第18話 光と水
海面を利用し、結晶を反射させ当てる作戦はうまく行った。
俺の力は光を物質化する力。
光は水面を一定の角度で全反射する。
その性質を利用した。
意識の外からの攻撃は決まると、一瞬の隙が生まれる。
命のやり取りをする状況ではそれがまさに命取りとなるのだ。
相手の足に俺の投げた結晶の一つが突き刺さる。
重心が崩れ、正中線が乱れる。
ここだ。一気に距離を詰め、光を物質化し、結晶の剣を振り下ろす。
相手は立て直そうとするが、遅い。
ここで決める。
そう思った瞬間、何かが落ちてきた。
なにか黒いものだ。夕暮れで、良く見えなかったが、何かが現れたことは直感的に感じた。
いや、知っているぞ、この形は、AKだ! まずいッ!!
俺は咄嗟に、光の結晶化を解除する。
しかし、振り抜いてしまった。
一瞬、時間が停止する。
なぜ、なぜここに現れた。なぜ。
俺が戦っている相手も、突然のことで、驚いている。
AKを見ると、ぱらりと、制服が、左肩から右の腰に向かって、一直線に、斬れていた。
サーッと血の気が引いていく。俺は、なんてことを。
じわりと、黒い色が白いカッターシャツに広がっていく。夕暮れだから、血が黒く見える。
AK「あ・・・」
AKが声を漏らす。俺はそれを聞いた瞬間、AKの手を掴み、
光の結晶の壁を周囲に出現させる。
一十「うおおおおおおお!!」
巨大な水晶の尖った結晶がいくつも出現し、周囲を山脈のように取り囲む。
一十「大丈夫か!?永!!」
AK「うん・・・大丈夫だよ・・・ちょっと痛いけど・・・少し切れただけだよ。」
体中の力が抜ける。
良かった。良かった。
強くAKを抱きしめる。
AK「一十、痛い。苦しいよ。」
一十「あ、ああ。すまない。なんでここに居るんだ。どうやって。」
AK「貴方の部屋に穴があって、その中に入ったら・・・」
一十「マスターメビウス!!」
メビウス「はいはい~」
一十の体からマスターメビウスの上半身がにょきと生えてくる。
AKがマスターメビウスを見るのは始めてだ。
そのあまりの非現実的光景に、目を丸くしている。
一十「どうなってんだ!」
メビウス「あの穴はすぐに消えるはずなんだが、多分、その女の怨念が、お前に会いたいという怨念が、
影響して消えなかった・・・のかも。」
一十「かもってなんだよ!!お前の魔法だろ!!」
メビウス「人間の思いってのは悪魔の力にも影響を与えることがある。」
一十「・・・傷は治せるか?」
メビウス「関係ないから嫌だ。」
そう言うと、マスターメビウスは俺の体の中に戻った。
一十「AK、大丈夫か?本当に?」
AK「うん。もう血も止まったよ。」
AKの体を見ると、確かに血の滲みは止まっている。
ふーっ。と一つ、息を吐く。
一十「いいか、こっから離れろ。できるだけ。危ないから。」
AK「いやだ。」
俺は思った。このいやだ。は本気だ。何をどう言おうが絶対に変えない。その、いやだ。だ。
時間がない。
一十「わかった。じゃあこの中に居ろ。危ないから出てくるな。」
俺は結晶の壁を飛び越え、砂浜の上に降り立つ。
AKの周り以外の結晶は物質化を解除する。
キラッと結晶が一瞬で光に戻る。
その先に、戦う相手が居た。
相手の名はガラス。八雲ガラス。武士のような出で立ちで袴に着物。髪は後ろで縛っている。
悪魔アモンと契約し、水を操る。
水を刀身にした刀を振るう。
が、今は刀を鞘に収めている。
俺は、ゆっくりと、ガラスに近づく。
一十「なんだ、待っててくれたのか。優しいんだな。」
ガラス「借りを返しただけだ。」
一十「礼をいう。ありがとう。」
俺は光を結晶化し、剣の形を作る。
ガラスの方も、刀身のない柄だけの刀を抜き、水で刀身を作る。
夕焼けが、もうすぐ沈む。
ざざーーん、ざざーん、と、波の打ち返す音が聞こえる。
朝から8時間、いや9時間は戦い続けて来た。
あらゆる手を使った。飛び道具、物量、搦手、手数。
その全てを捌かれたし、その全てを捌いてきた。そのせいでもうボロボロだ。
だが、それも、もう最後だ。
じりじりと距離を詰める。終わらせる気だ。俺も、あいつも。
相手の息づかいが聞こえる。目の動き、肺の動き、筋肉の動きまで見える。
夕暮れで、日は暗いが、見える。生死の狭間の集中力。
潮が満ちてきた。足に波が当たる。
その波が引いた瞬間、
動いた。
先に動いたのはガラス。
上から下に切り落とす。
厄介なのはその速さだ。
刀身が鉄ではなく軽い水で出来ている。
当然鉄の刀身よりも速い。
俺はその初撃を半身になってかわす。
剣で受けることは出来ない。
水、故に、通り抜けてしまうからだ。俺は今日一日そのせいで体中切り刻まれた。
故に初太刀を見切ることは出来るようになった。
問題はここからだ。
腰のあたりまで落ちた切っ先が再び襲いかかる。
切り返しだ。下から上へ、かわすことは出来る。しかし、重心を崩し、反撃できない。
光を物質化し、装甲のように防御しても、反撃できない。
故に、俺は、受ける。
自分の左手に、光の結晶の刃を生み出し、ざくざくと手から腕に突き刺す。
その左手で、刃を直接受ける。
手から手首、腕、肘、二の腕まで一気に切り上がる。
が、止まる。
止まった。
その瞬間、俺は右手で、横薙ぎに剣を振るう。
ガラスの、右腕、胸、左腕が、パックリと、割れる。
そして、血が吹き出した。
どくっ、どくっと、心臓の鼓動と同じリズムで、規則正しく血が噴水のように吹き出す。
ガラス「まだだ。」
ガラスの両腕は、もはや動かない。
しかし水を操る能力。それは、血液も操るということ。
ガラスは吹き出た血液を、集め、固め、鋭い渦の槍を作る。
一十「そう来ると思ったよ。」
俺は剣を振り下ろす。
今度は上から下に、ガラスの体が割ける。
ガラス「見事。」
そう言うと、
体を十字に切り裂かれたガラスは、力を失い、膝をつき、仰向けに倒れた。
そして、俺も、膝をついた。
長かった。余りにも長く戦っていた。
疲れた。
足に当たる波が冷たい。
はーっ、はーっ、と息も絶え絶えに呼吸する。
両腕が疲れでしびれている。
両足はもう感覚がない。
体中切られてズタボロで、痛いのかどうかも分からない。
だが、俺は勝った。生き残った。その実感、高揚感はあった。
心の底、魂の奥底から実感する、勝利という生存の証明。自分自身の証明。
俺は今、生きている。生き残っている。
日が沈み、真っ暗な中、俺は、気持ちよさを感じていた。




