122、伴侶候補
皆様、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。m(_ _)m
「そのことについて、オレから話をしてもいいですか」
私が、母とお婆様に、彼とのことについての話をしようと口を開けかけたときに、彼がそんなことを言い出した。
(何を言うの?)
私は、彼が、伴侶の話は無しにすると言うんじゃないかと不安になった。ということは、私は彼を伴侶にすることを望んでいるということよね。
旧帝都で話した、オレの女になる、という言葉……彼がどこまでを想定しているのかわからない。自分で自分を彼氏だと言って照れていた。恋人という感覚だけなのかもしれない。
彼はチラッと私を見て、ふわりと微笑んだ。
(なっ!? そんな顔……)
今までに見せたことがないような、彼のやわらかな微笑みに、私は不覚にもドキッとした。顔が……きっと赤くなっているわね。頬が熱い。
そんな私達の様子に、母は笑みを浮かべていた。お婆様は、不思議そうな顔をしている。母からお婆様に、私が転生者だということ話は、されていないのかもしれない。
「リュックさん、お話をうかがいましょう」
「女王陛下ありがとうございます」
お婆様も、ゆっくり頷いていた。彼はお婆様にも軽く頭を下げて、話し始めた。
「結論から申し上げます。ローズさんとは、お付き合いをさせてもらうことになりました」
(やはり、恋人ということだったのね)
「オレは、ローズさんのことは、ほぼ全て知っています。でも、ローズさんはオレのことをあまり知らないんです。だから、オレは彼女に伝えていきたい。その上で、オレを伴侶にするかは彼女に判断を任せます。彼女の判断に関係なく、オレの命がある限り、オレはローズさんのことを守ります」
私は、ドキッとした。どうしてそんなに……。
「ローズがリュックさんを伴侶に選べば、ローズの伴侶になるということかしら?」
「はい、当然です」
「リュックさん、なぜそんなにローズに……ローズが拒否しても守ると言うの? どうしてかしら?」
母は、私と同じ疑問を持ったのだろう。いや、違う。母は魔人には感情がないと思っている。
私は、彼がなぜそんなに私にこだわるのか、それを彼の口から、彼の言葉で聞きたいと思っているんだ。
マリーからは、彼は、私がマスターと価値観が似ているから気に入ってると言っていた。でも、それを彼の言葉で聞きたい……。
「オレは、ローズさんのことが好きなんですよ。彼女と出会ってから新たに生まれた感情です。普通、魔人には感情がないと考えられていますよね。オレの場合は、育てた主人が特殊なんで、魔道具から魔人に進化する前から……まだ魔道具だった頃から感情があるんですよ」
「えっ?」
母も、お婆様も、そして私も驚いた。驚いたポイントはそれぞれ異なるとは思うが、三人同時に驚きの声をあげた。
「ローズのどこに惹かれたのかしら。リュックさんのまわりには、多くの有能な美しい女性がいるわよね。それなのに、なぜローズなの?」
(ちょっと、お母様、ひどいわね)
確かに、私に惹かれたというのは……疑問しかないのもわかる。他にも魅力的な女性は、彼のまわりには大量にいるはずだ。それに、彼は異常にモテる。多くの女性は、彼を欲しがるのだから。でも、みんな彼のことを……。
「好きだということに理由が必要ですか」
「なぜなのか、理由があるなら教えてもらいたいわ。ローズは、その理由を知っているの?」
「お母様、彼から直接聞いたことはないけど、たぶん私の価値観が他の女性と異なるからだと思うわ」
「ふっ、伝えたつもりなんだけどな」
「理由、言わなかったじゃない! 自分だけがわかったって笑ってて」
「そーだったか? 忘れたー」
「ちょっと、アンタねー」
彼はいつもの調子に戻っていたが、二人の視線で、コホンと咳払いをして、表情を引き締めた。
(別に取り繕わなくてもいいのに)
「ローズさんは、オレのことを道具だとは思っていないんですよ。だから、オレは彼女と話していると心の底からムカつく」
「えっ? 仲が悪いのかしら?」
「そう聞こえましたか? 感情の薄い魔人が、感情を揺さぶられるんです。こんなにオレの感情を動かすのは、主人のライト以外では、ローズさんだけです。オレを生み出した女神の言葉もムカつきますが……」
「感情を揺さぶられる?」
「そうです。ローズさんは、ライトと似た価値観を持っていて、女神に似た所があって……こんなことを言うとファザコンだとかマザコンだと言われそうですが……」
女神様の魔力から生まれ、マスターが育てたから、二人は彼の親のような存在なのね。私が二人に似た部分を持っているってこと? 彼の両親に似ているから?
