121、リュック、呼び名にこだわる
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突然現れた私達に、アマゾネスの城の警備兵は驚いていた。反射的に剣を抜いた彼女達だったが、私の姿を見てハッとした顔をしてひざまずいた。
「ローズ様、申し訳ございません」
「構わないわ。突然現れたら、誰だって敵だと思うわよ。剣を抜く反応が速かったのは、逆に、誇らしいわ」
私がそう言うと、警備兵は一瞬驚いた顔をしたが、再び深々と頭を下げた。
今までの私なら、剣を突きつけられたら激怒していただろう。でも、私はハロイ島に行って、それに前世の記憶が戻って、随分と価値観が変わったのだ。
私達は城門をくぐり、城の中へ入った。
「ローズ、女王陛下は食堂にいるぜ」
「食事の間ね、わかったわ」
私は、カバンと共に食事の間へと向かった。やはり、カバンは、所長の姿をしていたときと同じく、アマゾネスのマナーを守っていた。彼は、私の数歩後ろからついてきた。
「ねぇ、なぜアマゾネスのマナーを知っているの?」
「この国をウロウロして、だいたいの情報は頭に入れた。武闘系の種族は思念を垂れ流してるから、歩くだけで簡単に聞こえてくるからな」
「それってバカにしてない?」
「してねーよ。おい、この国の男から得た情報も、うやうやしー感じにしなきゃならねーのか?」
「それならいいわよ。この国では男は、人扱いされないもの」
「おまえは、オレをどー扱うんだ? まぁ、オレは人族じゃねーから、人扱いされねーのにも慣れてるけどな」
「アンタ、やっぱバカよね。私の彼氏なんでしょ? 私が、彼氏を道具扱いするとでも思ってるわけ?」
「オレ、魔道具から進化したから、道具で合ってるけどな」
そう……彼は感情があるのに、ずっと道具扱いされてきたんだわ。アマゾネスの男も人として扱われないが、それは女尊男卑だからという程度。男親は、息子を人として扱っている。
「アナタを道具扱いしない人はいないの?」
「一人だけいる。あ、でもアイツの家族は……たまに道具扱いするけど、だいたいは人扱いかなぁ? うーん」
「マスターね」
「あぁ」
「じゃあ、倍になったわね」
「はぁ? 何が?」
「私もアナタを道具扱いしない。そんな珍しい人が二人になったわね」
そう言うと、カバンは立ち止まった。何? まだ食事の間じゃないわよ?
「じゃあ、オレの名前、ちゃんと呼べよ」
「へ? 名前? なんて呼んで欲しいわけ?」
「リュック……くん」
「は? リュックくん?」
そう言いつつ、彼は少し頬が赤くなっていた。
「わりーかよ。オレを人扱いする奴らは、リュックくんって呼ぶんだよ」
「ふぅん、確かにリュックって呼び捨てにしてる人が多いけど、マスターやシャインくんは、リュックくんって呼んでるわね」
「あぁ」
(呼び方を気にするなんて思わなかったわ)
「じゃあ、リュックくんは長いから、リュッくんにしようかな」
「えっ!?」
「だって、リュックくんって呼びにくいし」
「それって、あだ名ってやつじゃねーのか」
あだ名に憧れがあるのか、彼の表情はキラキラと輝いていた。あだ名なら、もっと別な呼び名がいいわね。
「まぁ、そうかもしれないけど……嫌ならやめておくわ。カバンにしようかしら」
「リュッくんでいい」
「そう、じゃ、リュッくん、食事の間はまだ先よ」
「あぁ」
そう返事しつつ、彼はやはり照れたような顔をしていた。なんだか意外な一面だわ。
食事の間に着くと、出入り口にいた近衛兵が、アッと驚きの声を上げ、母を呼んだ。
テーブルには、母の側近だけでなく、お婆様までいた。重要な会議をするときには、前女王のお婆様も呼ばれる。
彼が、アマゾネスの人達が心配していると言っていたのは、このことだったのね。きっと、旧帝都へ攻め込むつもりだったんだわ。
「まぁ! ローズ! よかったわ、無事で」
「お母様、お婆様、ただいま戻りました」
「もしかして、リュックさんが助けに行ってくださったのかしら」
私の後方に控えていた彼に、皆の視線が集まった。だが、彼は、頭を下げたままだった。ほんとによくわかっている。まだお婆様が言葉をかけていないのに、顔をあげるのはお婆様に対して失礼にあたる。
「リュックさん、お久しぶりね。随分と礼儀正しくなったのね」
お婆様は彼を知っているようだ。彼はやっと頭をあげた。
「前女王陛下、お久しぶりでございます。女王陛下、ローズさんの救出に行って参りました」
「ふふ、ライトさんの教育の成果ね。まさか、魔人にかしずかれるなんて……驚きしかないわね」
「オレも、少しは成長しましたから」
「そうね。あの頃が懐かしいわ。ライトさんを伴侶にしようとしたのに、あなたに妨害されたんですものね」
(えっ? お婆様がマスターを?)
