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第34話 周囲を巻き込んで②

生徒会室の前へ立つ。他の教室とは違い扉が木製で出来ているだろうかな。少し荘厳な感じがして少し緊張する。肩に力が入っていることを自覚した俺は一度深呼吸して、扉をノックした。


——コンコンッ。


「はい、どうぞ」


中から聞こえてくる柔らかい声に合わせて入室する。扉を開いた瞬間、目に映るのは想定よりも大きな部屋だった。校長室くらいあるだろう、幅の広い部屋。その奥に荘厳な天然木で作れた机があり、そこに生徒会長が座っていた。


以前みた彼女は物腰の柔らかな印象だったが、今日は威厳を感じる。それに思わず気を引き締められる。流石、この学校で姫と呼ばれる存在だと。


「君はあの時の」


会長は俺のことを認識すると、少し驚いたように目を大きく見開く。その反応に俺の方も驚きの声を上げてしまう。


「覚えてくれていたんですか?」

「えぇ、二人だけ楽しそうに競技をこなしているんですもの。不思議と目につきました。……それで、こんな場所にはどのような要件で?」


肩の力を抜き、軽い調子で尋ねてくる。けれど、真っ直ぐ向けられた瞳の生かな。どこか、試されているのが分かる。それは目の前の生徒会長だけではなく、例の双子の薄っすらとした笑みからも感じる。


「新入生への告白を、少し控えていただきたいんです」


生徒会長の眉がわずかに動く。


「具体的には?」


口調では穏やかである物の視線の奥に光が灯る。俺を見定めるように。その視線に気圧されることなく俺は変わらず自然体のまま答える。


「中間考査が終わるまでの間です」

「理由を聞いてもいいかしら?」


矢継ぎ早に聞いてくるあたり、こちらに素の答えを欲しがってるようなが気がした。だから素直に返答する。


「主席合格した生徒が、かなり大変そうにしてるんです」


そう答えるけれど、彼女は納得しない。俺の発言が、恋愛感情として彼女を独占したいのか、それとも別の理由なのか探っている気がする。だから、俺も少し息を吐き再度、肩の力を抜いて応じる。


「学生の本分が勉強だと言うなら、その子が“勉強したい”って思ってる意思も、尊重してあげてほしいんです。せめて、学校に慣れるまでは」


一瞬、静かになる。双子の方も笑みを引っ込めていた。やがて、生徒会長がゆっくり口を開く。


「……言いたいことは分かります」


でも、と。


「私たちは、当人たちの意思を止める立場でもないんです」


当然の意見だった。だから俺は頷く。


「はい。だから、お願いです。もし中間考査まで待ってくれるなら、自分にできることなら、一つ何でも手伝います」

「へぇ?」

「何でもねぇ」


双子が面白そうに身を乗り出す。それを視線で咎めた生徒会長が俺に改めて尋ねる。


「例えばどんなこと?」

「そうですね」


俺は少し考えてから答えた。


「例えば、生徒会の仕事を一ヶ月分、代理でこなすとか」


その言葉を告げた瞬間、先程までどこか悪戯心を持っていた双子を含めて敵意を向けるられる。生徒会長の方も、スッと目を大きく開き、視線が細くなった。


「……随分簡単にいいますね」


先程よりも低い声で俺を威圧するように告げる。自分たちが侮られているように感じたのか、それとも生徒会のメンバーを侮るような発言に怒ったのか。恐らく後者だろう、彼女はきっと大切な人を傷つけられる人のほうが嫌だから。


生徒会長が鋭く細めた目でこちらを見る。


「簡単じゃないってもちろん分かっています。うちの担任を通して、どんな書類を作っているかも知ってますので、俺も一人じゃ出来ないことは理解しています」


担任はまるでこうなることを想定していたのだろうか?今まで手伝ってきた作業の大半は生徒会の補助的なものだった。それに昨日他にどんなことをしているか聞いたら嬉々として教えてくれた。


「担任である松坂先生の手伝いで、書類のホチキス止めとかやったことあるので一応、レイアウトとか、書類作成の流れもある程度は理解してます。もちろん、来月を仮定しての内容を一部分は作ったので見て貰えますか?」


その言葉に、生徒会長の目が少し変わった。細められていた目が柔らかく丸いものへと変わる。態度の方も肩の力を抜き、自然に右手をこちらに差し出した。


「折角だから見せてもらおうかしら」


なんて、優しい口調で告げる彼女に、持って来た資料を渡す。受け取った彼女は、上から順に目を通していく。ページを捲っていき、続くものを見る中で、改善案まで目を通す。もちろん最低であろう5パターンを昨日義妹に協力して作っている。


通常の人より3倍は速いだろう。サッと全部に目を通した彼女からふっと笑みが零れる。


「……なるほど」


興味。観察。値踏み。その全部が混ざった視線を俺に向ける。一身に受け続ける俺は、逃げないようにじっと見つめ返すこと数秒。彼女は椅子を引いて立ち上がった。そうして机を周り込むようにして俺の前までくる。


「わかりました。貴方の提案に乗りましょう」

「会長?」


どこか温かな目で俺を見つめる会長に対し、双子が驚いたように声を上げる。その問いかけに応えるように、会長は続ける。


「ちょうど、一回クールダウンは必要だと思ってたの。先輩としての規律は必要だしね。でも私達だけで足りると思う?一般の生徒は抑え込めても、部活動の方は……」

「それも先輩の友人に頼れば可能でしょう。けど、それは流石に頼り過ぎだと思うので、野球部のキャプテンに頼る予定です。俺にも頼れる友人がいるんですよ」

「ふふっ……そうですか」


楽しそうに肩を震わせる彼女は以前見た、どこか周囲を温かく包むような雰囲気を携えている。ひとしきり、笑った彼女は穏やかな口調で問いかけてくる。まるで友人に接するような距離感で。


「そうまでするのは、彼女が好きだから?」

「いえ、矜持……もしくは意地。それと友達だから一人にさせたくないんですよ」

「ふふっ、そうですか」


そう告げると生徒会長は笑みを深め、双子の方はどこか温かい目で俺の事を見つめてくる。素直じゃないとでも思われているのだろうか?一応は本心なんだけどね……。


「安心して、鏡君。君の想定以上の結果を出してあげるから」

「もちろん、私たちも協力するよ。1ヵ月サボれるのはデカいしね」

「まぁ、会長も乗るしね」


なんて想定上の返答が返ってくる。3年生と2年生のトップに君臨する彼女達に協力して貰えてるだ。ひとまずは彼女にちょっかいを出す人は少ないだろう。同級生に関しては、白峰さんの方が色々と手を回しているのを把握している。だからそこは安心して大丈夫だろうと安心していた。


俺は生徒会長たちにお礼を告げて、部屋を出た。ようやく緊張感から解放されたせいかな、少し息を吐いて心を落ち着ける。教室に戻るまでの間で考えるのは、どうか今日の対応が無駄に終わって欲しいということだった。


教室に戻ったら、以前みたいに千夏と雫と夢咲さん。三人が笑っていたらって、彼女の心を溶かしてくれたらって願う自分がいる。もちろん、可能性が低いことは分かっている。夢咲さんは意志が強いから。きっと一度決めたことを撤回しない。


それを美しいことだと思う自分が確かにいる。俺にはない強さだから。それでも、三人が笑っている姿を見たいと思ってしまうのだった

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