プロローグ:冬日の誓い
義妹と出会った日のことを、ふと夢に見る。誰も居ない公園で、ひっそりと隠れるように、コンクリート作られた半休ドームに座っていた少女の姿が目の前に映し出される。ボーイッシュ風のパンツスタイル。ベージュ色のズボンに黒いインナーとジャケットを着た少女。その足元には女の子らしいおしゃれな黒いブーツが見えた。
僕が近づいていくと、気配を感じたのだろう。怯えるように身を縮こませて奥に身体を押し進めて隠れようとする。そんな少女の姿に、出会った時は罪悪感を感じていたっけ。迷子になっているとしても引き返した方がいいのかな?なんて思ったくらいだ。
けれど、彼女のお母さんであろう人が必死に探していた様子をしっているから、俺は一歩踏みだしたんだ。たとえ、警戒されているとしても、一歩ずつ踏み出した。
義妹の方も逃げられないと観念したのだろう。怯えた様子を見せないように、俺の方をじっと睨み付けて、強がっていた。それでも、身体は少し震えていて、瞳の奥には、怯えた感情が見えた。
少女を見つけた時の感情は、怖がらせてしまって申し訳ないという想いと、ただただ、美しいという感嘆の気持ちだった。小さく丸まった姿、つぶらな青い瞳、天使かと思うほどあどけなく美しい姿に俺は見惚れていた。
何も話さない俺を不振がるように、少女は見つめいた。睨んでも逃げ出さい相手に観念したように、恐る恐る尋ねてくる。
「あなたは、だれ?」
俺はもちろん、怯えさせるつもりはなくて、慌てて応える。安心させるために、どうしてここに俺がいるのかという理由も含めて告げた。
「僕は、鏡 連っていうんだ。迷子になった女の子を探すお母さんがいて、その子を見つけなきゃって思ってここをさがしてた。……もしかして、きみがそう?」
少女はふるふると振って否定する。
「ちがう。あっち行って」
俺を急かすように、強い口調で否定する。一刻でもこの場から去って欲しいと、声が空気ごと切り裂くような声を少女は発した。
「……そっか」
なんて、あの時の俺は、困り果てていたっけ。だって、その母親が探している特徴にぴったりの少女だったから。
腰まで伸びた綺麗な銀色の髪。澄んだ空の様に透き通った、青く透明な瞳。そして、ボーイッシュ名服装に身を包んだ少女。
そんな子は、ここに来るまでに誰一人としてすれ違ってもいなくて。なにより、4歳という。自分より下の年齢に見えるこの子が、目的の少女だと直観的に感じた。
その少女が今はじっとこの場から動こうともしない。冬の寒さに唇が少し青紫色に変化して寒そうにしているのに。それでもこの場から動こうともしなかった。
その様子をみて、一つの予測が思い浮かぶ。もしかして、この場所にいるのは目的の場所が分からないからじゃないかって。そんな風に考えて、出来るだけの情報を伝えるようにしたんだっけ。
「実は僕、初めてこの場所に来たんだ。迷子を捜すお母さんが、中央通りいて、そこからここまで来たんだけど。帰り道が分からなくなっちゃって。もし、戻り方わかったら教えてくれる?」
少女が戻るべき場所を告げる。お母さんがいる場所がわかれば、少しは安心するだろうと。それが少女の助けになると思ったのだが、少女はその言葉を受け取ると、ハッとしたように、何かに気付き狼狽えた。俺が問いかけた質問に答える余裕もないほどに。顔が青ざめていくのが分かった。
その姿に胸が締め付けられる。悲しい顔をさせてしまったと。そんなつもりで行ったんじゃないと。必死に弁解したくなる。だって、少女は自分でお母さんの元から抜け出した風の言い方だったから勘違いしていたんだ。
少女は、戻る方法が分からないのだろう。母親に、もう会えないかもしれないって不安になったのか。目に涙を浮かべて少し俯く。
そんな悲しい表情をこれ以上見たくなくて、俺はスマホをスッと取り出し、操作して告げる。
「もし君も分からないなら、僕のスマホをつかってよ。行き先を設定するから」
俺は焦ったように操作しつつ、どこかたどたどしい、覚束ない様子で操作をする。そうして、いつもより時間が掛かりながらも、歩くルートを表示させることに成功した。それにホッと胸をなで下ろした。
「スマホはここに置いていく。必要ないかもしれないけれど、一応ね。もし使ったら、交番まで届けてほしい」
子供ながらに強引な決めつけだったと思う。なるべく目の前の子を怖がらせたくなくて、少女と目を合わせないようにしながら、そっと地面にスマホを置いた。この子の力になりたいって思ったから。
スマホを地面に置いた僕は、立ち去ろうと、後ろを振り返る。背を向けて走り出そうと決めたときだった。ふと、少女から声が掛かる。
「お母さん……なんて言ってたの?」
「えっ?」
思わず、振り返った先。俺の方を不安げな表情で見上げる少女の姿が視界に入る。自分の行動に後悔をしているんだろう。下唇をぎゅっと噛みながら、目を潤ませている。
俺は、不安にさせないように、微笑みながら伝えた。
「うちの子がいなくなってしまいました、私のせいですって。すごく泣きそうな顔で、君みたいな女の子の特徴を話してた」
その言葉に、俺のことを目を見開いて見つめた。その言葉が本当であるか探るように。そして、何かを感じ取ったのだろう。ふっと、柔らかい笑みを浮かべた。
あの時にはもう。俺は義妹の虜だったんだろうな……。胸に温かい気持ちを感じるとともに、絶対に守るべき対象だと胸に刻んでいた。そうして、少女は立ち上がると、おしりの埃を払って言ったんだ。
「教えてくれて、ありがとう。……それと、案内おねがいしてもいい?」
「もちろん」
その瞬間が、俺を始めて義妹が頼ってくれた時のことだった。
それから父親と再会して、真っ先に怒られたっけ。お前まで迷子になってどうするんだって。でも、よくやったなとも褒めてくれたんだ。
その子がまさか、俺の義妹になるなんて当時は思っていなかったし、まさか父を待っている間に、子供を必死に探す人が父の再婚して母になる人だなんて想像できるはずもなかった。
でも俺が必死に義妹を探したことを知って、すぐに信頼を得れたのはある種、運命みたいなものだったのかもしれない。
義妹の方は、俺がお兄ちゃんになるって知って、驚いていたっけ。けれど、恥ずかしがりながらもよろしくって言ってくれた時は心臓が止まったと錯覚するほど嬉しかったのを覚えている。
あの時に誓ったんだ。生涯をとして、義妹を守れるように。なにより、誇れる義兄でいられるようにしようって。