「あー、そんなこともありましたね。ライトは、嫁に一途に惚れてるから、邪魔されたくなかったんですよ」
「そんなあなたが、まさかとは思っていたのだけど、ローズを救出に行ったのなら、そういうことなのかしら? 女王から報告を聞いて信じられなかったのだけど」
「ローズが、彼を許さないと言っていたから、まだ候補者の一人にすぎませんわ」
お婆様の質問に対して、母は、彼が出した条件の話をした。アマゾネスの国益のためには、魔人を伴侶にすることがこれ以上ないほど素晴らしいことだと、改めて母が口にしていた。
(はぁ、また、国益……)
アマゾネスは、女尊男卑の国だ。異常なほどの女尊男卑だと、今の私にはわかる。そして、それは種族の特徴ではあるけど、以前の私のような、そのことを誇りに思うという価値観は、私の中からは消えていた。
「そんなことより、アイツらから毒を受けたのよね? 大丈夫なの?」
「ローズ、なぜそれを」
「アイツらが、解毒剤を見せて私を脅したのよ。朝までには、毒を吸った全員が死ぬってね」
「そう、やはりアマゾネスを諦めていなかったのね。ライトさんは、それも予期して、大量のクリアポーションを格安で売ってくれたのかしら」
母は、彼にそう尋ねていた。確かに、マスターがここに行商に来たのも、いろいろな種類がある中で、クリアポーションを大量に置いていったのも、マスターからの提案だわ。
「ライトは、そんな先の予測はしていないと思います。この国で呪具を使っていることをオレが話したから、だからクリアポーションを売りに来ただけでしょうね」
「たまたま運が良かったのね。あの大量のクリアポーションがなければ、多くの者を失ったわ」
「お母様、毒を吸ったすべての者に与えたの?」
私は、男には与えないのではないかと一瞬不安になった。その考えを見抜いたかのように、母は声を出して笑った。
「あははっ、ローズってば、必死ね。そんなにアルのことが心配なのかしら」
「別に先輩のことだけを言っているわけではないわ」
「ふふっ、ローズが神族になったという話を女神様から聞いたから、男にも与えているわよ。数が足りないなら、女性を優先しますけどね。神族は、性別も種族も関係なく、命ある者をみな平等に扱うことは、知っているわ。それが女神様の方針ですからね」
私は母が、男にもクリアポーションを与えたことに安堵した。母は完全に女尊男卑だが、命に関わることには、私と同じ価値観を持つのね。
「そう、よかったわ。でも、私の価値観は、次期女王として……女王の欠格事由になるかしら。もし、そうなら妹が次期女王になればいいわ」
「あら、ローズ、何を言っているの? アマゾネスの民は、ローズが後天的に神族になったことは誇りに思うわよ。もし貴女に姉が居たとしても、その継承権を剥奪して貴女を次期女王にするわ」
「えっ?」
「ふふ、姉妹の生まれた順番が逆じゃなくてよかったわ」
「そう、じゃあ、今までどおりね」
「近いうちに、ローズの変化について、民に公表するわ。リュックさんのことも、貴女の伴侶として公表してもいいのかしら。救出に来てもらったのに、まだ許さないなんて言わないわよね?」
母は、意味深に、ニヤッと笑った。
(何? なにか気づいているの?)




