第7章:解決
2月12日(日)、この日は3人とも7時に起きた。
しっかり朝ごはんを食べ、今日はどこに行こうかと悩んでいた時、突然龍の携帯が鳴り出した。
番号はどこかの家から。
「はいもしもし。」
「あっ、もしもし。照美の母です。お早う。」
「お早うございます。どうしたんですか?朝早くから。」
「それがさっき思い出したことがあるの。」
「何ですか!?」
「照美ね、そういえばO.Tがどうとかってぶつぶつ言ってたの。何かの役に立てばと思って。まだ警察にも言ってないのよ。」
「それはすごい手がかりですよ。ありがとうございます。何としてでも助けますから。それじゃあ。」
電話を切るとすぐに翔太と晴起に事情を説明し、必死に考えた。
「そういえば今までに殺された子もO.Tに会うって言ってたな。なぜそこに気づかなかったんだ!それにしても、何かの暗号か?それともイニシャルか?…なんだろう?」
晴起は頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
「小野の奴だったらO.Tなのにな。」
翔太はさもおかしそうに言った。
「何で?」
「それは小野先生、つまり小野ティーチャーだからだよ。笑えるだろ?」
龍の顔は笑っていなかった。むしろ尊敬のまなざしを送っていた。
「それだよ!天野さんは生徒で、しかも友達が少ない。つまり彼女を簡単に呼び出せる人物。それは先生しかいない。ってことはOだから、お・お・小野、岡……?岡だ!岡は担任だし、理由は簡単に作れる。晴起、岡の家を調べて!」
「分かった、ちょっと待って。えーと、岡、岡っと。あった。丁度、N小学校から南西の位置にある。」
「ビンゴだな。早く行こう。俺の指が火を噴くぜ!!」
3人は早まる気を抑えながら走った。岡先生の家に着くと、門を開け、翔太がインターホンを押そうとした時、ガラスが割れる音が聞こえてきた。
「俺が見てくるから、その間に岡先生を呼び出しておいて。」
龍が庭に行くと、1つの消しゴムが落ちていた。
それはクマの絵が描かれているかわいらしい消しゴムで、見覚えがあった。
それはまさしく照美の消しゴムだった。
その間に翔太はインターホンを鳴らし、岡先生と話していた。
「安倍と森永どうしたんだ?」
「えーと岡先生に天野さんのことについて聞きたいと思いまして。」
「天野のことは知らないな。今も連続誘拐犯のところにいるんじゃないのか?早く見つかるといいな。」
「先生、なぜ連続誘拐犯と知っているのですか?」
「それは…ニュースでやってたからだ。」
「本当は先生が犯人じゃないのか?」
翔太は声を荒げた。
「教師に何てこと言うんだ!さぁ帰りなさい。」
「分かりました。また来ます。」
翔太と晴起が門を出た後、龍がいないことに気付いた。
「あれ?龍は?」
「庭にいるんじゃねーのか?…行ってみようぜ!」
翔太は言うなり、庭の方へと駆け出していった。
「しょ、翔太!待ってよ!」
遅れて晴起も後を追った。
すると、庭には険しい顔をした龍がいた。
龍の手には消しゴムが握られている。
突然、頭に龍の声が聞こえてきた。
「翔太、晴起!天野さんはこの中にいる。」
龍の目線の先には1つの小さな窓ガラスがあった。
しかし、真ん中が割れていて赤い雫が垂れていた。
「あれは…血?」
「そうみたいだ。天野さんが危機を感じて割ったらしい。どうやって助けたらいいんだ…。」
「そういう時は俺に任せろ!」
翔太はそう言うと、壁に向かって指を鳴らした。
指からは巨大な火の玉が出た。
その火の玉が壁に当たった瞬間、壁が一瞬で焼け、崩れ、穴が開いた。
「どうよ!すげーだろ。」
「…す、すっげーよ。何時の間に修行したんだよ。」
晴起が感心していると、龍が突っ込んだ。
「そんなことより早く行こう。天野さんが待ってる。」
「はいはい。龍の愛しい人のために僕は戦うぞ!その前に警察に連絡しておこう。」
晴起が警察に連絡している間に、龍と翔太は乗り込んだ。
時は少し戻り、翔太と晴起が帰った後、岡 雄一は、
「あいつら、なぜ分かったんだ?それよりも早く天野を始末しなければ。」
雄一は、玄関の隣の部屋に入り、奥に置いてある本棚の中の一冊を奥へと押した。
すると、本棚がスライドし、1つの扉が出現した。扉を開けると、照美が手を赤く染め、必死に痛みに耐えていた。
「お、お前!何をしたんだ?」
窓を見ると、真ん中が割れていた。
「くそっ!腕をもっときつく縛っておくべきだった。」
「…お、岡先生?何でここに?もしかして、あの日呼び出したのは先生?」
