから魔力供給を受けられないと……」


「あぁ、オレは動けなくなる。だからライトと長時間離れていられねーんだ。と言っても、同じ島にいれば問題ねーけどな。一応、女神も魔力供給はできるんだが、アイツは見返りの要求が半端ねーから、頼めねー」


「ふふ、ティアさん、無茶苦茶なことを言いそうね」


「あぁ、アイツは強欲で腹黒なんだよ」


「でも、それでいいのよ。じゃないと主人の立場がないわ。女神様は最後の切り札、普段は主人に供給してもらうからこそ主従関係がうまく成り立っているのよ」


「ふーん。ローズは女神の味方かよ」


 彼はプイッと拗ねたような顔をした。そういうところは、ティアさんにそっくりね。女神様が生み出したから、癖も似ているのかもしれない。


「ふふ、そういうところ、子供ね。じゃあ、アマゾネスは離れすぎなのかしら」


「ライトがこの島にいるときは離れすぎだな。魔力の供給は受けられねー。あんまり距離は気にしたことねーから、細かいことはわからねーけど」


「そう……」


 当然のようにアマゾネスとこの場所の距離を気にしているなんて……気が早いわね。


 ふと、彼が私をジッと見ていることに気がついた。



「なぁ、ローズ、夢じゃねーよな? オレは夢なんてみねーけど。どーしよー、オレ……すごいたくさん野望が増えた」


「何? 野望? まさか世界征服とか言い出すんじゃないでしょうね」


「なっ!? んなつまらねーことじゃねーよ」


「じゃあ、何?」


「オレ、引越しする」


「へ? また、話が飛んだわね」


「飛んでねーよ。ここだと、狭いんだよ。本棚はこれ以上置けねーし。あっちの寝室も狭いから、あれこれ増えたらここでは無理なんだよ」


「えーっと……」


「オレ、ローズと地球に買い物に行くだろ? だから本棚増えるじゃねーか。それに、ローズ、オレと住むだろ? そしたら家族が増えるじゃねーか。どー考えても、この部屋では狭いんだよ」


「ちょ、ちょっと待ってよ。私、アンタと一緒に住むなんて言ってないわよ」


「ちげーよ」


「何が違うのよ」


「呼び名、決めたじゃねーか」


「あー、そうね。私は、リュッくんと一緒に住むなんて言ってないわよ」


 すると、彼はニヤッと笑った。


「いま、言った」


「は?」


「いま、私はリュッくんと一緒に住む、って言ったじゃねーか」


「あのねー。一緒に住むなんて言ってない、って言ったのよ。ほんと、バカね」


「おまえなー、バカっていう奴がバカなんだぜ? 知らねーの?」


「はぁ? 何を言ってるのよ、バカなこ……」


 すると突然、彼は、私の言葉を、唇で塞いだ。


「ちょ、突然、何よ」


 彼は至近距離で、ジッと私を見て、そして再びキスをした。


(ちょっと、いきなり何?)


「オレ、おまえが嫌がることは、なるべくしねーから」


 彼は、キュッと私を抱きしめた。そして耳元でささやいた。


「抱いていい、よな?」


「えっ?」


「おまえ、嫌だと思ってねーだろ」


「ちょ、人の頭の中、勝手に覗かないでよ!」


「ふっ、照れ隠しで怒るってことは……」


「なによ!」


「オレ、おまえのこと大切にする。おまえが伴侶にしないと言っても、おまえのことはずっと守る。ライトが教えてくれた。オレのこの気持ちは、恋の進化形だって」


「恋の進化形?」


「あぁ、オレはローズを愛してるんだって教わった」


 私はドキッとした。まさか、彼の口からそんな言葉がでてくるとは思ってなかった。


「なぁ、ローズは? オレに恋してるんだろ?」


(えっ? 恋? ……違うわ)


「私が、アンタに恋してるわけないでしょ!」


「えっ……」


 彼は、私を抱きしめていた手を離した。すぐ近くで見た彼の顔は動揺していた。今まで自信満々だったのに、ほんと、不安定ね。


(私が支えてあげないと……壊れそうだわ)



「私は、リュッくんのこと、愛しているわ」


「えっ!?」


 彼は、パッと顔を輝かせた。こんなに目を見開いた彼の顔は初めて見た。


「何よ、文句あるの?」


 彼はうつむき、肩を揺らしていた。笑ってる?


