第48話 生徒会への勧誘
「にしてもあれから桜に告白する人が増えたよね」
桜との仲直りがあってから三日ほどたった教室で、千聖が溜め息を吐きながら告げる。確かに指摘したように、桜が以前と違って笑顔見せる光景が見うけられてからかな、話しかける人も増えていた。その状況を思い出しているのだろうか、雫がぷくっと頬を膨らませながら不満げに告げる。
「本当です。桜の雰囲気が柔らかくなったからって、強く言えば可能性があるって下心が見え見えです」
頬を膨らませながら怒る千聖と雫は息が合ったように『はぁ~』と大きな溜息を吐いた。それに苦笑しつつ、彼女達の言葉には納得して頷いてしまう。
確かに最近の桜は周囲から見てもわかるほどに表情が柔らかい。くすくすと笑う姿にはクラスメイトが思わず見惚れ、楽し気に雫達と登校する姿に他学年の人ですら視線で追っていた。
なにより決定的だったのが、以前告白してきた先輩に対して謝ったことがきっかけだろう。どこか目を伏せながら申し訳なさそうにする姿に、先輩自身も目元が優しく、同時に少し邪な気持ちも感じた。
まぁ、それでも再度告白する程度には理性が残っていたようだ。結果的に振られたのに、どこか嬉しそうにしている時は、Mなのかな?って疑ったが違うのは分かる。
桜が罪悪感を感じるほどに真剣に考えてくれている。それが分かったから嬉しいのだろう。自分のことをきちんと見てくれていると伝わるから。だからこそ、彼女に認識されたい人が次々に告白していったわけなんだけどね……。
どこか微笑まし気にその様子を見ていたからだろう、雫と千聖が俺の方を咎めるように見つめてくる。
「連は心配じゃないですか?」
「そうだよ。普通はこういうの止めるべきじゃないの?」
「今回は無理じゃないかな。生徒会の人にも他生徒の意志を尊重するって約束したし」
その言葉を聞いた千聖は俺に対して怒ったように頬を膨らませる。その珍しい姿に他のクラスメイトを釘付けにする中で、彼女はどこかふっと余裕がある笑みを浮かべた。急な態度の変化に思わず怪訝な表情になる中で、彼女が口を開いた。どこか揶揄うように
「あの、『俺に叶えられることなら、どんなことでもきくよ』って言ってのは嘘だったの?」
「ぶふっ……ごほっ……ごほっ……」
凄い決め顔でかつ、あまりにも俺に似せた物言いに、黒歴史を掘り返されて思わず咳き込んでしまう。呼吸が乱れる中で見た彼女のドヤ顔に、悔しさを感じつつ、恥ずかしさから自身でも赤面してしまうのが分かる。きっと咎める視線を千聖に送るも彼女はまるで気にしないように受け流していた。
というか、桜の方も被弾を喰らっているのか、赤面している。きっと過去の自分の態度を思い出して恥ずかしくなっているのだろう。それが今は、すっごく分かる。
「あれは、桜が他の人と関わらない前提での話で……周囲から受け入れられる今なら難しいって話。むしろ、今は他学年の生徒にも受け入れらているんだからいい傾向だと思うけど」
「そういうことね。私も桜の行動を制限したくはないから賛成だけど……納得はいかない」
すぐに俺に意図を察してくれたのだろう。桜への告白を制限するというのは先輩からも睨まれる可能性が高くなる。それは桜の為にならないと理解してくれたようだ。
ただ、散々冷たい視線を向けていた相手が好意的に接するのが彼女には許せないようで、ムッとした表情を彼女はしていた。その姿にやっぱり千聖は桜のことがホントに好きなんだなと、どこか温かい気持ちになる。
頬を膨らませていた彼女は、ふと何かを思いついたように俺の方を勢いよく向く。
「そうだ、なら、牽制のために桜と一緒に登校すればいいじゃない。隣の駅なんだから」
「えっ……」
その言葉に俺は驚いて桜の方を見つめてしまう。だって、あの時家は近くないって言ってたから。てっきり、俺よりずっと先の駅かと思っていたから。
桜の方をみると、申し訳なさそうに俯いていた。しゅんと肩を落としながら、目に涙を浮かべそうなほど反省しており、その原因を作った俺を咎める、というより軽蔑に近い視線を送る二人の視線が突き刺さる。