「そうさ!気付くのが遅かったな。殺したい奴を呼び出すのに本名を教えるバカはいないからな。O.Tって良く出来てるだろ。」
「そ、そんな…。だ、誰か助けて。」
照美は恐怖のあまり大きな声を出すことは出来なかった。
「そんな顔をしなくてもすぐに終わるよ。」
雄一の手には、日本刀が握られていた。
刀を抜き、鞘を捨て、両手で構えた。
そして照美の前に立ち、刀を振り下ろした。
「龍君!助けて!」
照美は心の中で叫んだ。
「その気持ち、確かに届いたぜ!」
ふと、そんな言葉が頭に響いたような気がした。
すると突然、壁が揺れ、穴が開いた。
「な、何だこれは!だ、誰だ?」
「先生、俺だよ!」
翔太が自分を親指で指しながら言った。
「あ、安倍!こんなことして済まされると思うのか?っていうかどうやった?」
「こうやったんですよ。」
そう言うと、指を鳴らした。今度は小さな火がすごいスピードで雄一に向かって飛んだ。
雄一は反応できず、火の玉に吹っ飛ばされた。
雄一が起き上がる前に、龍が照美を抱きかかえ、晴起と翔太の隣に下ろした。
「ありがとう。安倍君、森永君、…龍君。」
「良いってことよ。…ん?何で龍だけ下の名前なんだ?」
照美は気付き、耳まで真っ赤になっていた。横を見ると、龍はもっと真っ赤になっていた。
「おい!お前ら、何呑気に話してる!こうなっては1人も帰すわけにはいかないな。」
雄一は日本刀を持ち直し、4人目掛けて走り出した。
翔太が指を鳴らそうと構えたが、雄一の姿はなかった。
「どこ行った?」
ふと、気配を感じて翔太は後ろへと跳んだ。
飛ぶ前にいたところには、雄一が立っていた。
「なかなかいい感覚してるね。実は私も能力者なんだよ。姿を消すことが出来るんだ。すばらしい能力だろ!この能力であの邪魔者も排除したのさ。」
4人は誰のことを言っているのか分からなかった。
「何だ?分からないのか?小野先生だよ。天野をさらった後に、あいつに見つかってね。」
「お前が小野先生を殺したのか!」
龍は、怒気を露にした。
「神武が起こった顔を見たのは初めてだな。まぁ話はここまでにしよう。君たちには死んでもらう。」
翔太が開けた穴から外に逃げても良かったが、外に被害が及ぶのを避けたかったため、3人は外に出ようとはしなかった……晴起を除いては。
晴起は、恐怖のあまり、逃げ出した。
雄一は姿を消し、龍目掛けて日本刀を振り下ろした。
龍は横に飛び、攻撃を回避した。
次も、その次も。
不思議に思った雄一は、
「なぜだ?なぜ避けることが出来るんだ?」
口を開いたのは照美だった。
「それは私の能力のせいですよ、先生。私の能力は人の能力を打ち消すことが出来るの。しかも永遠に。もう先生は能力を使えないわ。」
「何だと!くそっ!まずは天野!お前から死ね。」
雄一は、怖い表情で照美に向かって突進した。
翔太は雄一に向けて火鉄砲を放ったが、焦りのあまり関係ないところに当たった。
「くそ!全然当たらねー。」
照美は雄一の気迫に押されて動けずにいた。
照美に刃が当たりそうになった時、
「やめろ!」
雄一の頭に響いた。
雄一は突然のことでびっくりし、動きが一瞬止まった。
そのチャンスを龍は見逃さなかった。
雄一の後頭部を鞘で思いっきり殴った。
雄一は倒れ、晴起によってパソコンのケーブルで手足を縛られた。
もちろん雄一は生きているはず…。
5分後、警察が到着し、雄一は逮捕された。
4人は事情聴取を受け、開放されたのは午後8時を廻ってからだった。
結局、壁の穴については話さなかった。
それは、雄一の家から爆弾が見つかったからだ。
「やっと解決したな!俺ってば大活躍じゃねー?」
「そうだな。翔太にはかなり助けられたな。もちろん晴起にも。それに比べて…はぁ。」
何を言おうとしたのか理解した翔太と晴起は、龍に声をかけようとしたが、
「そんなことないよ!龍、…神武君もよく頑張ったよ。それにカッコ良かったよ。」
「そ、そうかな?ありがとう。そうだ、手は大丈夫?」
「うん、全然痛くないよ。」
本当は痛かったが、心配かけまいと思い、嘘をついた。
翔太と晴起は2人きりにしようと、じゃあと言うとさっさと帰ってしまった。
「あの2人…。俺が家まで送るよ。」
「ありがとう。」
照美は顔をほころばせた。
照美の家に行くと、両親は家の外で待っていた。
母親は、照美を見つけると走り、照美に抱きついた。
そして大きな声で子供のように泣いた。
龍は両親にかなり感謝され、食事に誘われたが、3人で食べて欲しいと言って断った。
そして、そのまま帰宅。
家に着くと、疲れが押し寄せ、そのまま眠りに落ちた。




