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最終話 荒野へ


 ファレイの牙がエクの喉に深く食い込んでいた。

 まるで布団で絡み合う男女のように、艶かしい光景であった。

 「が、あああああ、何で、もうすぐ、世界は変われるんだ、変われるのに――」

 喉を喰い破られ、空気がその穴から抜け出ている為、まともな声は聞こえない。

 ハヤンの体の霧が、全身でエクを喰らおうとするように体に纏わり付き始めていた。

 

 「一体どうなるんだ!?」

 プルシコフが困惑した表情を浮かべた。

 「何か……ヤバイですよ! プルシコフさん!」

 エクの力で静止していた天井の圧倒的質量が、エクがそれに構っている余裕がなくなったため、落下をまた始めていた。

 プルシコフの能力でそれを粉砕する事は可能だが、それをする前に、床自体の耐久力がもう既になくなっていた。

 いや、この総統府全体が、この強烈な力のぶつかり合いに、その存在を保てなくなっていたのだ。

 総統執務室、つまり現在位置は地上5階に位置する、地面が破壊されれば当然その場に居る全員が落下するしかない。


 落下しながらプルシコフはそれを見ていた。

 それは奇妙な光景だった。

 宙を浮かぶエク、その喉元に喰らい突き放さないハヤン、いやファレイというのか。

 エクは何とかしようと足掻いているのか、魔力を使っているのだがハヤンはどうやっても離れない、その力の発光が眩いばかりの白い発光体のように輝いていた、まるでそれは、ありきたり過ぎるのだが――天使のように見えた。

 その喉元に喰らいついているハヤンは、どう前向きに見ても悪魔。

 自分たちが行った事は本当に正しかったのだろうか――

 

 プルシコフが眼にした光景はそこまでだった。

 振動波であらゆる障害物は破壊できても、宙に浮かぶ事は出来ない。

 それはクァルゴも同様だった。

 二人とも、この高さから落ちて死ぬようなタマではない。

 問題なのは、地面に落ちた瞬間に落ちてきた天井に押しつぶされる事だが、プルシコフの振動波で破壊も可能ならば、地面をクァルゴが掘り進んで逃げる事も可能だった。

 ダルマとパンチェッタも、この総統府の崩壊に巻き込まれているかもしれないが、それで死ぬような人間達ではないだろう。

 それに死んだら死んだだ。

 とりあえず、二人は逃げるだけだ。

 あらゆる事態を考えるのはそれからだ――


                           ・


 瓦礫の山と化した、かつての国家の中枢を前に、ダルマは佇んでいた。

 自分が愛した国。

 自分が技を磨いたのは自分自身の為であったが、それを国の為に使うという事が自分としては奇妙ながら性に合っていたのだ。

 その象徴とも言える存在と場所が破壊されたのだ。

 ダルマのその表情には悲壮というにはあまりにも形容しがたい表情が浮かんでいた。

 「おいおい、まるで自殺寸前の顔じゃねえか爺さん、死にたいなら手を貸そうか?」

 背後からパンチェッタが声を掛けたが、ダルマは無反応であった。

  

 この二人、怪物化した総統との死闘で死力を尽くしたが、その後にやってきたのは何とティンクとキャオの二人であった。

 二人は一旦、英雄連本部に帰り状況を報告して、そしてすぐさま戻ってきたのだという。

 ガイツとの約束は帰れと言う物だけで、もう一度来るなとは言われなかったというのが彼らの理屈らしい。

 とりあえず、この二人に連れられたお陰でダルマとパンチェッタは総統府の崩壊に巻き込まれずに済んだのだ。

 

 これからこの国は、総統を失い、そして中枢機関も失った状態ではとてもじゃないがまともに政治が行えない。

 ただでさえ火種を多く抱えて、恨みを他国から散々買っている国なのだ、無防備になれば四方八方から攻め込まれかねない。

 それを英雄連の人間が今必死に抑えている最中らしい。

 復興支援という形で、英雄連の人間がしばらくこの国の総統を代行する形になるだろうが、それはまだ先の話だ。

 「なーにもかも、壊れてしまったわ……」

 ダルマが投げやりに言った。

 この男には珍しく無気力な声であった。

 「人が生きているうちは国は死なない、あんたが護りたかったのは総統府このばしょか? 違うだろうが」

 パンチェッタなりにダルマを励ましているようだった。

 「ま、喧嘩相手ならいつでもやってやるからよ」

 「ぬかせ、ワシにやられた分際で」

 「忘れたねぇ」


 「あーあ、おじさん達またやってるよォ」

 「そんな事より、ガイツさんはどこなのかなァ」

 「ガイツさァーん」

 「ガイツさァーん」 

 ティンクとキャオの声が、瓦礫の山に響いていた。

 

                               ・


 プルシコフは、目の前に立つ男に視線を送っていた。

 「……結局、どうなったんだ?」 

 目の前に立つハヤンは、静かに答えた。

 「全部、終わったんだ……」

 その言葉が全てを物語っていた。

 エクは死に、その力もどこかへ――、いやハヤンの中に溶け込んだ可能性が強い。

 ハヤンはプルシコフに背を向け歩き出した。

 「どこへ行く気だ?」

 「……どこだろうな」

 ハヤンは振り向かずに言った。 

 「正直言ってお前をここで見送る訳にはいかない、お前の力はこの国が大きな代償を払った結果によるものだからな、お前の力さえあればどんな戦争も負けはしないだろう」

 プルシコフが硬い視線と声で言った。

 今にも戦いが始まってしまいそうな緊張感が漂っている。

 それを一歩後ろから隻腕のクァルゴが見ている、戦いが始まったとしても参加する気は皆無のようだ。

 かなりの量の殺気を叩きつけられているにも関わらずハヤンは、それを微風とも感じていない様子だった。

 以前のハヤンならば、多少は反応していたはずだが、まるで別人のようだった。

 ふっ、とプルシコフの殺気が消えた。

 「だが、お前を引き止めるだけの存在がいないのも事実だ……、どこへでも好きな所に行くと良い、安住の地など見つからないだろうがな」

 「知っているよ」

 ハヤンは答えた。

 その言葉は、どれほどの重さを持っているのか。

 人を超えた力を持つハヤン、それを付け狙う存在、あるいは排除しようとする存在はこれからも決して後を絶たないだろう。

 それらとの戦いにはハヤンは勝利するかもしれない、だがハヤンは人としてのどのような幸福も得る事は無い。

 「俺はもう死人なんだ、死人に安住の地など無いんだよ」

  

 「また、どこかで会う事が無いよう祈っているぞ」

 「お元気でェ」

 

 ハヤンは一切振り向かずに歩き出した。

 その眼は死んだ魚のように濁り、その双眸から放たれているのは光ではなかった、あらゆる光を吸い込んでしまいそうな闇を抱えていた。

 ハヤンは歩いていた。


 当て所無い荒野へ向かって。






……


タイトルだけ考えて、後先考えずに小説を書こうとするとどうなるのか分かりました。

反省点ばかりです、細かい描写は全然無いわ、人物については読者様の想像力頼りだわ、物語のストーリーが強引だわ……

まぁキリが無い訳で。

出来ればすぐにでも消してしまいたいですが、戒めとして残しておくつもりです。


次の作品は、楽しんで書きたいと思っております。

出来ればご感想を頂けたら嬉しく思います。


最初から最後まで読んでくれた方、一人でも居たら、心底感謝します。

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