俺はできるだけ穏やかな笑みを作りつつ、口を開く。
「ならさ、一緒に明日から登校しない。もちろん、桜が良かったらだけど」
桜は驚いたように目を丸くしつつ、言葉の意味を理解したのだろう。
「いいの?」
ぱぁ~っと表情を明るくしながら前のめりで俺の方に距離を縮めてくる。顔が近い、目がぱっちりしているというか、肌きめ細かだな。なんて、少し見惚れつつ、なんとか答える。
「もちろん。まぁ有明も一緒に登校することになるけどね」
「うん、もちろんだよ。連、ありがとう!」
なんて、ものすっごく嬉しそうに桜は笑う。太陽のように眩しい笑顔に焼かれ千聖は倒れ込むように隣にいた綾瀬さんに寄りかかり。雫もまた、両手を合わせて拝んでいた。いや、神様みたいになっているじゃん。
桜教という新たなものが誕生を目にして、俺は乾いた笑みを浮かべてしまう。まぁ、当の本人は困惑したように慌てて何かしたのか不安になっているからこそ、その純粋さに彼女たちが惚れこんだのだろうと少し納得は出来るのだった。
***
その日の昼休み。他学年の生徒から桜が受け入れられるそのきっかけを作ってくれた人物。生徒会長の香坂結衣先輩から呼び出したがあった。
「お久しぶりですね、鏡君」
三日ぶりにあった彼女はどこか穏やかな表情で俺を見つめる。以前よりも優し気な気がしてどうしてかな少し戸惑ってしまう。それでもと、
「はい。改めて今回の件ありがとうございました、香坂先輩。おかげで桜がこの学校に馴染むことができています」
仲直りできた日にメールでお礼を伝えてはいる。それでもあったら再度告げようと思っていた。中庭から春の温かな光が差し込み香坂先輩の顔を照らす。ここが教職員室に近く人通りが少ないところでなければ、彼女に見惚れている人が出ているだろう。それくらいに笑みを深めた彼女は綺麗だった。
「それは皆さんが頑張ったからですよ」
「それなら嬉しいです」
俺の事を見つめる彼女はふふっと親しみのある笑みを浮かべ、優し気な声で続ける。
「それにしても学園雰囲気が少し変わりましたね。桜さんを中心として、どこか温かな感じになりました……まぁ、浮かれているともいえますけど」
相変わらずの優し気な笑みを浮かべながら彼女はくすくすと笑う。茶色の髪を揺らす彼女はどこか毛布やブランケットと言った温かく、心を包み込むような印象をいだく。こういうところが生徒の信頼を集めるのだろうか?そんなことをつい思った。
「仕方ないと思いますよ。綺麗な女性の雰囲気が柔らかくなったら、もしかして自分にもチャンスがあるのかもって思う人も多い筈です。今みたいに」
俺は口にしながら目の前の中庭に目を向ける。そこには一人の男子生徒と、桜の姿があった。大きな樹の下で、男子の方が頭を下げて何かをお願いしている。それに桜が申し訳なさそうに頭を下げていた。
近くにはもちろん、雫と千聖の姿もあり。どこか安心感を抱く。二人がいれば安心だろうと、つい笑みを零すと香坂先輩が俺の方を驚いたように目を丸くして見つめていた。
「あなたは嫌じゃないのですか?彼女が告白されて」
純粋な疑問なのだろう。他意はないその視線に苦笑しつつ答える。
「むしろ嬉しいことですよ。桜が周囲に受け容れられているってことですからね」
「そうですか……」
その言葉を受けて香坂先輩はどこか嬉しそうに頬を緩めていた。
「どうやらあなたは私たちが見込んだ通りの人でしたね」
満足そうに頷く彼女は俺の方に身体を向けて、真剣な表情に戻る。それに対し俺もまた彼女の方へと向き直った。
「以前あなたは何でも一つお願いを聞くと言いましたね」
「はい。どんな内容でも俺に出来る範囲なら必ず成し遂げます」
「分かりました。では告げます」
彼女はふっと笑みを零しながら俺の方へ手を指し伸ばした。
「私達生徒会への加入。それがお願いです!」
今年中に入る準備をしていた生徒会に、俺は向こうからの勧誘を受けるのだった。




