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七月三十一日 日曜日 (2)

 コップ一杯の水を一気に飲み干すと、アラカワは立ち上がって玄関に向かい、靴を履いた。本当に帰ってしまうのか? と内心思った二人はアラカワに続き、靴を履いて外にでる。


 オーディオのボリュームつまみを回したかのように、蝉の声が耳をつんざく。それはまるで、叫びのようだ。


 階段を下りきったアラカワは裏野ハイツを見上げた。三人並んで立つと、アラカワは身長が百八十以上あり、一際背が高いことがわかる。


 アラカワは三歩で101号室の前に立つと、手にしていたジャケットを羽織り、インターホンを押した。待つ間にカードケースから名刺を一枚出す。ほんの数秒の出来事だった。


 やがて、101号室の住人が顔を出した。チョーノにとっては初めて見る顔だった。頭の薄い五十過ぎの男は白のインナーシャツにステテコパンツ、といった休日仕様。


「私、こういう者なんですがね」


 アラカワが名刺を差し出す。男は受け取ると、不審そうな顔で名刺と顔を交互に見た。


 そして「すみません」と一言小さく謝ると、名刺を突き返してバタン、と扉を閉めてしまう。


 アラカワは振り返ると、二人に『びっくり』といった表情を見せた。そして両掌を上にあげ、『WHY?』といったジャスチャーをしてみせる。


 「アラカワさん、マジ大したことないんすね」チョーノは呆れたように言った。するとアラカワは表情をム、ム、ム、と怒りに変えて、一歩で102号室前に動いてインターホンを押した。


 ーーピーンポーン


 ーーピポ、ピポ、ピポ、ピポ、ピーンポーン


 ガチャリ、と音がして男が姿を現す。汚い身なりをした男息を荒げ、アラカワのインターホン連打に既に怒っている。


「私、こういう者ですが」


 アラカワの名刺を受け取った男はグワッ、と目を見開くと、何も言わずにドアを閉めようとする。アラカワは皮靴をその隙間にねじ込み、それを防いだ。ガチリ、と硬い音が響く。アラカワの靴の爪先には、エンジニアブーツのそれのように鉄板が仕込まれていた。


「お話、聞かせて欲しいんですよ。お名前を聞いてませんでしたね。お聞きしても?」


 男はガチャガチャと必死に扉を引いた後、アラカワの胸を押してやっと扉を閉めた。その向こうからは、鍵やチェーンロックを閉める音が聞こえてくる。


「本当にワケアリかもな、この物件」


 アラカワが両手で襟を正しながら呟く。ポケットからヘアゴムを取り出すと、長い髪を後ろで結んだ。


 そして一歩で、103号室のドアの前に移動した。

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