「おまえ、ほんと、ムカつく」


 そう言いながらも、彼の顔は優しかった。私の顔をジッと見つめている。


「おまえの初めて、オレがもらうから」


 ふわっと身体が軽くなった。その次の瞬間には、ベッドの上にいた。


「何、それ。ちょっと強引じゃないの」


「おまえは嫌がっていない。それに、オレ、自分から誘うのは初めてだ。オレの初めてをおまえにやる」


「意味わかんないんだけど……」


 私の反論は、彼の唇で封じられた。



 そしてーー私達は、ひとつになった。





 私は、眠ってしまったらしい。目が覚めると、彼はベッドに寝転がって本を読んでいた。私が目覚めたことに気づいているはずだが、本から目を離さない。


 私が起き上がろうとすると、やっと本から目を離し、私の方を見た。


「まだ、朝じゃねーぞ。もー少し寝てろよ」


「私、寮に戻らないと」


「やだ」


「へ?」


「オレと一緒に住むって言ったじゃねーか」


「言ってないわよ」


「じゃあ、もう一度聞くけど、オレと一緒に住むだろ?」


「そんな、急に変えられないわよ」


「オレの初めてをおまえにやったじゃねーか。責任取れよ」


「ちょ、その小説みたいなセリフ、どこで覚えたのよ」


「なっ!? おまえ、エスパーか? なぜ、小説の会話だとわかるんだ?」


「はぁ、小説なら、それは女性のセリフでしょ?」


「おまえは女尊男卑だから、男女入れ替えればいいはずじゃねーか」


「ほんと、バカね」


「チッ、おまえ、ほんとムカつく」


 彼はそう言いつつ、私をそっと抱き寄せた。



「オレ、おまえと一緒に住みたい。この街を離れる日もあるけど、でも、必ずおまえの所に帰ってくる。おまえが嫌がることは、なるべくしないよーにする。だから、オレと……」


 彼はそこで言葉を止めた。


「オレと? 何?」


「オレと……家族になって欲しい」


「そう、考えておくわ」


 私がそう言うと、彼は拗ねたような顔をした。


「いま、考えろよ」


「そんなの、急に?」


「急じゃねーだろ。さんざん、伴侶がどーのって話をしてたじゃねーか。オレ、伴侶にふさわしくねーのかよ」


 彼はまた捨てられた子供のように、不安そうな顔をしていた。はぁ、もう、そんな顔をされたら……。


「わかったわよ。家族になってあげるわ」


「女に二言はないよな?」


「ないわ」


 私がそう言うと、彼の表情はパァ〜っと明るくなった。


「ローズ、愛している」


「そう、ありがとう」


「ちょ、あのなー、おまえも言う流れだろ?」


「それは、小説の話でしょ」


「おまえ、ほんとムカつく」


 彼はムッとした顔をした。でも、さっきまでの不安そうな表情ではない。欲しい言葉をもらえなくて、拗ねているだけのようだ。


「リュッくん、ほんとバカね、愛しているに決まってるでしょ」


 すると、彼は、チュッと私の頬にキスをした。そして、ニカッと少年のように笑った。これまで見たどんな笑顔よりも、とびっきりの極上の笑顔だった。



 私は、この少年のような笑顔に弱い。前世からそうだった。いつだったか彼と話すようになったときにも、彼はニカッと笑った。あのときから私は、彼に恋する運命だったのかもしれない。




   ーーーーーーー 【完】 ーーーーーーー



皆様、最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。おかげさまで、無事完結できました。


また、いつか、この話の続きを書きたいなと思っています。この作品は「カクテル風味のポーションを」の外伝的なものなので、主人公は、マスターのライトに戻して、この数十年後の世界がいいかなと考えています。

その際には、また、覗きに来ていただけたら嬉しいです♪


【お願い】

わがままなお願いですが、ブックマーク枠に余裕があれば、このまま外さないでいてほしいです。この作品を読んでくださった記念に、残しておいていただけると嬉しいです♪ 外されると忘れられてしまうようで寂しいので……。


【ご案内】

昨夜から新作の投稿を始めました。

「世界を制圧した最強魔王、家出する 〜弱体化魔法が生み出す『魔力だんご』で、とんでもないことを始めた魔王の話〜」

タイトル、長いですね(汗)

ジャンルは、ハイファンタジーです。よかったら、覗いてみてください♪


後書きも最後までお付き合いいただき、嬉しいです。ありがとうございました。(*≧∀≦)

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[一言] 名探偵じゃない未来少年のコナンの最終回だったか モンスリーとバラクーダー船長の結婚式を思い出した モンスリーの口癖は「バカね」だったな…(*´・ω・`)b
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