私がそう考えていると、それを肯定するかのように、彼は私の方を向いて少し拗ねたような顔をした。
(まるで自分の居場所を探している迷子のようね)
「なんだか、リュックさんの言葉とは思えないようなことを聞いて、少し混乱していますが……あとは、ローズの気持ち次第なのですね」
「はい、そうなります。ただ、今すぐ答えを出す必要はないですよね。オレには、ローズさんが嫌がるようなことは、なるべくしたくないけど、役割もあるので……」
(だから、私と会わないようにしていたのね)
「ライトさんとの主従関係と、女神様の指令でしたかしら」
「はい、他にも、魔人であることの役割もありますね。それに、彼女は知っていることですが、オレには女神公認の趣味で街を離れることもありますし」
(怪盗のことね)
「魔人としての役割というのは、戦乱の助っ人で街を離れるということかしら」
「まぁ、それもありますが、あの街に人が集まる原因にもなっていることがあります」
(何? ポーション?)
「何かしら?」
「お話できません。おそらく、理解できないことだと思います。でも、彼女は知っている。それは今後も続くことになるでしょうし、彼女に嫌われるとすればその点ですね」
「何? 私が知っていて、嫌うことって?」
「話せねーって言っただろーが」
「じゃあ、マリーに聞くから! あっ……もしかして、そういうこと?」
「…………あぁ、そーゆーことだ」
「ちょっと、アンタねー! あっ、でも、そっか……魔人がたくさんいるからあの街は……」
母が説明を促すように、彼をジッと見た。お婆様は理解することを諦めたようだった。
「あの街の存在は、この星の平和には必要なんです。戦乱以外の方法で、望むものが手に入る可能性がある。だから、地底からも大勢やってくる。オレは客寄せパンダのようなものだから、ローズさんが嫌がっても、どうにもできないから」
(彼の子を欲しがる女性達のことね……)
「リュックさんの話が全くわからないわ」
「特殊なことなのです。誰かに頼まれて始めたわけではありません。自然とそうなってしまったことです。でも、そのことで、地底の戦乱は減りました。おそらくあと数百年で、この星の戦乱はほぼ無くなります」
「マリーが大魔王になったら、ってことね」
彼は、軽く頷いた。それほどマリーは、絶対的なチカラがあるんだわ。それにマリーは、私と同じ転生者だから、そもそも人族を滅ぼそうなどとは考えないわね。
「マリーさんって、こないだ一緒に来た、ローズのお友達よね」
「ええ、そうよ。マリーは彼の娘でもあるわ。そして、前世では私と同郷よ」
母は、驚きのあまり言葉が出ないようだった。だが、そのことで、彼が言った言葉が理解できたようだ。そして特殊な事情も、なんとなくわかったらしい。
「ローズ、それでいいの?」
「さぁ、わからないわ。まだ、彼のことはよく知らないもの。でも、私も伴侶を何人も持つなら、そんなことは気にならないかもしれないわね」
私が伴侶を他にも選ぶかもしれないと言ったことで、母はそちらに気を取られたようだ。
「じゃあ、ローズの伴侶候補を募集しようかしら」
「条件を出すわ」
「何? 無茶なことは言わないでよ」
「私の伴侶になりたいなら、ハロイ島の魔法学園に留学することね。そこで、私と親しくなった者なら……考えてあげてもいいわ」
「わかったわ」
母は、嬉しそうな顔をしていた。でも、彼は違った。
「もー、他の男の話かよ」
(えっ? まさか、やきもち?)
【新作投稿予定ご案内】
明日の夜から、新作を投稿する予定です。
次は、ハイファンタジージャンルです。
作風は相変わらず、ほのぼの系ですが、ちょっと変わった魔王の話です。魔王(男)が主人公ですが、あまり戦闘シーンはありません。よかったら、のぞきに来てください。
明日夜は1話投稿、そして明後日からは話の区切りがよいところまで毎日2話投稿予定です。